ドロシーの下僕だなんて聞いてない!!
「我がしもべユウキよーー今宵〝新たなる秘技〟の実験をするゆえ、我の部屋に来たしーー」
「心底絶対無情に拒否る」
「何故だーー!!崇高な我が礎となれるのだぞ!?」
何で礎とにならなくちゃならねぇんだよ?やだよ?
「そもそも誰がしもべだよ?お前にはアシュリーがいるからいいじゃねぇか?」
あの無口悪口偏屈女が。
「ふっーー我が親友を生贄になどできぬ……この屋敷ではお主が適任だ」
あ、生贄言った。
今コイツ生贄って言ったぞ。生贄って言った!!
ていうかお前兄弟子を何だと思ってるんだよ?おれ、そんなに妹弟子達から嫌われてるの?泣くよ?俺。
「第一俺は忙しいんだ、ほかの奴を当たれ……」
「おぬしじゃないとダメなんじゃ〜、頼む我を助けると思って力を貸しておくれ〜え〜」
そこそこ美少女のドロシーからこんなに懇願されたら、よの男性陣達はウハウハだろう。
これが中ニ病の実験体モルモット代わりじゃなきゃな!!
「こ、こら!服を掴むな!伸びるだろ!わ……わかった!わかったから俺の服で鼻をかむんじゃねぇ!ノーズウォーターつけるなー!!」
ぎゃいぎゃいと廊下で騒いでたからか、他の住人の視線を感じるーー。
「さっーーさっさと実験終わらせて晩飯にしようぜ〜」
ハァ〜…………本っ当に嫌!!!
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708号室ーードロシーの部屋にて。
「良いかユウキよ、この魔法陣の中で神に祈りを捧げるのじゃ。」
〝反転血種〟のオレに神に祈りとはずいぶんバチ当たりなこったな。(反転血腫については《転生した鍛冶師の娘》3-14 参照)
しかもこれ……なんで無駄にクオリティの高い魔法陣作ってんだよ?
魔法陣は大きければ大きいほど錬成と持続時間に魔気を大量に消費するもんだが……およそ3×3メートルの魔法陣をドロシーが作り上げるのに五秒程であったーー。
「はぁ……このレベルの魔法陣作るの普通2、3分くらい掛かるはずだろ?その才能どっか別の魔法使いにやれよ…………」
「ふっーー我は〝我のみの為に生きる〟ーーそれが〝我が魔道〟だーー!!」
顔を手で覆うように決めポーズをかますドロシー。
なにそれめちゃくちゃカッコいい!!
あとでオレも真似しよ。
「そんなことよりはよお祈りせんか?」
「はよお祈りせんかって……聖職者じゃあるめえし」
「これでも一応我も〝聖国〟出身じゃがのーー」
そうだったーー。コイツはあの国出身ーー〝聖国〟は頭のイかれた奴が多い国なんだったーー。
実際俺も〝勇者パーティー〟から追い出される前は聖国にいたからな……。
俺は頭おかしくないぞ?本当だからな!?
本当に本当だぞ!!?
「まあでも実際……聖国って絶対変だよな〜」
両手を合わせて祈りのポーズをとる。
「ええ〜、〝主〟よーー。今日の恵に感謝をします。今日の食事に感謝をします。今日の太陽に感謝をします。〝迷える子羊〟に、主の導きをお願い申しあげますーーこれでいいか?」
ふわっーーと、魔法陣が強い輝きを放つーー。
「っーー!!これはーー?」
ぽうっーーと体が薄くなり……やがて。
「……………………。」
「……………………。」
「…………あの、ドロシーさん」
「……………………なんじゃ、ユウキよ?」
目の前にいるドロシーに話しかける。
「俺ーー、体から魂抜けたんだけど?」
「ふっーー、そうみたいじゃな…………」
ふわふわっ、と幽霊みたいに浮遊するユウキを見て。
「我が〝友〟ユウキよーー」
「……………………なんだい?」
互いににこやかな笑みを浮かべる。
「…………我はナイトイートを食べてくる。達者でなーーー」
指で去り際にポーズを残し、部屋から思い切り出ていくドロシー。
「……………………。」
「俺の体帰せぇぇぇぇ!!!」
主よーー、今日の晩飯は感謝できそうにありません!!!
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「……………………。なんか今、声聞こえなかったか?」
優雅な食事が並ぶ円卓の中ーー、カーヴェラがボソリと呟く。
「さぁ……私には何とも。御前様、それよりユウキがまだ来ておりませんが……もう晩飯を頂いても?」
「来ない奴は放っておけーー、どうせあとで食べに来るだろう……どうしたドロシー?」
「べ……………………別に何も」
高速でプイッーー、とそっぽを向くドロシーであったーー。