8.あまいのにひどいジョシュア様(雇い主)
ジョシュアは腕の中で、大人しくなったリリアを抱いて、雑念を追い払うことに集中する羽目になった。本日のターゲットはとある貴族の男性。そして、その隣に座っている女性はどのような人物かを見極めることだ。
貴族の男性はきっちりとタイピンをとめて、お堅いファッションであるが、隣にすわる女性はいかにも、男遊びに慣れているとうかがえる余裕の笑みを浮かべた美女だ。
豊満な肉体を引き立てる胸の谷間には大粒のダイヤモンドが流れ落ちるようにきらめき、くびれた腰から見事な曲線美を描くヒップと太ももが浮き上がってみえるようだ。動くたびにまとわりつくベロア生地でできたドレスは、彼女のみえない部分まで想像させる。
甘えるようなしぐさで、隙をみせない男性のふとももや胸に手をそわせながら、胸をおしつけつつ、何やらあまくささやいているようだ。おもむろに、男性は、己の太ももをはっていたベロアの女の手を取ると、観劇など眼中にないという風に二人で、席を後にした―――。
「リリア、少し休憩しようか」ジョシュア様はわたしを名残惜しそうに話すと、影のある微笑みでわたしをいざなう。
ようやく解放されて、ほっと一息をついたのもつかの間、ジョシュア様は幕間の合図を聞いて、わたしをボックス席から連れ出した。
(どこへいくのかしら?)
エスコートされながら、廊下をたくさんの恋人達、もしくは愛人とおぼしき女性を連れた男性、夫婦とおぼしき男女の群れをかいくぐり、ぐいぐいと廊下を押し進む。
(ええ!なんだか、かなり奥の方に来ている。ここは楽屋のある方向じゃないの?)
「あ、あの?ジョシュア様、こちらは関係者の立ち入りはダメなのではなくて?」あせって、止めようとするも、ジョシュア様とまってくれない。すると、急に、ある扉の前でとまった。
廊下に人がいないのをすばやく見て取ると廊下から扉に聞き耳を立てている。その間、わたしも道連れになって、扉のに押し付けられた格好で、前が見えない。胸板が頬にあたって、どきまぎしてしまう。
あせって、声を出そうとするも、ジョシュア様の張りつめた空気から、何かを察する。
扉の奥から、男女の声が聞こえる。かなり、大きな声でののしりあっているようで、痴情のもつれからくる、あれであろうか。
何かを投げつけた音がしたかと思うと、こちらに向かって、どしどしと歩いてくる気配がした。
ジョシュア様はさっと身をひるがえしたついでに、わたしもくるりと抱き留めて、またしても壁に押さえつけて、耳元にささやく。
「僕の愛しい人。今夜こそ、君をうばいたい」
わたしは、ジョシュア様の甘い声と隣を大股でずんずんと進んでいく男性の足音、後を追いかける女性のヒール音を聞きながら、今、いったい、わたしはどうなっているんだろうか?と目まぐるしく頭を回転させた。
「ちょうどいいね、この部屋にしよう」
すると、先ほど、痴情のもつれからか出ていった部屋に私をあっさりと連れ込んで、カギをしめた。
(――――ななななんてことっ。未婚の男女のすることではない。ああ、わたしの幸せな結婚はいったいどこへ)
「君はここで、待っていてくれる?」ジョシュア様はさきほどの熱演はどこ吹く風で、私をソファに座らせると、部屋をくまなく探しまわる。そして、「あったあった!これで、君とのデートを再開できるね」とウィンクをよこした。手には、怪しげな瓶をもって・・・。
瓶を懐に大事そうにしまうと、わたしの方へ向き直り、「すぐに出ていくと、疑われるから、ちょっとだけ・・・」といいつつ、わたしをソファに押し倒した。
な、なにが、ちょっとだけ?!これじゃあ、本当の恋人、それも婚約してもいないのに不潔だわっ!
わたしは、演技を忘れそうになって足をふりあげようとした。
その時、廊下を駆け抜けるヒール音がして、急にドアノブを回す音がした。
ガチャガチャ
(ひぃ―――こんなところをみられたらおしまいだわ)
わたしは、真っ赤になったり、真っ青になったりで忙しい。
しかし、ジョシュア様は冷静で、
「ああ、きみはもうこんなところまで、僕のとりこなんだね。ほら、やさしくするから、足を開いて」とのたまった。
「あ、あ、うそ、―――っう、ひぅ」
わたしは半泣きである。彼の手が、背中を撫でまわしていく。ソファに押し付けられた背中は反り返って、彼の手が往復するのにびくびくとはねる。
「ほら、もう少しだけ。ね、僕に任せて」
「っ!ふゎっあっ!」
わたしのおしりにまで、彼の手が伸びてきて、おもわず、体をひねって逃げようとするも、ドレスのすそを彼の足が押さえつけていて、逃れられない。
そうこうするうちに、ヒールの音が、遠ざかっていき。―――ようやく、私は息を再開した。
どっと疲れて、ソファに全体重を預ける。恨みがましい目で、ジョシュア様を見上げて、
「もう!ひどいですわ!わたくし、そこまで、されるなんてっ。ジョシュア様のばか――――ッ!」と、彼を押しかえす。
「え?君もまんざらじゃなかったよね。うん、その涙目もそそるなぁ。このまま、やっちゃってもいいかも」と悪魔の声がする。
わたしは必至に抵抗して、「ほら、わたくし、劇の続きをみたいですわっ。早くどいてくださいまし」と、せっついて、ようやくジョシュア様は私から離れてくれた。
崩れた髪を手直しすると、ジョシュア様をおいて部屋を出ようとして、つかまった。
「まって、ここがまだほつれてる」
さっと手でなでつけると、わざとか、耳を手がかすめ、首筋から胸の方へなでていく。
「っ!もう、どこ触っているのですか。ほら、早く参りましょう」
わたしは、もう、怒りやら恥ずかしいやら、感情はごちゃまぜで、勢いにまかせて、扉を開いた。
(もう!エスコートなんて、いらないわよ!)
なんだか、私たちのほうが、痴情のもつれで別かれそうなカップルにみえなくもない・・・。
◇◇◇
ああ、昨晩の観劇はひどかった。
わたしのうららかな少女時代はおわったのだわ。ベッド上でずーんと重い空気につつまれた飼い主をみて、びみゃーとミシィがなぐさめてくれる。尻尾をわたしにまとわりつかせて、必死になめてくれているのが、切ない。
観劇は、あのあとも最後まで観れて、素晴らしいフィナーレに感動したけれど、わたしはいやらしい上司の演技に振り回されっぱなしで、なにやら、わたしのはじめてをいろいろうばわれてしまったようで、いたたまれなかった。
(おもいだすと恥ずかしくて、たまらない)
ジョシュア様の手の感触を思い出すだけで、体が熱くなって、息がくるしい。
布団に潜り込んで、ミシィと丸くなって、ふて寝した。
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