1.星の乙女と貧民街のリリア
「わたくしってばかみたいね」
リリアはつぶやく。
かたわらには、一匹の野良猫のミシィがいる。
この王国は停滞期にはいり、仕事に就けない人が巷にはあふれている。
リリアはこの国の最下層に位置する掃きだめ・・・ゆわば貧民街に暮らしている。
―――というか、住み着いていた。
今は、とある貴族のお屋敷に、出入りするまでになったが、以前は本当にパンのひとかけらも大事に食べる生活だった。
その暮らしを思い出すと、つらくなる。
(―――お母様)
リリアはまだ小さかったころ、母が子守歌を歌ってくれるのが楽しみで、良くせがんだ。
この国の創世記である。
『幾万の星のひかり
はるかなる きらめき
あらたなる国のはじまりに
星の乙女はきらめいて
私の前にあらわれる
わたしの乙女
あなたはわたしをとりこにする
どうかいっしょに
わたしとともに幾万の時を
笑っておくれ
王子さま
あなたはわたしの生きる力
あなたのいない明日はみえない
わたくしが地上でも光り輝けるよう
愛してください
わたくしが妖精になっても・・・ 』
とある乙女が、王子に見初められて、幸せになるというお話しだ。
そんな、夢物語は現実にはおこらない。
でも、ないよりはあったほうが、すばらしい。
とくに、こんな暮らしだと―――。
びぃみゃーあ
一緒にいるミシィはぶちネコだ。どこからともなく、流れ着いて、我が家に居ついている。
でも、こちらもミシィにあげられるごはんはほんのひと掬いのミルクがゆだけだ。
彼女はたくましく、ネズミやらヤモリ、虫を食しているらしい。
ときどき、リリアにもおすそわけを持って帰るが、丁重におことわりしている。
「さぁ、わたくしもそろそろ出勤しませんと!」
リリアはお仕着せに分厚いぼろ布のガウンを羽織って、フードを目深にかぶる。腰には棒切れを刺して、大股に歩いていく。
こうすれば、ちょっとした剣士に見えるから不思議だ。
―――リリアは演技が得意なのだ。
今している剣士のものまねは、うらぶれた通りに本物の剣士が流れてい付いてきた時に観察して、手に入れたものだ。
(やはり、オリジナルがあるほうがいいわ)
ミシィはびゃあと鳴いて、リリアを送り出してくれた。
お屋敷の取っ手は古びていて、見上げるほどの高さのある鎧戸に、ライオンの口を模して取り付けられている。
最初、触るのを躊躇するくらい、こわかった。
―――だって、ライオンの口の中に取っ手があるのだ。
「ごめんくださいませ。わたくし、わたくしはリリアですわ」
ゴンゴンゴン、とノックをすると、中から、「リリアか。今開ける」
と青年の声が聞こえた。
リリアが鎧戸から離れてたたずんでいると、ギィイイイと音を立てて、鎧戸から、肩当をつけたそばかす顔の兵士が現れた。
音を立てずに、リリアと兵士は鎧戸に身を滑り込ませた。
―――いつも、この戸を開けてもらうのは緊張する。うっかり、間違われてざっくり一刀両断されてしまうのじゃないかと思うのだ。今のリリアはフードをまぶかにかぶって、いかにもな風体だから、相当怪しい人物にみえる。
(はぁ、無事におやしきにはいれたわ・・・。ミシィにおいしい牛乳もらえるかしら)
リリアは外套をさっと脱ぎ終えると、まずは厨房へ向かった。持ち帰り様に牛乳をキープしてもらうためだ。
ちゃっかり、ミルクポットに牛乳を注いでもらい、それを自分の着替え用戸棚にこっそり隠す。これが、侍女として通うようなってからこなす日課だ。
厨房は大所帯とあって、忙しそうにかまどの手入れに床掃除を5人がかりで行っている。リリアは丁寧にお礼をいって、いつもどおり、制服であるエプロン付きの侍女服に着替える。
爵位をあたえられているこのお屋敷には100人は雇い入れがあり、一人まぎれこんでも大した変化ではない。
リリアはここの出入りの業者から、お屋敷へ紹介状を書いてもらい、正式に採用されていた。
(ふふ、なかなか、かわいいエプロンだわ)
リリアはいつもは男装で過ごしているから、スカートをはくのはここでだけだ。
くるんとまわって、どこにも乱れがないか確認する。
髪をきっちり結い上げて、スカートと共布のリボンをつける。
(さぁ、がんばとろうっと。お金がないと、生きていけないもの・・・)
リリアは久々のお給金に心を馳せ、にっこりした。
「いいね!」「好き!」と思ってくれた方は、
☆☆☆☆☆ → ★★★★★
皆様のブックマーク、評価は作者のモチベの元ですにゃ☆
勇気を出して(^^)/~ ぽっちとよろしくお願いいたします!




