第5話 冒険者の資格
「なぜ叩かれたか分かっているわよね。 あなた、余りに弱すぎるわ。 こそドロの真似事、それに卑怯で卑劣で陰湿な戦いのテクニックは持っているけど、それ以外は問題外だわ。」
酷い言われようだ。
だけど、私は黙ったまま、その場でピクリとも動けずに硬直していた。
言い返せずにいた。 戦士として、冒険者としての格の違い、戦闘力。
そして、彼女の燃え盛るような熱い眼差しとオーラが、それを許さない。
「しかも、それなのになぜか異常なほどに勇敢で、無鉄砲で、好戦的すぎるわー 冒険者はもう少し慎重で、臆病でなければならない。 あなたは冒険者には向いてないわ。」 冒険者が臆病?
その言葉には違和感を覚えた。
その言葉には納得できない。
冒険者が勇敢で何が悪い。
「あなただって、か弱い女の子じゃない。私と何が違うっていうの? 」
ようやく私は、勇気を振り絞って彼女に反論する。
「そう、その通り。私たちは女性で、体格でも、筋力でも男性冒険者たちには勝てない。 けれども、私たちほかの女性の冒険者にはあって、あなたにはないものがある。
私たちは魔法が使える。
でもあなたは魔法が使えない。」
エレスが怒りと熱情を抑えて、冷淡な真実を告げた。
私が魔法を使えるかどうかは、鑑定魔法でステータス表示をみればすぐにわかる。
エレスはさらに私の心を踏みにじる。 追い打ちをかける。
「どうして魔法が使えないか?言ってあげましょうか?
それは、魔法を覚えたくても覚えられないから。
持って生まれた魔導力が低すぎて、どんなにレベルの低い魔法でも、使える魔法が1つもないから。違って?」
ギクッ 私の鼓動が速くなり、呼吸困難になる。
エレスは適確に私の弱点を付いてくる。 私の状況を見抜いてくる。
「 わ、私は、魔法なんて使えなくったって、 強いからいいの。あなたにだってー 」 勝てるーそう言おうとしたが、言えなかった。 精一杯強がりを言ってみようとしたが、声がうわずってそれも出来なかった。 エレスはそんな私の反応を見て、一瞬驚いたが、すぐにあきれ返った表情をした。
「 正直、あなたみたいな人がいると、私達も迷惑なのよ。 ギルド全体の評価が落ちる。 私や真剣に生きている、戦っている冒険者まで、一般市民から誤解されるわ。 だからー」
確かに、今日の私は少し浮ついていた。
街の冒険者連中に自分を売り込む為とはいえ、連中の武器を盗むのは少しやりすぎだった。
エレスがひと呼吸置いて、次の言葉を紡いだ。 それは覚悟を決めた言葉だった。
冷酷で、悪寒を覚えるような瞳で私を見つめて言った。
「今日を最後に辞めることね。 もう金輪際、ここにもギルドにも来ないで。 今度あなたを見つけたら、私はあなたを許さないわ。」
そして、最後のその言葉で私の心に戦慄と恐怖を植え付ける。
それから彼女は、そのまま立ち去って行った。 残った私は、黙って、時間が止まったようにその姿を見つめていた。
結局、最後は言い返せなかった。
戦士としての能力の差もあるが、彼女の凄みや情熱、怒りの炎に怖じ気づいて、抵抗出来なかった。
反論出来なかった。
彼女には、私と同じオーラを感じる。 強さに違いはあるものの、同じ心の痛みと傷を背負う者の青白い炎をー 冒険者たちの反感を買って、恨まれて 粛清されるのを防ぐため、大金を支払ってまで冒険者たちの溜飲を下げてくれた。
そして、私の冒険者としての欠落や能力不足を、見抜いた。
私が冒険で命を落とさないように、私の命を守るために、冒険者を辞めるように言い聞かせてきた。
彼女はいったい何者だろうか?
この短い人生の中で、いったいどんな濃密な時間を過ごしてきたのか?
経験を積んで来たのか?
その夜、私はどこかの小屋の中で藁に埋もれながら、彼女の事に想いを馳せていた。
こんな気持ちはいつ以来だろう。
そう、この温かくて、幸せで、切なくて、そして言葉では表現できない気持ちは、 あの時以来だ。
親友が通り魔にメッタ刺しにされて、殺された以前の日常ー
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