第11話 操り人形の糸3
「 メノウ、逃げなさい。」
「 マリー!!」
「 気にしなくていいわ。こうなったのは、最初に私が転移門を踏んだのが原因なんだから」
本当、前世といい今回といい、なんという間の抜けた死に方なんだ。
「 ここで私がヤツを止めるわ。もう、それしか手はない。操れる人形も、もういないし」
「操れる人形なら、ここにいるわ 」
「 えっ?」
メノウが呟いた。
「私を操りなさい。マリー。あなたの剣技と私の魔導力があれば、ヤツとも戦えるわ 」
「でもー」
「私は魔法使いの名家、アインクラッド家の末裔にして偉大な魔法使い、ヴァミューレ・ナディアス・アインクラッドを姉に持つ至高の魔法使い。何も心配する事はないわ 」
そう言ってメノウが微笑む。
なんという気の強さ。いや、なんという強がりか?
私もかなり思いきりのいい性格だが、彼女はそれ以上かもしれない。
「いくわよ!! 」
私が迷っていると、メノウがデュラハンめがけて走り込む。
「待っ!! 」
スライムを全滅させたデュラハンが暗黒剣を振り下ろす。
「アクセス!! 」
私の意識をメノウの意識に接続して、彼女の動きを操る。
メノウはデュラハンの剣を左方向へ払い除ける。
キィィーン
火花が散る。
デュラハンがさらに剣で斬りつける。
メノウは今度はさっきの反対方向へ半回転してデュラハンの剣を右側に払い除ける。
次々とデュラハンが剣撃を放つ。
それをメノウが、いや私の剣技が、左右それぞれに剛腕の剣を受け流して次々と払い除ける。
凄いー
メノウが心のなかで驚いているのがその意識を通して伝わってくる。
デュラハンが古代の騎士の亡霊なら、私は現在の武士の生き残りである。
異世界でただ1人戦い続けるラストサムライと言ってもいい。
破壊力もスピードも敵が圧倒しているが、生前合気道5段だった私の日本古来から伝わる古武術の神秘がヤツの剛腕を翻弄する。
デュラハンが掲げた剣から漆黒の炎が溢れ出す。
魔法剣ダークフレイム・ソードを放つ気だ。
まずい!!
私はメノウを後方に下がらせる。
大丈夫よ!!マリー
そう言って、メノウは魔法耐性によって私の操り人形の糸( 意識 )に逆らい、立ち止まる。
正気か?!
メノウは剣を掲げると、魔法剣を発動させた。
私を信じて剣を振って!!
再び私の意思でメノウの体を操り、その魔法剣を振り下ろす。
ダークフレイムソード
セイントフレイムソード
ほぼ同時に剣が撃ち込まれ、2つの魔法剣が激突する。
漆黒の炎の剣と、メノウが放った聖なる光の炎の魔法剣が激突し、大爆発を起こす。
ピキィイイイーン
破壊力はほぼ互角だが、メノウのウィザード・ソードが砕けてしまった。
次の剣撃をデュラハンが振り下ろす。
メノウは折れた剣を捨てると、地面の上を転がってかわす。
ケアルラ!!
そして、地面を転がりながら回復治癒魔法を唱えて、デュラハンに倒されたスライムたちを回復させる。
スライムは中心の核さえあれば再生する。
デュラハンに輪切りにされたり盾で飛ばされて岩などに激突して潰れたスライムたちが再生して元に戻る。
そして、空中に跳ねて地面に向かって粘液を吐き出した。
地面を転がって逃げるメノウをデュラハンが追ってくる。
その地面に貼り付いた粘液の上を歩くデュラハンの靴に粘液が纏わりつく。
地面を転がるメノウがそのまま地面に寝た状態で蹴りを放つ。
足払いでデュラハンの足を引っ掛ける。
地面に貼り付いた粘液で足元が滑りやすくなっているため、デュラハンはその場で転倒した。
そのスキにメノウは立ち上がる。
メノウ!!
