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きらめきの乙女は闇に抱かれる  作者: ももんが☆


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19/23

19.隠された乙女はいつだって逃げ出したい


―――なんだか、今日は騒がしい。


王宮全体が、あわただしいとは感じていたが、今日のそれは、けた違いだ。

なんといっても、今朝の食事は、みんな大あわてで食べていったらしく、カスがテーブルに飛び散っていたのだ。王宮の侍女のマナーとして、いかがなものかしら・・・。


それとなく、お皿を運んでいった厨房の様子をうかがうと、山盛りの素材が急ピッチで下ごしらえがされているのがみえる。

これは、なにかあるわね・・・。ここまで、王宮がせわしなくなるのは、国王の誕生日会だとか、王宮での舞踏会だとおもうのだが、それにしては使っている素材が、違うのだ。


じゃがいもをベースにしたお料理なのだろうか、イモの皮むきをしている料理人たちは目にもとまらぬ速さで、皮をむき、ジャガイモをふかしている。


「う~ん、いいかおり。久々にいいごはんにありつけるかも・・・」


わたしは、晩餐会などでの残り物として、朝食に出てきたときには、こころのなかで拍手喝さいで、小躍りしたくなる。

後宮の侍女たちにおりてくるのは、賓客にだされたものの残りなのだが、出汁をとった後の鳥ガラだってごちそうだし、くたくたに煮えたブイヨンの玉ねぎなどは、大好物だ。


はやくも、わたしのこころはダンスしていた。



◇◇◇


がちゃん。


食堂の大惨事を何とか片付け終わると、わたしは、いつもの専属部屋と化した蔵書部屋に閉じ込められて、今日も過ごす。

外では、楽団の音色が美しく響き渡り、だれかとても大事な賓客をもてなすための、迎えのファンファーレが鳴り響いていた。


―――わたしには関係ないわね・・・。なんとか、外に出られれば、脱出の算段もつくというのに。

朝食の後は、昼と夜のひとかかえの食事をつめた布袋以外は何ももたず、衛兵に前も後ろも固められて、護送されて、ずっととじこめられているのだ。


しかも、ご丁寧に、入口には衛兵がずっと立っている。そして、書庫には開ける窓がない。あるのは明り取りの小窓で、天井近くに小鳥がとまれそうな丸窓にはステンドグラスがはめ込まれ、びくともしない。


まさしく、国賓級重要犯罪者の扱いだ。本は贅沢品だけれど、閉じ込められているのには変わりない。そして、誰とも話をすることもない。暗い地下牢にいれられていないだけマシであるが、後宮の妃としては、なかなかにひどい待遇だ。


(キンドリー様もあの日から、一切みかけないわ・・・。どうしたのかしら?あんなに執着していたから、手籠めにされてもおかしくなかったのに・・・)


後宮のベッドに放り込まれたのは、充て身を受けたその日だけで、次の日には、肌をみせない後宮の侍女服を与えられ、書庫に簡易の寝床や家具を放り込まれて、それ以来、音沙汰はない。


初めのころは、いつ、夜伽に、よびだされるかと、おそろしさに発狂しそうだったが、それも、ない。


(まぁ、なにもないほうがいいわ。もし、無理やりにでも命じられていたら・・・)


あの日、ジョシュア様の手を放してしまことを猛烈に後悔している。でも、彼に何かあっては、わたしは立ち直れないだろう。

王太子はあの日以来、一切関係を感じさせないが、わたしには見張りを常時つけているようで、いつも、何かの視線を感じるのだ。



◇◇◇◇


わたしは、浮き立つ城内とは隔絶された書庫で、本をどけると、ランチを食べ始めた。


今朝はみんな食べ残していったものが多く、ハムときゅうりにありつけたのだ。それをパンにはさんで食べると、幸せな気持ちになる。


「はぁ・・・おいしい。でも、ミルクはないのよね」ふっと、懐かしい日々がよぎる。体の中には、力の本流を感じるのに、一向に出てくる気配はない。

王太子のあの口づけさえ受けていなければ・・・、ごくりと最後のひとかけを飲み込むと、水でのどを潤す。


本棚の上にかけられた梯子に腰掛け、丸窓からちらりと、外を垣間見る。階下には、軍服をきた一団が巡回しているのが見えた。


コンコンコン。


わたしははっとなって、入口を見つめる。

「お仕度を承りました」と、王妃付きの侍女の一人が入ってきた。


あわてて、するすると梯子をおりて、スカートを整える。


(どういうこと? お仕度って・・・、王宮に連れてこられてから、華やかな席も茶会も、食事会すら、出ていない私が、お、し、た、く?ですって?

―――これはどういうことかしら・・・?)


「さぁ、こちらへ」有無を言わさず、その侍女は私の手を取ると、引きずるようにわたしを歩かせる。護衛の騎士たちが素早く私のまわりを囲み、わたしは日中、初めて蔵書部屋をでることとなった―――。



◇◇◇


「まさか、あの娘を出すんですの?マナーなんて何もしらない田舎娘ですわよ。しかも本ばかり読んで、気の利いた会話なんて一言も・・・」

リリアが蔵書部屋から連れ出されることは、王太子妃には後から知らされた。王太子命令で、他国の王族が来るのに、すべての妃を出さないのは失礼にあたるから、という理由だった。


「申し訳ございません。我が国のしきたりでございまして。王太子妃殿下にはおわかりいただきたく」必死に頭をさげるのは、皇太子直属の文官だ。頭の毛は白く、ながくこの城に勤めている城代だ。


「仕方ありませんわね。どうせ、末席を汚すのでしょう。なるべく目立たせないよう、表へ出すのは一瞬にしてちょうだいっ!」金切声をあげるキミアは、いら立っていた。


王太子は最近、ぼうっとすることが多く、声をかけても反応しないのだ。結婚当初はあんなに快活で、エネルギーにあふれていたのに・・・。あのパーティーの夜から、反応しないことが多く、いつも上の空だ。


「大変申し上げにくいのですが、あの娘にはドレスが一着もなく、外交の場にふさわしいドレスをおかりできませんでしょうか」

城代はこれでもかというほど、眉をこまらせており、あの娘が「妃らしい扱いを受けていない」ことに、キミアは溜飲の下がるおもいがした。


「よろしくてよ!わたくしの侍女に選ばせます。とりあえずは、そこそこ見られるように仕立ててあげますわ」

―――そうよ、この機会に、この後宮から追い出してやればいい。お迎えする国に売り飛ばしてやればいいのだわ。


こっそり、扇の下で、ほくそ笑む。


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