第8話「新設計」
VERTEX JAPAN工場。
ここでは自社で開発したパワーユニットの耐久テストを行っていた。
「次の設計コンセプト、リアエリアをさらに絞る形状にするなんて…ただでさえ非力なパワーユニットなのに、それに合わせてパワーユニットも小さくしたらさらに非力に…ストレートで戦えないよ…」
「そうですよね…ですと、燃料流入量を一番多いものにしてもらったり、デプロイメントの使用量を最高設定にしてもらったりするしか…」
「それだと、パワーユニットが持たない。3戦ごとにパワーユニットを変えるようなことになりえない。」
試験室にはたくさんのモニターが並んでおり、様々な箇所のデータが表示されていた。
その時ドアが開き、代表が入ってきた。
「おう、お疲れ様。ほれ、コーヒーだ。」
「あ、ありがとうございます。」
「それで、どうだ?」
「まぁ、言わなくても分かる通りっすよ。」
「パワーがないと。」
「そのとおりです。」
「だから、これを使おうと思うんだ。」
「こ、これって!?」
イギリス、StormF1。
「なぁ、マシン設計の方は順調か?」
「あ、ストーム代表。えぇ、順調ですよ。今度はリア周りをタイトに絞り込んだデザインにしてみます。」
「昔のマクラーレンみたいなものか。」
「そうです。あのサイズゼロコンセプトを取り入れてみようかと。」
「にしても、最初のデザインは向こうで作って、それ以降はこっちに、って。こっちが好き放題できちゃうじゃないですか。」
「だからこそ、無理難題を押し付けてあいつらを試してみようとしているんだ。」
「代表も悪い人ですね〜。」
「実際、サイズゼロはリア周りの空気流を変えてストレートスピードの向上には繋げられます。ただ、リア周りを絞るということはパワーユニットを小型化させざるを得ません。」
「だからこそ、今VERTEXは新しいパワーユニットを作っているんだ。せっかく馴染んできたパワーユニットを捨てるなんて、残念だよな〜。」
「でも、このプロジェクトリーダーのヤスオは諦めない、とよく聞きます。それで松下とか永野とかをF1にまで送り出した。」
「そうなんだ。あいつは何かあってもへこたれない。最後まで、結果を出すまでやりきってしまうんだ。」
「だから、正直、その部分を見てみたくもある。」
「どんなパワーユニットが届くかですね。」
日本
「これって新設計のパワーユニット?」
「あぁ、私が秘密裏に設計してきたんだ。」
「パワーも以前まで使ってきたものと変わりない数値を出せるだろう。理論値ではあるが…」
「これってスプリットターボ方式…」
「おっ、気付いた?これ、メルセデスがパワーユニットを開発し始めたころ使い始めた技術だ。パワーを効率よく生み出しやすいんだ」
「これは確か、高回転域でも、低回転域でもパワーを効率よく生み出せるから、次投入予定のモナコでも十分使えますよ!」
「それも狙ってのタイミングだ。」
「でしたら、今ここでテストしているのは予備のものとして開発は続けます。」
「その方向で頼んだ。」