4.デビュタントはジョシュア様と
誘いをかけたリリアは素直に応じてくれた。まぁ、これは普通の反応だ。
僕はかなりの率で、女性受けがいいことを知っていた。
しかし、彼女といると落ち着かなった。僕の特性のスマイルも彼女の心から心酔させることはできなかったのだ。
表向きは、照れた様子で、はにかんだ姿が年相応なのに、なんだか、熱量を感じないのだ。
僕は訓練された人間だ。だから、彼女が照れたふりを完璧に演じていることに気が付いてしまい、内心では恐れおののいた。
プロの女優でもこうはいかない。彼女はもしかして、ーーー天才なのでは・・・。
こうして、潜入先で、メイドの服をきて、お嬢様を送り出すお辞儀、たわいのないおしゃべり、ティーセットの下げ方をみても、下町にいるべき娘ではない。もっと大きなお屋敷にいてもおかしくない完璧なマナーを持っている。
でも、それをカーラには気取られないように、あえて、そそかっしい演技を加えている。実はできることを自然にかくしているのだ。
―――僕は、リリアから目を離せないことに、若干のいらだちを覚えていた。
◇◇◇
デビュタントの当日、館の前には見送りの者達が居並ぶ中、王宮行きの馬車がルロイド邸の堅牢な門の前に止まっている。
一番星が空に輝きを増し、王都には夜が訪れようとしていた。
王都のなかでも指折りの大きさを誇るルロイド邸の中庭には、ランプの光に照らされて、ぼんやりと人のシルエットをうかびあがらせる。
星のように光をはなつのは、本日の主役、カーラお嬢様だ。
(うん、素晴らしい出来だわ!)
ビジューが輝くまっしろなドレスをまっとったカーラ様は少し大人びた印象のメイクを施され、しっとりとした美しさをまとっている。
ご両親から贈られたのは、今王都で流行中のデザイナーが仕立てた軽いシフォンのドレス。ふんわりとすそが広がって、カーラお嬢様のかわいらしさを引き立ており、初々しい装いだ。
(わたしも、お嬢様とデビュタントにいってみたかったかも・・・)
ちらりと、どうしようもない考えが浮かぶが、笑顔のカーラお嬢様をみていると、そんなことはどうでもよくなった。
一緒にダンスの練習をしたり、お嬢様のお友達がどんな風にみんなを笑わせるのか、だとか、学院に通われている、誰それが、今年一番のモテ美男子だとか・・・他愛のないおしゃべりは、とても楽しくて、ジョシュア様から伺っていたお仕事の内容を忘れるぐらいにはのめりこんでいたと思う。
お嬢様は誰とでもすぐにお友達になる方らしく、出会ってすぐのわたしもお友達認定されてしまったくらいだ。
そのおかげで、わたしとカーラお嬢様はデビュタントごっこにはまり、わたしはエスコート役のジョシュア様をまねて、お嬢様とダンスしたり、はたまた、お嬢様にお声がけしてきた、別の貴公子役をこなしてみたり・・・。はては、お嬢様とライバル関係にある方の物まねをして、撃退してくるお嬢様に目を丸くしたり―――。
もちろん、今年、参加されるお嬢様方はすべて把握済みだ。
ジョシュア様からわたしに依頼された「今年のデビュタントに参加するお嬢様のリストをつくる」という、お仕事はすでに完了しており、本日付けで、わたしはお嬢様とお別れして、わたしは里に帰る、という筋書きになっている。
すこしさみしいけれど、貴族のお嬢様と下町暮らしのわたしでは釣り合わない。
せっかくお友達になれたのに、かりそめの関係だったのかとさびしさに心がきゅっとなる。
それにしても、ルロイド家は高位貴族なのに、ジョシュア様のコネの力は、ちょっと異常よね・・・。どうやって、エスコート役をもぎとったのか、怖くて、それは聞いていない―――。
(そうよ、これで、お嬢様とわたしはこれっきりなのに、笑顔でお見送りなくっちゃ!)
わたしは寂しさを振り切るべく、お嬢様に向かって、微笑んだ。
たくさん練習したし、カーラお嬢様の魅力はジョシュア様が引き出してくれるはず・・・。嬉しそうに目を輝かせているお嬢様はとても魅力的で、男ならほおっておかないだろう。
(うんーーー、これなら、お相手は引く手数多よ!)
わたしは、お嬢様のをエスコートする背の高いジョシュア様に視線が吸い寄せられる。彼はどこからみても、すばらしく目立つ。
神話の男神が舞い降りてきたかのようで、麗しい立ち姿は、はっとするほど美しい。
けれど、紅茶館でみるジョシュア様とはかけ離れていて複雑だ。ジョシュア様はわたしを見る時には動物か何かを観察するようにしか見ないのに、カーラお嬢様には流し目をして、お嬢様を真っ赤にさせている。
お嬢様にかける甘い声は、色気に拍車がかかっていて、どうみても別人だ・・・。
詐欺師なのかしら・・・。
ルロイド邸のご婦人、侍女、見送りに来た男たちにすら、羨望のまなざしをあつめるジョシュア様。誰もが、彼の一挙手一投足に目が離せないのだ。
剣士としても相当使い手なのではないだろうか。身のさばき方や目のおくり方が尋常じゃない。
(ジョシュア様はいったい・・・、剣士でもなさそうだけれど、ただの貴族にもみえないし・・・)
「それでは、いってまいります。さぁ、カーラお嬢様、まいりましょう」
ちんまりとつかまったカーラお嬢様をエスコートするジョシュア様は、お屋敷の皆に、笑顔をふりまいて、馬車へとむかった。
近くで、同僚の侍女たちは、よろめいていた。
(うん、そうだよね。あんな美青年のいい声で、エスコートされたら、舞い上がっちゃうわよね・・・)
わたしは冷静に彼を見つめていたが、普通の侍女なら、はにかんで恥ずかしそうにするだろうとおもったので、わざと頬を染めて、まつげをふせた。
声をかけられたカーラ様はジョシュア様の美声にしばらく固まっていたが、お持ちになる扇子を落としてしまいそうになり、我に返ったようだ。使用人一同、はらはらしながら、見送る。
お嬢様はまるで蝶のようにふわふわと夢見心地で歩きながら、ジョシュア様に手を引かれ、馬車に乗った。
「いってらっしゃいませ」
使用人一同、ご挨拶し、お辞儀をする。
カーラお嬢様が馬車に乗り込むのを、わたしは館の皆と一緒に頭を下げてたまま、ながながと見送った―――。
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