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きらめきの乙女は闇に抱かれる  作者: ももんが☆


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5.紅茶館はあらたなるお仕事のはじまり


―――デビュタントは成功した。と、後から、紅茶館にきたジョシュア様に伺った。わたしは、お見送りした日を最後に侍女を辞めていたから、カーラ様のその後は知らなかったのだ。


ジョシュア様は話さなかったけれど、カーラお嬢様は幾人もの方からお誘いをいただいて、ダンスを踊っただろう。―――それは、本人のあずかり知らぬところで、親たちが画策しているものだけれど・・・。


(カーラお嬢様はたくさん練習したもの・・・、きっとダンスをいっぱいおどって楽しんで、お過ごしになられたはずよ)


『リリアはわたしのおともだちよ』


カーラお嬢様の明るい声とふんわり笑った声を懐かしく思い出して、わたしはこっそり微笑んだ。とても、いい思い出になったわ・・・、デビュタントは一生に一回、それも王宮にお招きされるのはごく一部なのだから。


「なんだか、うれしそうだね。でも、僕と一緒に参加できなくて残念だったんじゃないの?」ジョシュア様は心にもないことを、わたしに向かって言って、にやりとする。わたしのような下町暮らしは一生、王宮のデビュタントには用がないのにだ。

 

ぷくっとふくれて、ジョシュア様を上目遣いに、にらむ。


はははは、と軽く笑って、受け流す美声には、裏表が感じられない。

  

けれど、このジョシュア様はよめない。


デビュタントの参加者のリストを頼まれていたけれど、それが、この方の本当の目的だったのかしら・・・。彼が本当は何を目的にルロイド邸に出入りしていたのか、どうやって取り入ったのかとか、いろいろ疑問はつきない。


でも、あまり、詮索するのは、怖いし・・・、ま、お給金がいただければ、それでいいわね―――。



「お嬢様はもちろん楽しまれていたのでしょう?―――ジョシュア様はいかがでしたか?デビュタント・・・、さぞかし、おもてになったのでは?」

いたずらな目で、仕返しをする。きっと、いっぱいダンスを申し込まれて、にやにやしていたに違いない。もしくは、ひっきりなしに、ご令嬢方と踊りつづけて、へとへとになったとか・・・?


「あれ、僕の心配をしてくれるの?―――それはうれしいな。もしかしてヤキモチ?」

涼し気な眼もとで、さわやかな笑顔、これで手をつなぎながら、ささやかれたら、普通の少女はイチコロだろう。

わたしは、目を伏せて、恥ずかし気な様子をつくって「そうですわね。もし、あなたと踊ったら、さぞ、ご令嬢方からの視線が痛かったでしょうね」とチクリと言葉をあわせた。


「リリアとなら、何回でもダンスを申し込むよ」

きらりと光る眼は獲物をとらえるのと同じかがやきをもって底光りしている。それにさっきから、わたしの唇を熱いまなざしで、狙っているような・・・。


ぞわっと背中があわだつ。


―――この男は猛獣なのだろうか・・・。


「いやですわ!ジョシュア様とデビュタントで何回も踊ったら、わたくし、あなたと結婚しなくてはなりませんもの!」すばやく手を引き抜いて、「それは困りますものね」と口にクッキーをさくっとほおばって、もぐもぐする。


(ああ、このクッキーは本当においしいわ!)


ちょっとすねた令嬢をまねて、あごをそらして、わざと、―――流し目をした。


ジョシュア様は目を丸くして、ぶっと噴き出した。 


な、なんてことかしら、わたしの令嬢ごっこを笑われているのかしら・・・恥ずかしさと怒りに方がふるえる。

ルロイド邸では見られなかった彼のリラックスした様子は私といる時だけなのかしら・・・。



こうやって、紅茶館ではジョシュア様とたわいのないお話しをして、お茶をするだけなのだが、周囲のご令嬢からのやっかみの視線がいたい。もう、わたしが、お手洗いに立ったりした日には、わたしの戻る席はなくなっているとおもって正解だろう。


―――いや、願ったりかなったりだろうか・・・。わたしにっとって、ジョシュア様はどうにも、うさんくさい男なのだから。



◇◇◇


ジョシュア様と出会った頃に着ていた男装用の服は自宅で眠っている。


はじめて、ジョシュア様とハムサンドを食べた紅茶館はもっと庶民的で、少年の格好をしたわたしでも気にしていなかったのだけれど、今、良く出向くこの紅茶館は中流階級向けでいろんな意味で浮いてしまう・・・。


「リリア!いっしょに紅茶飲もうよ」とお誘いしてきた彼に、わたしはすかさず、「この格好では、ちょっと・・・」とお断りしようとしたら、彼から、なぜかサイズぴったりのドレスを贈られてしまった。うれしいけれど、複雑だ。


よっぽど、男同士でお茶するのがいやっだのだろうか・・・。


それで、紅茶館で会うのは仕事の一環ということにして、贈られたドレスを着て来ている。一昔前のデザインだが、ここはそんな上流階級のお嬢様たちが集う場所でもないので、そのチョイスがぴったりなのだ。

今は流行りのシフォンの軽いドレスではなく、青みがかった光沢のある生地は、ちょとした高級感がありながらも、ドレープは控えめで清楚、そして、―――なにより動きやすくていい。


 

満席の店内では、優雅なひとときを味わいに来るお客でいっぱいだ。

使い込まれて飴色になった丸いテーブルには、リネンがかけられ、窓からは通りを行きかう人々が見える。


わたしはうっとりとスコーンをほおばる。アプリコットのジャムにクリームをあわせて食べると、口の中が幸せでいっぱいになる。


ちょっとだけ持って帰れないかしら・・・。


頬杖をついてわたしを見つめている雇い主と目が合って、わたしはむせた。

 

な、なんて色気のある目なのだ。苦しいのと恥ずかしいので、わたしは真っ赤になって、紅茶を飲みほした。 



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