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きらめきの乙女は闇に抱かれる  作者: ももんが☆


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22/23

22.あなたはだあれ?わたしは××だけど

会場を照らすシャンデリアに目をやって、まぶたに浮んだかつての光景を思い出す。


紗に遮られた視界は涙の膜でかすみ、森を出てからの暮らしは新鮮で、とても大変だったけれど楽しかった。最初はおばあさまの伝手をつたって、暮らしを何とか整えた。あの、ミシィと住んでいた台所をまなうらにうつす。


「おひとついかがですか」

差し出されたのは一口サイズのカナッペだ。想い出に浸っている場合ではないわ。逃げるチャンスなのに・・・。


わたしは、お皿に置かれたチーズとコショウの効いたサーモンををちびちびと口に運ぶ。


(おいしい・・・、けれど、ものたりない)


ジョシュア様と食べた、誕生日会が思い出される。

あの頃が、ものすごく遠くて、懐かしがこみあげてきてきて、おもわず、目がうるむ。


料理が終了したからか、さきほどから、国内の貴族と思しき、男性達からものすごくいやな、まとわりつくような視線を感じる。紗をかぶっていてよかった。


きっと、場違いな衣装で現れた私に気づきはじめて、格好のネタにしているのだろう、となりの夫人を巻き込んで、わたしをじろじろ見ているのが、まるわかりよ。

 

そろそろ、余興の時間だ。わたしは、衛士たちに席を立つよう促され、会場を後にするよう周りを囲まれた。

やはり逃げる隙はなさそうだ。あまりのものものしい警護に悪目立ちしているとおもう。


国賓に挨拶をするのが通例だが、帝国の一級の要人ともなれば、王太子に忘れられた妾妃など用はないものね・・・。

わたしは、なにもしゃべらずに、ほんのひとときあたためた席を立つ。


まわりを囲まれて、しずしずと歩き出す。


それでも、顔をまっすぐにあげて、だれが何と言おうと、わたしはわたしなのだから、と勇気づけて、なるべく、優雅に、気品のある立ち居振る舞いをする。おばあ様仕込みのマナーはこの時、役にたった。


(おばあさま。わたしを育ててくれてどうもありがとう・・・)


―――もう、あと一歩で、暗い通用口の扉に、たどり着くという時に、周りが騒然となって、衛士達が急に立ち止まって整列をした。



わたしは、後ろをふりかえるべきか、迷ったが、整列した衛士達は、あきらかに、会場の方をむいていたので、すこしだけ、顔をそちらにむけた。 


「またれよ、そこの娘はもしや・・・」


どこかで、聞いた事があるような声だ。帝国の言葉で話されたから、帝国のどなたかであろう。フラン王国の貴族たちは帝国語は話せるが、普段は使わないのに。


あたりがざわざわとして、ただ事ではない雰囲気を感じる。


―――何が起きているのかしら・・・。



振り向いてはいけない、いえ、でも、ここで、何か事をおこせば、国のいさかいに発展しかねない。

わたしは、立ち止まって、様子をうかがう。


「よくぞ、お気づき遊ばされた、あれは、わたしの妾の一人でしてね。体調がすぐれないもので、今、退席させようとしていたところです」


けだるげな皇太子の声がかぶさり、会場中の視線がわたしに突き刺さるのを感じた。


「おお、あの可憐なお方が、皇太子さまの熱烈なアプローチにお応えしたという方でしたか。ぜひとも一言ごあいさつを」


こういわれて、断れるいわれない。

わたしは、歩を止めていたが、覚悟を決めて、今一度、会場の中心部へ向き直った。


その時、ゆるやかに動かした足はつま先から、膝、ふとももまであらわになり、会場の客たちが息をのむ音がする。



わたしは、このままここで挨拶をして辞去すべきか、それとも、国賓の声をかけてくださった方に、直接ご挨拶するべきか、キンドリー様のほうをちらりとみた。皇太子はものすごい顔つきで、わたしをにらまれていたので、やはり、ここは退席すべきかと、腰を引いて、深くお辞儀をする。


この時にも普段ならドレスの足さばきをするのとは違って、足を一歩後ろにひいて、腰を落とす異国風のあいさつをこなす。

会場がどよめいたのは、みえてしまった太ももへの反応か、それとも・・・。


「さぁ、こちらへ、帝国の皇太子殿がお待ちだ」


会場によくとおる声は国王のものだろうか・・・。自信に満ち溢れていて、気だるげなキンドリー様のお声とは風格がちがう。


(やはり、第一皇太子だったのだわ)


わたしは退席することはかなわず、うつむいて、10歩先の床をみながら、衛士をその場に残して、前へ足を一歩一歩、なめらかな足さばきで腰をゆらしながら歩を進める。


ゆったりと歩かないと、両足ともさらすことになる。猫の様になめらかに、腰を使って、なめらかに床をすべるように、国王と帝国の皇太子乏しき人の靴をみて、もう一度深く一礼した。


まわりからは、息をのむ声があがり、会場中の人の視線が、呼気がとまったような気がした。


紗をかけたままの視界は、ゆるやかにあげたが、帝国の皇太子の胸にとまったままで、顔は上げ切らない。


目をあわせるのは、あちらが声をかけてからだ・・・。


黒を基調とした礼装には銀糸の刺しゅうが入れられ、所々に大粒のダイヤモンドが光っている。肩から掛けた飾り帯には、紫の宝石が幾何学模様で配置され、まばゆい光を放っている。

 


「紗をとっていただいても?」

意外に若くて凛々しい声が鼓膜をふるわす。


「はい・・・」

わたしはそっと、紗を取り去り、素肌をさらした。


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