そして私は、アイテムボックスから予備のウィザード・ソードを取り出し、メノウに投げる。
メノウはその剣を受け止める。
デュラハンが立ち上がり漆黒の炎の魔法剣を振って地面に貼り付いた粘液を焼き払う。
あの漆黒の炎の魔法剣を何とかしなければー
「スライム!!」
スライムが跳ね上がる。
私はスライムに命じて、口から水を発射させる。
大量の水がデュラハンに降りかかる。
バシャアー!!
だが、その暗黒の炎は消えない。
デュラハンがメノウに向かってその黒炎の魔法剣を放つ。
メノウは聖なる炎の魔法剣でそれを払い除ける。
真正面から受け止めず、破壊力を受け流したため、剣への負担は少ないが、それでも微かにひび割れる。
やはり、あの黒炎をなんとかしなければ。
しかし、この暗黒の炎は闇属性の炎なので、普通の水では消えない。
それならばー
私はアイテムボックスから、瓶に入った幾つものポーションを取り出す。
そしてその幾つもの瓶詰めのポーションを、スライムめがけて投げつける。
骨がひび割れた右腕が軋んで痛いが、それを我慢して次々とスライムたちに投げつける。
スライムたちはそのポーションを瓶ごと取り込むと、体内でガラスの瓶を溶かして中から液体を取り出す。
そして、今度はそのポーションの液体をデュラハンめがけて発射した。
ポーションには、神聖なる魔法の力が付与されてる。
その神聖なる魔法の純水を浴びたデュラハンの魔剣から、暗黒の炎が消えた。
「 今だ!! 」
メノウがセイントサンダー・ソードの魔法剣でデュラハンを斬りつけた。
ギィエエエエ
ポーションで濡れたデュラハンの体に、聖なる雷の魔法が流れ込む。
デュラハンが盾で反撃した。
盾を喰らったメノウが吹き飛ばさる。
「「 ぐはっ!! 」」
私とメノウが同時に悲鳴をあげる。
メノウのダメージは意識を接続している私の所にも来るのだ。
それを見たデュラハンがメノウの剣技の正体に気がついた。
「 そうか、おまえがこの女を操っていたのか」
デュラハンはそう言うと、メノウを放って私に向かって走ってきた。
私を殺せばメノウの剣技も同時に無力化できる。その事に気がついたのだろう。
「 マリー!!」
メノウは着地すると、私めがてウィザード・ソードを投げた。
私はウィザード・ソードを掴む。
だが、ウィザード・ソードは魔導力を破壊力に変える剣。
魔導力がゼロに近い私が使っても、破壊力が出ない。
意味がない。
本来はー
ウィザード・ソードを受け取った瞬間、魔法紋が光輝き、身体能力強化の魔法、スピリトゥスが発動する。
そして、魔法紋から流れ出る魔導力がウィザード・ソードに流れ込み、魔導力の輝きを見せる。
魔法紋に蓄えられた魔導力では、ウィザード・ソードを使えるのは1回程度。
だが、私にはその1回で充分だった。
スライムたちが再び跳ね上がり、口から粘液を発射する。
その粘液がデュラハンに絡みつく。
神聖な魔導力の浸透したポーションを浴びた暗黒剣は、炎を纏うことができない。
デュラハンは身動きが取れなくなる。
セイントフレイム・ソードー
メノウが私の剣に魔法を付与する。
私の剣から聖なる炎が沸き上がり、私はその剣で斬りつける。
ギシィヤヤヤヤー
デュラハンが断末魔の悲鳴をあげ、消滅した。
ビキィィイイイ
私の右腕が折れた音がした。
「 マリー !!」
メノウがこちらへ走って来た。
「ケアルラ!!」
そして再び回復治癒魔法を私にかける。
「勝った、勝ったわね 」
「 マリーあなた凄いわ。」
「 メノウの魔法剣のおかげよ。アインクラッド家のあなたの力、見届けたわよ 」
「マリー!! 」
そういってメノウは私を抱きしめる。
「 痛たたたッ、メノウ、痛いって!!」
私の折れた右腕に激痛が走った。
そして、このお嬢様、抜けてるな。
私は心の中でそう思った。
数ある作品の中から、この作品を選んで頂いてありがとうございます。
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