第6話 お怒り
「大丈夫? 」
メノウが膝を擦りむいて痛がっている。
ほかにも打撲とか目に見えないダメージがあるのだろう。
私は彼女を気遣い手を差し伸べる。
すると、メノウはその手をはねのける。
「気安く触らないで!!さっきも勝手に肩とか触って、馴れ馴れしい!!」
「えっ!?」
私は非常に驚いた。
「なんだコレは、新手のツンデレか!?
せっかく助けてあげたのに。」
「はあっ!?ツンデレ!?
何訳わかんない事言ってるの?
助けてあげたですって!?
もとわといえば、あんたが転移門のトラップに引っ掛かったせいでこうなったんでしょうが!!
どう責任をとってくれるのよ!!」
メノウ様は心底ご立腹らしい。
いや、今までずっと我慢していたが今回魔物たちに攻撃された事でいっきに爆発しただけかもしれん。
そういえば、エレスには彼女に対しては礼儀正しくして粗相のないようにしろとかなんとか言われたような気がする。
たぶん良い所の貴族か何かのご令嬢様なのだろう。
エレス姫様とは違ったタイプのツンデレさんだ。
「転移門の事はもう謝ったでしょう?」
「謝ってないでしょう!!
しかも私のせいにしようとして!!
この、優秀な魔法使いの血をひくこの私のせいにしようとするなんて!!」
メノウが杖をついて立ち上がる。
「 その上さっきは私の名前を間違えたわね。」
駄目だ。次から次へ私に対する不満や問題点を並べてくる。
何とかしてご機嫌をとらなければ。
「はい」
そう言って私はポーションを彼女に差し出す。
「ポーション?そんな安っぽいアイテムなんていらないわよ。
ケガくらい、回復魔法で自分で治すわ。」
メノウは、ポーションという低価格のアイテムが嫌いなのではなく、私からアイテムをもらうのが嫌なのだろう。
「ダメよ。メノウ。これからまたまだ沢山の魔物たちと戦う事になるわ。
魔力は少しでも温存しておかないと。」
「 いらないって言ってるでしょう!! 」
そう言ってメノウは草原を歩いていく。
メノウは自分に回復魔法をかけると、早足で歩いていく。
私は彼女の顔を見ながら歩いていく。
そして、どう話を切り出すか考える。
彼女に提案したい事があるのだ。
だが、その提案は非常に言いにくい事であるため、私は躊躇している。
キッ メノウが振り返り睨みつける。
「 何!?さっきからジロジロ見て。」
「 あの、メノウ、1つ提案があるんだけど、その武器、その魔法の杖、こっちに渡して頂戴!?」
「 えっ!?」メノウが怪訝そうな表情をする。
「 変わりに、渡したい武器があるわ。」
そして私は、ウィザード・ソードという紫色の剣を取り出す。
「 はあっ!?あんた何を言ってるの!!」
「 この剣はウィザード・ソード。持ち主の魔力を破壊力に変える事ができる剣よ。」
「 そう言うことを言っているんじゃないわ。どうして私が、この剣を装備しなけゃなんないのよ。しかも、この魔導師の杖はわが家の代々伝わる家宝なのよ。
どうしてそんな剣のために、私がこの家宝の杖をあなたに預けなくちゃならないのよ。
私は、魔法使いの名家の血統だって言ったでしょう?」
メノウが全力をもって嫌がる。
「あなたの黒魔法は、5、6人の仲間がいる時には強力な力と効果を発揮する事ができる。
前衛を守る盾となる仲間たちがいる場合よ。
でも今は私たち2人しかいない。
私1人ではどうしても襲い来る魔物を撃ち漏らしてしまう。
そうなればあなたは自分自身で身を守らなければならない。
ウィザード・ソード。このアイテムはそこまで高級な魔法具ではないし、性能がいいわけでもない。
けれども魔導力を変換して力に変える事ができるわ。
この武器があれば、後方支援・遠距離攻撃専門の魔法使いであるあなたでも接近する魔物を撃退する事ができる。
襲い来る敵をその剣で迎え撃つの。」
「 嫌よ。魔導杖とは魔法使いにとっての魂だわ。この杖には我がアインクラッド家の血と汗と生命が宿っている。
そして、私の姉から貰った大切な宝具よ!!
この杖を手放す時は私が死ぬ時だけだわ。
尊敬する姉から受け継いだ、魔法使いとしての誇りを失ってまで、私は生きようとは思わない」
メノウは私のした提案を一応理解してくれたらしい。
ただの思いつきで言ってる訳ではないことを。
だが、貴族である高貴な血統の彼女には私のような庶民には解らない謎のこだわりとプライドがあるようだ。
そして、姉の事を特別に思ってるらしい。
しかし、今はそんな事を言っている時ではないのだ。
「 お願い、聞いて。メノウ。私たちは、生き延びなければならないの。
そしてエレスたちを、パーティーメンバーたちを救わなければならない。
あなたの言う魔法使いの誇りとは何?
それはその杖や指輪の事なの?
魔法具や精錬されたアイテムの事?
私たち冒険者の誇りとは、仲間を思いやる気持ちや人々を救いたいという強い意思じゃないの?」
メノウは少し考え込み、左下の地面を見つめる。
生前の姉の生き方を思い出したのだろう。
「言いたい事はわかったけど、私は、私の一族は代々魔法使いの家系なのよ。
呪文を唱えられても剣なんて使えっこないわ。」
「人は自分の未来を切り開くために、過去
と決別しなければならない事もあるの。
新しい事に挑戦しなけばならない時もあるのよ。
私があなたを守るわ。だからお願い、あなたも私に力を貸して」
私は、過去の自分と決別できたのだろうか?
いや、今でも私は、転生前の後悔を引きずって生きているのではないのだろうか?
メノウは少しうつむいたまま、考え込み、剣を受け取る。
「そうね、こうなったのはあなたのせいだもの。あなたに責任をとってもらうわ」
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