第4話「新レギュレーション」
松下大輝はチームのエンジニアと話し合っていた。
「なんで俺達のST-02BとかST-03と設計を共有しなかったんだろうな。今のST-03も完成度は高いけどST-02Bの方がさらに完成度が高い。ならどちらかと設計を共有してもよかったのでは?」とエンジニア。
「なんか、あれなんだってさ。参戦するための条件に、すべてを自作すること、みたいな条文があったらしい。」
「そんなことするのか。新規参戦チームに対して。」
「らしいぜ。」
現在は開幕を待って、チームは準備を進めていた。
「今年、パーツのいくつかにレギュレーションの改定があって、去年とはまたマシンの挙動が変わる。」
「その、代表格が、サスペンションか。」作業台に置かれたショックアブソーバーを触る。
「そう。2社から選択制になる。」
「日本のVERTEX JAPAN製のものか、イギリスのLex Craft製のものか。」
「ただ、このサスペンションをもとにして各チーム独自に改造できるから結局は変わらないと思うけどね。」
この2社のサスペンションキットはF1の世界でこう評価されている。
日本のVERTEX JAPAN
・タイヤの持ちが良い
・タイヤに熱が入りすぎない
・調整できる数値が大まかなものになっている
イギリスのLex Craft
・タイヤにすぐ熱が入り、最高の性能をすぐに発揮できる
・調整できる数値が細かく作られている
・ロングランになると、後半、タイヤが異常に消耗する
と、お互い、美味しいところが分かれている。
マシン性能を極限まで活かしたいのであればLex Craft、タイヤの耐久力で勝負したいならVERTEX JAPANのもの、と評価も分かれていた。
「これって、シーズン中にサスペンションメーカーって変更できる?」
「それなんだが、可能だ。今年だけの特別措置だそうだ。」
「さすがにね。新しいサスペンション使えってなっても右左もわからないし。」
「Storm VERTEXの方は自社のやつを搭載するって言っていたし、比較用にまずは俺がLexのやつ使う。」
「じゃあ、それでデータを比較してだな。」
「それ次第では2つのサスペンションを組み合わせたようなものも生み出せるかもしれないからね。」