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……第三王女、フィーリア様。
ゲームでは、名前だけ出てきた人で俺と同い年くらいの女性だということくらいしか知らない。
と、いうのも……フィーリア様が魔物に襲われて命を奪われ、その際に対応できなかったヴァリドー家は、その責任を取るという形で爵位を取りあげられるのだ。
……まさか、その事件が今日、発生するのだろうか?
まじで? まだ何の準備もしてないんだけど……。
ゲームでは別に大事な情報ではなかったため、そもそもあまり語られていないんだよ
なぁ。
第三王女が来るということで、家族たちはそれはもう楽しみにしているのだが、俺は憂鬱で仕方ない。
着替えを終えた俺が屋敷の入り口へと向かうと、すでに全員が待機していた。
……あとは、フィーリア様を待つだけという状況だ。
兄たちは、俺の方をみてくすくすと笑っている。
「おまえ、サイズ合ってないな」
「そんなのを着て、フィーリア様の前に出られるなんてさすが能無しだな」
兄二人が、そう言ってバカにしてくる。
……まあ、俺の着ている服は少し前に作ってもらったものらしく、今の自分には少しきつい。
だったら新しいものを用意してくれという気持ちだが、俺に割く金は用意されてないからな。
ため息を吐きながら、家族たちの悪口を流していく。
そんな兄たちは、どうやらフィーリア様のことを考えているようだ。
「もしかしたら、気に入られて婚約関係になれるかもしれないからなぁ……」
「フィーリア様、まだ相手決まってないもんな。オレだって、可能性はあるだろうさ」
兄たちは、どうやらフィーリア様との関係を狙っているようだ。
そううまくはいかないと思うが、そんなことを考えていると、家族たちは門の方へ視線を向けている。
……どうやら、来たようだ。
恐らくは転移石で移動してきたのだろう。護衛を数名引き連れてきたフィーリア様が、こちらへ歩いてくる。
さすがの美貌だ。このゲームが男性向けなので、女性キャラは全体的に多いし、その質もかなり高いのだが……ゲームに出ていない子たちもだいたい可愛いよなぁ。
そんなことをぼんやりと考えていると、フィーリア様が俺たちの前にやってくる。
すぐに、俺たちは頭を下げると、フィーリア様が口を開いた。
「顔をあげてください」
言われた通り、俺たちは顔を上げる。そして、俺の父ルーブルが話し出す。
「本日はわざわざこちらまで来ていただいて、ありがとうございます」
「いえ……久しぶりにこちらでの狩りの様子を見たいと思いましたので。本日はよろしくお願いいたします」
「ええ、もちろんです。フィーリア様が来られると聞いて、兵士たちもやる気満々ですよ」
嘘つけ。
「別に給料増えるわけでもないのになぁ……」ってだいたいの兵士たちが言っていたからな?
フィーリア様の護衛兼、悪逆の森での狩りをするというのだからその心労は計り知れないだろう。
それでいて、普段通り街の巡回や街周辺の調査、訓練など……日々の業務は変わらず行うんだからな。
特別手当でも出してくれないとやっていられないのだが、そういった気持ちを家族の誰も理解してくれていない。
「そうですか? ヴァリドー家の兵士たちは質が高いと聞いていますから。楽しみにしていますよ」
それは一昔前です。少し前であれば、悪逆の森の第三層の魔物くらいまでは対応できていたらしいが、給料が下がった今はそのレベルの兵士は残っていない。皆、他国なり、他領なりに移ってしまった。
俺たちはすぐに兵士と合流し、フィーリア様たちとともに街の外へと向かう。
兵士たちが街外の魔物たちと戦いながら進んでいき、悪逆の森へと移動する。
我が家から同行しているのは、俺と兄二人だ。
長男のライフと、次男のリーグル。
どちらも、不健康そうに太った見た目をしていて、とても戦えそうには見えない。
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