20.妾妃としてのお役目果たさせていただきます!
ずっと、日の当たらない薄暗い部屋でいたせいか、わたしは白粉をぬることもなく、色粉を頬や目じりに乗せられて、紅を唇にさせば、お化粧は終了だった。
コルセットをつけて、胸を押し上げようにも、粗食で過ごしてきたため、ぺらぺらだ。
体中を磨かれて、着せられたのは、薄い絹を体に巻き付けて着る異国風の踊り子の衣装。
みせるべきふくらみがないので、背中から腰にかけて、布は一切なく、ドレープで、胸と腰回りをボリュームを出して、帯を締められた。歩くと、足首から太ももまで、真ん中が割れていて、かなりきわどい衣装だ。どう考えても品位を気にするこの王国でのマナーを充たしていない。
「あの、これで、よろしいんでしょうか・・・」わたしは、さすがに、着つけてくださった侍女の方に、悩ましい声をかけた。
(―――だって、これでは、異国の物語に書かれていたハーレムの衣装よ)
「もちろんですわ。あなたさまにはこちらをお召しいただくようキミア様から承っております」
そして、ユリをかたどった髪飾りを耳の横に止められた。髪はゆいあげられもせず、背中を流れ落ちるばかり。
なんだか、幼女の髪形に、娼婦のような装いになっている。
後宮の侍女がなにかの間違いで、わたしを仕立てあげた、と言われないかと落ち着かない。
「さぁ、みなさまおまちかねですわ」
わたしは、肩から、女性用の領巾を巻き付けられ、紗を頭にかぶせられて、後宮を後にした。
◇◇◇
―――今日こそは、逃げられるチャンスかもしれない。わたしは、心が躍るのを感じた。
やっとでられた外の世界に、わたしは深呼吸して、つかの間、喜びに身をひたした。
でも、この衣装で逃げるには、かなり勇気が必要だ。足が丸見えだし、なんとも心もとない衣装なのだ。
王宮の広間にはにぎやかな楽団の演奏と喧騒で、熱をはらんでいた。
わたしは、妃たちが出入りする通路ではなく、衛士たちがとおる、暗い通路を歩いて、広間に足を踏み入れた。
侍女は、最後の腹いせとばかり、頭飾りのユリの花すら、とりあげて、去っていった。
なんの飾りもなくなった髪に、紗をかけて、顔をかくしたまま、明るい広間の中に歩を進める。
衛士たちが周りをかためているから、何もみえず、席に着いたときには、たくさんの人が前に座っており、わたしは人の影に完全に隠れた形だ。
(うん、一応、末席に座って参加はしているわね・・・)
高い天窓からは光が幾重にもさしこみ、薄暗い天井とテーブルにはいくつものキャンドルが立てられている。会場中に飾られたカットガラスはきらめいて、会場の客達を迎えていた。
武骨でごつごつした壁には双頭の龍の描かれた帝国旗がかかげられている。一方、月と太陽のフラン王国旗は控えめに傍に飾られていた。
フラン王国は帝国のなかのお飾りの王が治める一国に過ぎないのだった。
悲しいが、これが、わが国のありようだ・・・。
お迎えしたというのはどうやら帝国の方々らしい。随所に、帝国の色である黒を身に着けた騎士が立っており、警護の物々しさに、目をみひらく。
わたしは広間のはるか向こうに目をこらす。会場の真ん中にある大きな花瓶にはこぼれんばかりに花が生けられ、冬なのに人の熱気であふれている。集まっているのは数百人規模で、国内のほとんどの貴族が参加しているのではないかしら・・・。
国旗の下に据えられた壇上には、帝国の国賓もてなすためのテーブルが設けられており、きらきらしい一団がこちらを向いて座っている。やはり、今朝の厨房のどたばたはこれのためだったかと思い至る。
(そういうことね・・・。国賓をもてなすため、わたしも一応、貴族のはしくれという扱いなのだわ)
豆粒ほどにみえる国王と王妃の隣には、国を統べる帝国の要人とおぼしき人が座っており、和やかに談笑している。国王の妾妃は10人おり、それぞれが着飾っていて、まるで花の妖精のようんだ。
そのまわりには王太子、王太子妃、そして、3人の妾妃が並び、高く結い上げた髪に宝石をちりばめ、賓客と談笑を繰り広げている。
わたしはというと、護衛騎士に歩かされるまま、薄暗い影になった席へ案内された。末席からはかさなる人の背中ばかりがあつく、前はほとんど見えない。
前に居並ぶ貴族たちは、一目でもいいから、愛妾たちや帝国の要人をみようと、後ろを振り返りもしない。
「お飲み物はどうされますか?」給仕がわたしに問いかける。
「軽い飲み物をおねがい」と、言づけると、泡のあがるシャンパンが運ばれてきた。飴色の葡萄酒に、こまかな泡がはじける。
まごうことなき、高級品だ。
末席のわたしにまで、このような高価な品が届けられるということは、国王と王妃がもてなしているのは、帝国の第一級の要人で間違いないだろう・・・。
紗ごしにあたりをかるく見通してみると、かなり場は盛り上がっている。もうそろそろ、お開きに近い時分にわたしは連れて来られたことになる。
本当なら、国賓級をむかえるのに大変失礼な対応であるが、きっと、あちらは、わたしの存在すらどうでもよい存在であるほどの大国。もし、同レベルの国同士なら、はるか向こうに座る妾妃とわたしも同列に扱われていたはずだから・・・。
―――すると、帝国のやはりかなり高位の方をお迎えしたのだわ・・・。
わたしは、頭の中で、地図をひもとく。
この大陸には10の小国が、そして、帝国はこの10の国を従えており、わたしの住んでいるフラン王国も、この帝国の属国なのだ。
帝国には5人の皇子がいて、私の国を治めているのは第一皇子だったはず。とすると、今日の国賓はもしかすると、この第一皇子ではないかしら・・・。
軽くシャンパングラスを回して、香りをかぐと素晴らしい香気がたちのぼり、くらりとした。
おなかが空いたわ・・・。少しだけグラスに口をつけて、音を立てずに、テーブルに戻す。
給仕たちはすでにデザートの皿を引き上げ、食後のひとときをすごしてもらうべく、簡単なつまみをサーブしている。
すこしでもいいから、スイーツをいただきたかったわね・・・。
(――――あの日、約束したわね。ジョシュア様とのスイーツ店めぐりはいつになるのかしら)
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