第8話 魔法具
ダンジョンは魔界とつながっている。
魔界とは、次元の狭間にある世界の事である。
次元の狭間には無数の魔界が存在している。
その無数の魔界は中央の巨大な魔界に向かって通路のように直結していて、階層のように奥に行くほど強力な魔物やモンスターが存在する。
洞窟をしばらく歩くと、魔界に到着した。
突然、虹色の大空が広がり、草原や山脈が出現した。
虹色の大空は、絵の具を塗りたくったような銀の光沢を持つ不思議な色をしている。
この世界の物とは思えないほどの美しさをしている。
そしてそれが逆に不自然さを際立たせている。
背後には、洞窟とつながる次元の扉が存在する。
この場所を忘れると迷子になる。
「ダンジョンと言っても、別段普通の世界と変わらないわね」
「あなたって人は、本当にー」
エレスがあきれて、何かを言いかけると、魔物が現れた。
ブルーワームが4匹である。
ブルーワームは巨大なイモムシだ。
「エレス、私に任せて」
そう言って私は、剣を持って走りだす。
エレスちゃんにいいとこ魅せるのだ。
左右の袈裟斬り(斜め下斬り )でワームを3匹切りつける。
体液が飛び散る。
ううっ、気持ち悪い。
最後の一匹が大量の糸を吐く。
剣に糸が絡みつく。
ワームは絡み付いた糸を引っ張り、私の剣を奪い取ろうとする。
私はわざと意識して手を離す。
その剣をくれてやる。
そして、アイテムボックスから新しい剣を取り出す。
1本目の剣を糸ごと飲み込んだワームの頭に、2本目の剣を突き刺す。
ブルーワームがさらに8匹現れた。
今度は少し数が多い。
8匹のワームたちは一斉に糸を吐き出した。
大量の糸が真冬の雪のように舞い降りてくる。
剣で斬りつければ糸が刃に絡まってとれなくなる。
盾では範囲が狭くて防げない。
私はボックスから大きなマントを取り出すと、頭上でそれを広げる。
マントの上で糸がパッと広がり、あふれかえる。
私はマントをはためかせると、その綿菓子のような糸を振り落とす。
私はマントを放り捨てると、ボックスから火炎瓶を取り出して投げつける。
ちなみに、この火炎瓶は私の自家製だ。
落下した糸が燃えだし、イモムシたちが炎に包まれる。
「あなた、どこでそんな変な技覚えたのよ。
あなたって本当に、小手先のくだらない技が得意なのね。」
「もっとほかの言い方ないかな、エリスちゃん。」
その呼び方、辞めて。
エリスが機嫌を悪くする。
☆☆☆☆☆
それから私たち2人は、ダンジョンを突き進んでいく。
私は相変わらず剣やナイフ、盾や火炎瓶やポーションなどの様々なアイテムを駆使して敵を倒していく。
そして、エレスも参戦する。
彼女の得意な武器は、細身の長剣、レイピアである。
レイピアに様々な魔法を付与する。
そして、華麗な舞いのような剣術で敵を切り刻む。
最後に出会ったレッドリザードを、氷の魔法剣で高速20回転して斬りつける。
そしてさらに、最後に回し蹴りの連続技で突き放す。
ちなみに彼女の両足には、氷の魔法で作った靴が履いてある。
その氷の靴が慣性の法則で、彼女の動きを加速させる。
フィギア・スケートのアクセル・
スピンの原理である。
彼女の靴は、まるで童話に出てくる
シンデレラのガラスの靴である。
透明で、純粋で、美しく、
そして今にも壊れてしまいそうな。
童話のお姫様の靴である。
いつも冷静で、誰にも心を開かない、
孤独で、クールビューティーな、
「アイスプリンセスね」
「えっ!?」
最後に心の中の声を思わず声に出してしまった。
その言葉を聞いて、エレスが青ざめて、はっと息を飲む。
「どうしたの?エレス」
「何でもないわ。」
ピコーン
レッドリザードが魔法の粒子に変わり、消滅する。
すると、虹色の魔導力で輝く銀の腕輪が落下する。
私はそれを拾う。
「これは何?」
「魔法具よ。知らないの?
要するに魔導力や魔法効果が付与されたアイテムよ。
それを装備すると、何か特定の魔法が1つだけ使えるようになるの。
回数制限があるけど誰でも魔法が使えるようになるわ。
例え、魔導力がなくてもね。」
「それって?」
「そうよ、あなたでも、魔法が使えるようになるわ。」
「う、嘘?」
「嘘じゃないわ。」
「やっ、やったーエレス!!」
そう言って、私はエレスに抱きつく。
「ちょっ、ちょっと、離してよ。
抱き付いてこないで。」
「だって、私でも魔法が使えるのよ。
これで私達、パーティー・メンバーだよね」
「別にまだ、あなたの事を認めた訳じゃないわ。
魔法が使えるって言ったって、たった1つだけでしょう。
しかも回数制限があるから、よっぽど重要な場面でしか使えないし。
第1級レベルの冒険者は、数十から百数十種類の魔法を無制限に近いくらいに使いこなせるわ。
魔法具で1つや2つ魔法が覚えられてみた所で、焼け石に水でしょう。」
それでも、それでもかなり大きな前進だ。
「装備できる魔法具は多くて2つか3つ。
装備してからその魔法具と精神を接続するのに数十秒から数分かかるから、魔法具を幾つボックスに収納していても、実質使えるのは装備しているアイテムだけよ。」
エレスはさらに追い打ちをかける。
それでも私は、未来への希望で興奮していた。
ワクワクしていた。
最高の冒険者になれる道が見えてきた。
現実味を帯びてきたー




