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第2話 新人研修

「ちょっと、待ってよ。エレス。

 今回は仕方ないでしょう。ほかのどこの誰かもわからない冒険者に教育してもらっても、彼女がちゃんと成長できるかどうか。

 だったら、私たちで彼女をある程度のレベルの冒険者にしてあげないと。」

 森の中を先頭に立って早足で歩くエレスに、私は呼びかける。

 冒険者の新人研修は、基本同じ先輩冒険者たちが引き受けるのだ。

 私たちが断ってもギルドもそれなりにマトモな冒険者に教育係をまかせるだろうが、いかんせん脳筋タイプが多い。

 例えばアベルさんとか、アベルさんとか、アベルさんとか。

「別に怒ってるわけじゃないわ。

 ただ、私は1人で戦うのが気楽なだけよ。しばらくの間だけなのでしょう?

 彼女といるのは。

 あなたみたいに、ずっと何週間もつきまとってくるわけじゃないんでしょう。」

 エレスが真顔で睨みつけてくる。

 やっぱり機嫌が悪い。

「それに、彼女の教育係はあなたが引き受けてくれるんでしょう。責任を持って。」

 エレスが腕を組んで、薄ら笑いを浮かべる。

「はははー」

 私も、彼女にあわせて苦笑いを浮かべる。

「お二人とも、私の事はそんなに気にしないで下さい。

 これでも私、一応訓練は受けてますから。

 きっとお二人のお役に立てると思います。」

 フィルの声で、私は振り向く。

「フィル、あなたは、修道女なのよね。

 やっぱり回復魔法が得意なの?」

 私が彼女に質問する。

「はい、あと基本的な付与術とかも少々。

「そう、じゃあ、基本後方支援担当なのね。」


 私がそう言うと8匹のスライムが現れた。

「そう、それじゃあ、まかせるわ。」

 そう言って私はフィルの背後に回り込み、彼女の後方へ下がる。

「頑張って」

「えっ!?」

 フィルが驚く。

「あの、先程説明した通り、私は後方支援担当の、修道女でして。」

「ええ、わかってるわ。」

「それじゃあ、いったいどういうことですか?」

「そんなの決まってるわよ。

 あなたが1人で戦うの。」

「そ、そんな。無茶言わないで。」


「何言ってるの?もしも前衛が突破されたらどうするの?」

 魔物が接近してきた時の対処法も覚えないと。

「えっ、ええー。」

 さあ、速くしなさい。来るわよ。   


 少し冷や汗をかきながら、フィルは慌てて杖でスライムを叩く。

 3匹のスライムを跳ね除けると、杖を掲げて魔法を唱える。

「プチフレイム。」

 えいっ!!

 杖の先端に光がやどる瞬間、私はアイテムボックスからムチを取り出すと、彼女の杖に巻き付けて奪いとる。

「えっ!?今度は何ですか?」

 再びフィルは驚く。

「ズルは駄目よ。

 遠隔魔法を使ったら接近戦の練習にならないでしょう。」

「で、でも。これじゃあ武器がない!!」

「何言ってんの。戦いの最中武器が壊れることもあるでしょう。

 素手で戦いなさい。素手で。」

「そ、そんなぁぁああああ!!」

 フィルは悲鳴をあげる。

 スライムが飛び跳ねながらフィルに飛びついてくる。

「エレスさん、助けてください。」 

「頑張れー」

 エレスがボソッと呟いた。

「エ、エレスさぁぁぁーん。」

 エレスにまで見放されたフィルは涙目になる。

 しょうがない、冒険とはそれくらい過酷なものなのだ。

 あんま考えたくないけど、彼女が次に所属するパーティーで、例えば前衛が全滅する可能性だってある。

 そうなれば、結局戦うのは彼女一人になるのだ。

 フィルは慌ててスライムを殴りつける。

 フィルのパンチが3匹のスライムを弾き飛ばす。 

「おお、中々スジがいいわね。

 でも、これはどうかしら。」

 そう言って、私は側にいたスライムを素手で捕まえると、必死に戦っているフィルの背後から思い切り投げつける。

「ふぎゃあああ」

 フィルの後頭部にスライムが直撃し、フィルは情けない声をあげて前に倒れる。

「痛たたたーっ」

 起き上がろうとするフィルだが、フィルが真っ青になる。

 両手をついて頭をあげると、スライムが一斉に飛びかかってきた。

「いやぁぁあああー」

 フィルの悲鳴とともに、フィルはスライムにまとわりつかれる。

 おお、なんて、無様なんだろう。

 けれどもそれもしょうがない。

 彼女のためなんだ。


 


 

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