第3章 魔法使いの生きる道 第1話 ゴーレム
私たちはテングレムの森を抜けて、エルザムの草原に出た。
いよいよ目的地、チェンバレンの王国だ。
「いい事、あなたたち、エレスがお姫様だという事は絶対に内緒よ。
特に、アベルさんには黙っておくのよ。」
アベルさんに言ってしまうと、酔った勢いで全て話してしまいかねない。
「まったく、あの人には本当、困ったものよね。」
「それはあなたでしょう。
何勝手にこの娘たちに話してるのよ。」
エレスが私の腕を捻り上げる。
「だって、一応フィルたちにも、何かあった時の対応はしてもらわないといけないから。」
「本当にもう、あなたにはあきれてものも言えないわ。」
この言葉を、もう何回聞いたのだろう。
私はこの娘たちを連れてきたのは、彼女たちの訓練と、戦力を増やしてより安全に森を抜けるため。
でも、もう1つ理由があった。
彼女たちを、いずれはこの街に招き入れる。
そして、エレスと私の仲間、パーティーメンバーになってもらう。
今日はこの布石だ。
拠点が変わっても、何も変わらない。
彼女の故郷の王国、リバンドン王国を救済し、取り戻した後、私は彼女に王姫を辞退してもらう。
そして、彼女には引き続き私のパーティーメンバーに戻ってきてもらう。
彼女には、窮屈な王宮暮らしなど似合わない。
自由に羽ばたく、鳥になってもらう。
彼女は、冒険者としてのエレスが似合っているのだ。
それは、ともに数ヶ月を過ごした私にしかわからないことだ。
☆☆☆☆☆☆
チェンバレン王国に到着した。
チェンバレン王国は美しい、色彩豊かな宮殿や建物が建ち並ぶ先進国だ。
フィルたちは、迎えにきたアベルさんたちに引き取られていった。
テングレンの森を通ったのは、国境に検問を敷く帝国軍の網の目をかいくぐるためだったので、アベルさんたちには普通にここまで旅してきてもらう。
フィルが泣きながらアベルさんたちに連れて行かれた。
私たちと離れたくないそうだ。
だいぶ懐かれてしまったな。
そして、私たち2人は、宮殿へと向かっていった。
ズドーン
突然、東の方向から大爆発が起きた。
何!?
キシィィアアア!!
そして、魔物の咆哮がする。
「行きましょう!!」
エレスが長剣を抜いて、走っていく。
私も連れてってくれることが、少し嬉しかった。
私はエレスの後を追いかける。
街の広場で、魔物が暴れていた。
サイクロプスという、1つ目の巨大な岩石でできた人型っぽい魔物だ。
エレスが風の魔法を放つ。
エアロが命中するが、硬い岩盤のような魔物にはダメージは与えられない。
私は跳躍すると、巨人の背中に剣を斬りつける。
キィィーン
弾かれて、巨人は振り返ると、パンチを撃ってきた。
「マリー!!」
エレスがエアロで私を吹き飛ばしてくれたおかげで、巨人のパンチが当たらないですんだ。
私は建物の屋根に飛び移ると、火炎瓶を投げつける。
巨人の頭部で爆発する。
巨人の注意が私に向いている間に、エレスが駆け抜けて巨人の足元に、魔法剣、アイスリンクソードを斬りつける。
巨人の足元が凍りつく。
巨人がエレスを殴ろうと、拳を振り上げる。
私はアイテムボックスからリボンを取り出すと、エレスに向かって投げつける。
エレスがリボンの先を掴む。
私はそれを引っ張り上げる。
巨人が拳を振り下ろすため、一歩踏み出すと、巨人は滑って横転する。
エレスにアイスソードで斬られて凍りついた足元が、滑ったのだ。
巨人が立ち上がろうとする。
暗黒属性の魔法具の接続が完了した。
「グラビティ」
私は重力魔法を使って、巨人を見えない圧力で押さえつける。
打撃や魔法でダメージを与えられないなら、とりあえず動きを封じ込める。
だがそれは時間稼ぎに過ぎない。
「エレス!!」
エレスが跳躍して、高速で連続してアイスソードの剣撃を放つ。
巨人の巨体が凍り付く。
しかし、それでも倒せない。
巨人が立ち上がった。
まずい、グラビティの効果が切れる。
そう思った瞬間、遠くから、炎の魔法フレイムボールが数十発飛んで来た。
そして、巨体の身体に命中して、爆発する。
さらに、建物の屋根を蹴って跳躍した人影。
白と青が基調の騎士服を着た魔法剣士が聖剣を振り下ろすと、巨人の身体を切り裂く。
巨人から青白い炎が溢れ出し、巨人がゆっくりと倒れる。
そこに立っていたのは、
銀髪の美しい、魔法剣士だった。
その後ろには数十人の王国魔法士団である。
「あなたは、カイン」
「お久しぶり。 エレナ。」




