13.ダンスはターンを決めませんと!
ゴーンゴーンと鐘の音が鳴り響き、荘厳な音楽が流れ始めた。楽団の演奏がはじまったということは、有力候補たちのあいさつタイムはおわり。これからは立食パーティとダンスがはじまるのだ。
まずは、王太子と王太子妃のダンスだ。フロアの向こう側が潮をひいたようにフロアの真ん中が開き、壇上から二人がおりてくるのが、かすかに見える。
音楽がワルツにかわり、華やかな演奏がホールに響き渡る。
きらびやかな集団に、かしずかれる王太子と王太子妃、―――普段のわたしがみている世界と別次元すぎて、おもわず、みとれてしまった。
みとれているうちに、ダンスの和が広がっていく。
王太子妃は壇上に戻り、王太子だけが、フロアの女性たちと踊っていく。あちこちで、悲鳴にも似た歓声が聞こえてきて、良くは見えないが、候補の方々と踊っているのだろう。
(わたしには関係ないわね)
わたしは、この隙に、壁ぎわににげようとしたが、・・・無理だった。
ジョシュア様の鍛えぬかれた腕は私の胴体にしっかり固定されている。背の高い彼に、持ち上げられるほどに腰をホールドされ、ぴったりとくっついた下腹部はドレス越しに彼の硬い脚にふれていて、逃げることはおろか、体をひねるのにも限界があった。
そのまま、泳ぐようにホールの真ん中へいくと、ダンスを踊るはめになった。
「ほら、僕と踊れるのは今晩でしばらくお預けなんだから、たくさん踊ろう」
彼の屈託のない笑みに、わたしも気が抜けて、つい、「ええ」といってしまった。
裾の長いドレスでターンを決めるのはものすごく難しい。踏んづけて転んだりしたら、哀れな結末しかない。
わたしは、この日のために、猛特訓を受けていた。最初の頃は、ジョシュア様に腰に手をまわされホールドされることですら恥ずかしくて、音をあげていたが、いまでは、慣れて、息をあわせて、きれいにターンをこなせるようになった、
背の高い美青年にがっちりホールドされたリリアの腰は華奢で、ターンのたびにすそがうつくしくたなびく。
編み上げられた金髪に飾られたビジューは揺らめいてキラキラと輝く。裾がふわりと持ちあがって波打つたびに、まわりからはため息が漏れる。息の合った流れるような二人の動きはまわりの男女の踊りを止めてしまうほどだ。
微笑みを浮かべて、くるりくるりとターンするうちに、わたしは、今日の任務を忘れかけるところだった。
「ふふ、君のヒールで踏まれたのが懐かしいよ。今日は一段ときれいで、このまま、外に出すのは忍びないな・・・。やっぱり、連れて帰ろうかな」
「な、なにをおっしゃいますの。わたくしが立派な淑女になるまで、お父様お母様がお許しにならないとおっしゃられていたではありませんか」
ターンが美しく決まる。
「うーん、そうだけど、手放したくないなぁ。だって、もし、王太子が君を見初めたら、もう帰ってこないし・・・」
「まぁ、そんなこと絶対にありませんわ!だって、こんなにもお美しい方々がいらっしゃるのですもの、わたくしはジョシュア様の元へ帰ってきますわ!」
すねた演技で、ジョシュア様を見上げて、ゆるやかに左にターンする。
「そうかな・・・、なんだか心配になってきたよ。おいしいスイーツで豊満な肢体にならないように、厳しく言いつけておかないと!」
「まぁあ!なんですって、人を食いしん坊みたいに!」
ふわりとターンのたびに裾が軽やかに舞う。ステップは軽快で、体重を感じさせない。
―――わたしは一切気づかなかったのだが、ダンスとおしゃべりに夢中になっている間に、大広間の上座まで来てしまっていることに気づいて、慌てた。
入口付近にはみなかったシャンパンタワーに、お酒のつまみ、カクテルを持った紳士達、豪奢な衣装に身を包んだお色気がむんむんとする美女たちがいっぱいなのだ。
(はめられたわ!ジョシュア様のホールドでターンを決めているうちに、こんなところまで・・・)
「私と一曲いかがかな?」
きゃーあああああ
なんだか、近くで、やたらいい声の男性のバリトンが響いた。
そして、女性陣の悲鳴が尾をひいて、耳にキーンと来る。
(ま、まさか、ありえないわ。ありえないっ)
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