21.スイーツとおばあさまと森の娘
かなうはずの願いが、シャンパングラスの泡のようにはじけて消えていくような気がした・・・。
遠いまなざしをして、ぼんやりと過ごす。
まわりは、おしゃべりにいそがしく、わたしのことなど、会話にのぼることすらないのだわ。
(いてもいなくても同じ―――ね)
◇◇◇
わたしは、慣れ親しんだ森の中を一人で歩いていた。
ベリーの季節はおばあ様と一緒にタルトを焼くのがたのしみで、ついつい早起きして、出てきてしまった。
かごには朝露にぬれたキイチゴがきらきらと透きとおり、みずみずしい香りをはなっている。
ガサっ
そのとき、森の向こうで、何かの気配がして、びくりとからだをゆらす。
わたしは、そちらを見て、すぐさま踵をかえした。
籠からベリーが零れ落ちるのにもかまわず、森の道なきみちを駆ける。
――――大きな木のうろに隠れて、ばくばくと音をたてる心臓に手をあて、呼吸を整える。
あれは、誰だったのかしら・・・。
この森には人は誰も寄り付かないのに・・・。王家の森。ここは神聖な神々のすまう太古の森として、おそれられ、誰一人はいってくるものはないのに・・・。
ちらりと見えた姿は、青年で、こちらを見る目は大きく見開かれていた。
手をのばして、こちらに駆け寄ってこようとしていたから、わたしは、慌てて逃げたのだ。
(―――見つかってしまったわ)
◇◇◇
「おばあさま。このタルトおいしいですわね!」
「ああ、おまえが積んでくるベリーはいつも新鮮でとてもいい香りだよ」
ふっくらとした頬、まるいからだにエプロンを巻き、おだんごにした白髪は彼女のトレードマークだ。
わたしはこのマリアおばささまと小さなころから過ごしてきた。
ご本をよんでもらったり、ダンスや刺しゅう、お料理を一緒につくったり。
でも、紅茶の飲み方や話し方、淑女のマナーには一切妥協がなく、結構、泣いた・・・。
「とっても大好きよ!おばあさま。―――わたし、一つお約束をやぶってしまったわ」
わたしは、食べかけのタルトを前に、フォークをそっとおろし、ひざに手をそろえて、おばあさまに切り出す。
「どうしたんだね?急にかしこまって・・・」
マリアおばあさまはお年を召されているのに、背筋がピンとして、ものすごくきれいだ。
「わたし、森で、姿を見られてしまったの・・・。だから、―――お約束していたでしょう。この森にはいられないの」
ぽろりと涙がこぼれた。
おばあさまは、おどろきとかなしみにおののいているようで、ぐらりと傾いた。
あわてて、体を支える。
「ま、まさか、だれかがこの森にはいってきたのかい?」
おばあさまは息も絶え絶えに、聞いてくる。やさしく背中をさすりながら、わたしは、ゆっくりと語りだす。
森の中で、ベリーを摘んでいるところを青年に見られたことを・・・。
それから、おばあさまは泣いて、わたしも泣いた。
『この森で、男に見られたら、出ていかなくてはならないよ』
「くれぐれも気をつけるんだよ」
と、言ってくれたおばあさまに、わたしは、最後のお別れを告げて、森を離れた・・・。
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