3.ジョシュアの思いつきと侍女役
「―――そろそろ、お庭におさそいしてもいいかな?」ノックの音ともに現れたのは、カーラ様のお相手、ジョシュア様だ。
(きっと、ジョシュアというのは偽名よね。だって、彼は町で出会ったお仲間からは他の名前でよばれていたから・・・)
「ジョシュア様!わたくしのために来てくださったの!すごくうれしいですわ。お庭にティーセットをご用意しておりますの!まいりましょう」
薄紅色のドレスをふうわりとまとったお嬢様がジョシュア様にぴょんとはねてつかまる。ジョシュア様はかなりの高身長だから、腕につかまった小リスのようだ。
(とってもお似合いのお二人だわ。みなさんとがんばってお仕度をしてよかった)
わたしは、頭を下げて、二人を見送った。
この時、ジョシュア様がわたしを鋭い目で見ていたのが、後頭部につきささるような感覚で、わかる。
ぞわりとおそろしさが這い上がる。
(ジョシュア様は、何をかくしているんだろう―――)
ただ、お嬢様をエスコートするために、このお屋敷に出入りしているのかとおもったが、お嬢様のご婚約相手ではないそうで、急遽代理に決まったらしい。
―――お嬢様はとてもお喜びだけれど・・・。
◇◇◇
暗くならないうちにと急ぎ足で帰り、薄汚れたドアをあけると、
びぃみいやあーああぁぁ(おなかがすいいた!!)
私とミシィのささやかな住まいに、猫の鳴き声がこだまする。
ミシィはフードの下でわたしが抱えていたミルクのポットを目ざとく見つけると、
だーっと走り寄ってくる。
帰宅をまちかねていたようで、足元にすり寄り、しっぽをたてて甘えてくる。
「ふふ、ミシィはおりこうさんね!わたしが持ってるかもってないかで態度をかえるんだから!」
わざとおおげさに、ポットをミシィの前にかざして、上に逃避させ、がたついたテーブルの上に置く。
ミシィの目もポットにつられて、下から上へ、右から横へ動くのがたまらない。
「すぐにミルクがゆをつくるから!」
お屋敷で分けてもらったミルクを使い込んだ鍋に半分だけいれる。足元ではミシィのきらきらとした目が見あげていた。後の半分はヨーグルトにして、明日の朝食にする予定だ。
わたしは、隙間風の入る、おんぼろな住まいのコンロに火をつけた。
夕方になると冷えてくる。外套を壁にかけると、わたしはブルりと震えた。
ふわふわの長いミシィを抱っこして、優しくなでる。
(はぁ、あったかい。おひさまのかおりがするわ)
◇◇◇
―――リリア。おまえは僕の何に気づいたんだ。
ジョシュアと呼ばれている青年は、繊細なティーセットを前に、庭の向こうで、蝶とたわむれるカーラを目の端にとらえる。
リリアが来る前はこんなに明るくふるまっていなかったし、あきらかにドレスと髪形、メイクの質があがっている。
リリアが来て、お屋敷全体が明るくなり、料理の配膳から、客への気配り、屋敷全体の統率ができているような気がする。
(侍女ひとりがここまで、100人もいるお屋敷をまとめられるものだろうか・・・)
いままで、ディーセットひとつでも、なかなか決められず、待たされることがあったのに、ここ最近は、すでに準備が整っているのは当たり前になった。
テーブルには季節に合わせてバラの絵柄の磁器がひと揃え並べられている。
僕はかりそめの笑顔をのせたまま、目を伏せた。
(いけない、今はカーラの信頼を勝ち得たばかりなのに・・・、つい、リリアのことばかり考えてしまう)
―――リリアに声をかけた日、僕は、ルロイド邸のお嬢様の行きつけの店を訪れていた。
カーラのエスコート役を引き受けるため、彼女の気に入るものを徹底的にをあぶりだしていた。そのとき、たまたま、通りがっかたパン屋から出てきた小柄な少年に目が吸い寄せられたのだ。
外套を羽織った姿は線の細い剣士に見えたが、ちらりとのぞいた頬は少女のものだ。
(なぜ、男装を?)
僕は、人を観察するのが得意だ。
(うーん?・・・うら若い少女は下町では危険しかないから、かな?)
だから男装しているのだと納得することもできた。でも、なにかが引っかかる。
彼は、リリアをつけていく。
少女が立ち寄った先の年寄りたちと、ほがらかに会話しているのに出くわした。
「リリアはいつも元気でいいねぇ!わしらも元気をもらえるよ。なぁばあさんや」
彼女はリリアというのか。さも、うれしそうにわらっていたから、やはり少女で間違いないとわかったのだ。
おもいかえせば、あの時、不思議なことだらけだった。
下町には不似合いな、品の良すぎる年寄達に「おからだに不自由はありませんか?」と丁寧に聞いている。
年寄りたちはその少女を旧知の仲といった風に、「そうさな。お嬢さんほど、元気にはしりまわれませんけどな」と、どこかの主従のように話している・・・。
僕は不信感を覚えた。
それに加わったご近所の恰幅のいいミセスたちは一見普通の服だが、明らかに上流階級の立ち居振る舞いなのだ。
「ミシィちゃんはおなかをすかせてないかしら?」
「ええ、いつもおなかぺこぺこで、わたしの分までたべちゃうの!」と、たのしそうに飼い猫のはなしをしている。
そう、あまりにも自然に・・・。
リリアという少女は少年に扮しているのに、老人やマダムは一切気にしていないのだ。
もっとも違和感のあるのは、漏れ聞こえてくる話し方、そう、令嬢そのもので、下町にいる娘が話せるような言葉遣いではない―――。
激しく、見た目と場所柄、それに言動が一致しない・・・。
どういうことだろうか・・・。
僕の好奇心がこの娘をもっと知りたいとうずく。
! ―――そうだ、この娘をつかおう。
今、潜入しているルロイド邸には、デビュタントに出席するカーラという少女がいる。この、少女に他の出席者を聞き出そうとするが、男の僕からすると、それは、喜んで準備しているカーラへの冒涜だから・・・、なかなか聞き出すことができていなかったのだ。
年齢も近いこの娘なら、会話に無理がない。これならいける!
僕は、リリアを追いかけて、とっておきの笑顔で彼女を引きとめた―――。
しかし、この時、まさかリリアに僕が振り回されることになるとは、露ほども思っていなかった。
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