17.侍女にはなれたけど、なんかちがう
王太子の消えたホールは騒然としており、不穏な空気が満ちる。
客たちは、しばらく交流を楽しんだ後、妾妃候補たちに愛想をふりまいて、帰路についた。
そして、王太子が最後にダンスを踊った娘と熱烈な恋人ぶりを発揮していた背の高い美青年は、忽然と姿を消していた。しかし、誰一人、彼の行方を知る者はあらわれなかった・・・。
◇◇◇
わたしは、自分のなかに、本来の力がもどっているのを確認し、今度こそ、発露させようとした。
けれど、できない。
(なぜ?)
昏い室内に、丸くなって寝ている私は、絶体絶命のピンチだ。できれば、ここで、王子様とやらに助け出しもらいたいところだが、そうはいかない。秘匿してきた力も発現できないとなれば、ここは実力で脱出するよりなかった。
たしかに、身の内には力があるのに、なぜ、出せないのか?何か、枷のようなものを感じるのだ。
―――皇太子につかまったとき、なにか、されただろうか?
(! まさか、あのときのキスが・・・?!)
本当に愛しているものから与えられる口づけには、私の力を無効化することができるのだけれど・・・。
(王太子は、わたしをそこまで愛しているのだろうか・・・)
でも、なにがしかの執着は感じたから、きっと彼のなかに、わたしの偶像のようなものがあり、それをわたしの実体であるリリアに重ねたのかもしれない―――。なにか、空恐ろしい、執念を感じて、ぶるりと震えた。あてみをされたおなかには鈍痛があり、苦いものが口に残っている。
そろりと、室内を伺うと、ここは大人の女性用の寝具でまとめられており、上質なリネンとやたらにおおきいベッド、―――多分、後宮の一室だろう。
(はぁ、ジョシュア様の報酬につられて、後宮の侍女にとどまる予定が、まさかの皇太子につかまってしまうし・・・、さらには、わたしが何者かをキンドリー様は確信していらっしゃるわね)
(こんなことなら、仕事を受けなければよかった。そして、ジョシュア様と踊らなければ・・・)
後悔はつきないが、それどころではない。なんとか逃げださなくては。
でも、シーツをめくって、自分の体を見下ろすと、ぺらぺらの夜着で、からだを覆う面積がものすごく小さい。おしりは半分見えているくらいに短く、胸はほとんどかくせていない。とんでもなく、後宮仕様で、目が回った。
(ど、どうしましょう・・・。こんな、恥ずかしい恰好では、逃げられないわ・・・)
◇◇◇
「キンドリー殿下、後宮にすまわせる娘たちの管理はわたくしにおまかせいただけますわよね。それで、どの娘がおよろしくて?」
パーティの次の日、キンドリーは王太子妃に詰められていた。
あの日、踊った候補の娘で、即決、お持ち帰りを決め込んだのは、まさかの大穴、がりがりの小娘で、しかも恋人と思しき男がいたのだ。わが娘こそはと息巻いていた者達から、王太子妃には怒涛のような贈り物攻勢がはじまり、対応に追われる始末。
さくっとあの日にきめて発表していれば、こんなことにはならなかったのに。と、王太子妃は切れ気味だ。
「キミア、そんなにカリカリするな。私はあなたがいてくれれば、それで幸せだよ。―――そうだね、クロエラ、ライラ、シルヴィナの3人と、あと一人、彼女は名前はなんていうのかな・・・」
「まぁ!お持ち帰りした娘はどこの誰とも知れないのですか・・・。では、一番の宮にはクロエラ様、二の宮にはライラ様、三の宮にはシルヴィナ様、・・・それと、あの娘はどちらに住まわせますの?」
非難がましい目で、キンドリーをみるキミアにとって、これらの予定調和であった3人の娘は想定内だが、最後のだれともしれない小娘など、馬屋でよいとおもえるくらい、腹立たしい存在だ。
「―――そうだな、あの娘は、宮を与えるには身分がない。キミアの侍女として雇い入れるがいい」
王太子は茫洋とした目で、煩わしそうに、手をふった。
「ふん!そんなことをいって、わたくしをおざなりにして、あの娘に通うのでしょう。なんて腹立たしい。あんな田舎娘に、王族の相手がつとまるものですか!わたくしの監視の目が狂いのないことを証明して差し上げますわ!」
キミアは「あんな娘、すぐにぼろを出すに違いない、さっさと追い出して、あの、やたらに美青年の元へ結婚でもなんでもさせて送り出してしまえばいい」と考えていた。
◇◇◇
リリアはある意味では、王宮の妃の侍女になることができた。
ただし、王太子妃付の・・・というところが、当初の狙いであった妾妃付の侍女とは大違いであった・・・。
「はぁあ、憂鬱すぎるわ。はやく、帰りたい・・・」ぽつりと漏らす声は書庫の本たちに無言ですいこまれて、儚く消えた。
王太子妃はどこの娘かもわからない、リリアの事が大嫌いだったようで、あのパーティ以来、一度も顔をあわせていない。それはそうだろうとおもう。リリアは皇太子に気に入られて囲われたのだから・・・。
王太子妃からすれば、リリアなど、「顔をみたくもないし、皇太子に会わせたくもない」ということで、表むきの仕事など一切与えられず、監視付きの待遇だ。
囚われてからというものの、ずっと、後宮の書庫の整理と掃除をひたすらしている。
―――そして、この書庫は誰一人訪れることのない、開かずの間だった。
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