23.幾万の星からわたしをみつけて
おぉおぉおお――――
どよめきが、会場にあふれ、高い天井にこだまする。
噂の妾妃を初めて見る国内の客も、国王、王妃までもが、驚きを隠せない。
紗を取り去った下には、金のうねる髪を腰まで下ろした、美姫がいた。
「あなた、は、もしかして・・・」王妃はわたしをみて絶句している。
―――きっとこう言いたいに違いない。現国王の恋した妖精、前王妃に似ている、と・・・。
「面をあげよ、名をなのるがよい」国王は、なぜか、大役をおりれるといった、ほっとした声で、わたしに声をかけられた。
まつげを伏せたまま、額をあげ、帝国の要人に帝国語で挨拶をする。
「はい、わたくしは、リリアと申しますわ。どうぞお見知りおきを」
伏せていたまつげを震わせ、やや緊張にかすれた声は透き通っていて、ひろい会場にしみわたる。
「よく出てくれた。そなたをどうしても、見たいとおっしゃられて、帝国の皇太子さまが探されていたのだ。―――うん、よく似ている・・・」
国王が意外にもやさしくねぎらいの言葉をかけたことに、王妃は呆然としながらも、笑顔をはりつけ、国賓の帝国の皇太子をみやる―――。
「ようやく、会えましたね―――。リリア」と、親しみを浮かべた滲むような笑みを浮かべて、彼女の方へ迷いない足取りで近づく。
はっと顔をあげた美姫はこぼれんばかりに目をみひらく。
その目は左は紫と右は濃い紫で、この世の者とは思えないほどに美しい。
波打つ金の髪はおどろきに、ゆらめき、白い背中に流れ落ちる。
なにもつけていない金髪にキャンドルの光が反射し、光の輪をつくる。
この世のものとは思えない儚い様子であった頬には、紅がさし、きらめく紫の瞳は神話の中にしかないと思われていた妖精をこの世に顕在化させた。
どのような美女をもかすませる美貌に、帝国の皇太子を取り囲んでいたフラン王国の王妃、妾妃たちは、圧倒されて、あんぐりと口をあけたままだ。
キンドリーは腑抜けた顔のまま、目をみひらき、なおも、神話の妖精に手を差し伸べようと、足をもつれさせながら、リリアに駆け寄ろうとする・・・。
―――さらうように、リリアの細い手をとったのは、帝国の皇太子で、彼女の前にひざまずいた。
「リリア、迎えに来たよ。僕と結婚してほしい」
すばらしく響く声は圧倒的な王者の風格で、まっすぐな瞳はひたとリリアに向けられて、手の甲にしずかに口づけが落とされた。
細い肩が震えて、会場全体が凍り付いた。
友好を深めるためという名目で、帝国の皇太子は自治領でもあるフラン王国へ訪れており、目的は、キンドリー皇太子の婚約者と妾妃たちの関係性を見極めるためだろう、と思われていた。
しかし、あろうことか、キンドリーが目を奪われ、大切に隠していた妾妃を、この大勢いる会場から見つけ出し、愛をささやいたのだ。
だれもが、逃れられない妖精の末路に息を忘れて見入る。
そう、帝国の皇太子は自治をまかせている国の皇太子の妾を所望したのだ。
キンドリーは帝国の皇太子につかみかかろうとするが、それを制して、国王が、拍手をはじめた。
静まり返っていた会場に、ざわめきがひろがり、やがて、拍手の波がふたりの男女の周りを囲んで、埋め尽くしていく。
この急展開についていけたのは国王一人のみ、そして、感激したのか、楽団の一人が、弦楽器をかきならし、会場に華を添える。それにつられたように、楽団の演奏が二人を祝福する曲目を奏で始めた。
二人は見つめ合い、刻を止めている。
背の高い皇太子に愛をつげられ、全身に喜びにあふれされる妖精のような少女。
返事をまつ皇太子にあわせて、楽団は演奏を静かな音曲にかえた。
「はい。おまちもうしあげておりました」と震える声が聞こえると、一気に楽団は盛り上がり、ワルツを奏で始める。
『幾万の星のひかり
はるかなる きらめき
あらたなる国のはじまりに
星の乙女はきらめいて
私の前にあらわれる
わたしの乙女
あなたはわたしをとりこにする
どうかいっしょに
わたしとともに幾万の時を
笑っておくれ
王子さま
あなたはわたしの生きる力
あなたのいない明日はみえない
わたくしが地上でも光り輝けるよう
愛してください
わたくしが妖精になっても・・・
ああ 神よ
わたしの乙女をまもっておくれ
神さま
どうか王子様の国をまもってください
わたしたちの愛のひかりが
フラン王国をあまねく導かんことを・・・ 』 ワルツにあわせて、フラン王国につたわる歌を楽師たちが歌う―――。
呆然と立ち尽くすキンドリーと、あっけにとられた王太子妃と妾妃達はいまさらながらに、帝国の皇太子妃になりそこねたことに気づき、歯ぎしりする。
神話の中の妖精を手に入れた帝国の皇太子は、リリアをいざなって、会場の真ん中に滑り出ていく。
ワルツにあわせて、ふたりは見つめ合いながら軽やかにステップをふむ。
会場はわっと盛り上がった。
―――このワルツはのちほどまで、語り継がれる物語の一幕となった。
女性陣からは品がないとののしられるも、この世の春を見たという男性陣との二極化した意見のわかれる見せ場となった。
リリアのすそからのぞく、真っ白でなめらかな美脚と、ターンのたびに髪がとりはらわれ、あらわになる背中は魅惑的すぎて、この後、王都でこの異国風の衣装が大流行したのはいうまでもない・・・。
第一部 完です。 第二部は余力があったら書きます・・・。
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