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「おお、レイス様! お久しぶりです!」
他の貴族たちよりも一段大きな声をあげて近づいてきた男は――よく分かっていた。
グリーラド・レントリア。
俺的、もっとも警戒するべき相手ナンバーワンの男だ。
グリーラドは他の貴族たちに比べると体型はまだマシで、精悍な顔つきをしている。
ただ、この男こそ俺の父親をたぶらかした張本人でもある。
笑顔とともに抱擁をかわす。……この外国人らしいコミュニケーションは何度やっても慣れそうにないな。
「まさか、あの小さかったレイス様がこうして家を継ぐことになるとは思いもしませんでした」
「俺も、まさかこんなことになるなんて思ってもいなかった。レントリア家には昔から色々と教えてもらっているし、これからもよろしく頼むぞ」
……まあ、父を唆した部分はあれどきちんと領地運営自体はしている。
他の貴族に比べると、領地運営自体は相対的にかなりましなので、最優先で排除するべき対象ではない。
ただ、彼はヴァリドー家に恩を売りまくって、ゆくゆくは成り上がるか、あるいは自分の傀儡を用意する気満々である。
距離感はほどほどにしておくのがちょうどいい。
「レイス様も、ルーブル様のように若くに家を任され、大変でしょう」
「まあ、周りには優秀な人間も多くいるからな。今のところは問題ない」
ルーブル様の時のように私が色々と教えましょうか? という話だろう。
「そうですか? 何か困ったことがあれば、いつでも私に相談してください。レイス様のため、ヴァリドー家のためならなんでもしますから」
「何かあれば、その時は頼もう。ただ、まあ父のようになんでも頼ってばかりでもいられないからな」
父を否定することによって、俺は暗にレントリア家を拒絶していることを示す。
さすがに彼も俺の意図は分かるようで、笑顔のままではあるが僅かに空気が変わった。
「……そうですか。それは、ご立派です。何か困ったことがあれば相談してくださいね」
再び、元の笑顔を浮かべ、彼は一礼の後に去っていった。
リームが去っていく背中を見ながらぽつりとこぼす。
「何か企んでいるように感じたわね」
「そうだな」
直接被害を与えるようなことはさすがにしてこないと思うが、俺をどう傀儡にするかは考えていることだろう。
裏で色々と動かれると面倒ではあるが、まあ、表だって被害がなければ別にいい。
ひとまず、レントリア家との挨拶も無事終わった時だった。
リームが声をかけてくる。
「……いたわよ、エンディール家」
リームが視線を向けた方を、俺も見る。
そちらには、確かに探していたエンディール家の男がいた。
太った体を惜しげもなく晒し、別の貴族と談笑を楽しんでいる。
……さて、今日の目的は彼だ。早速、声をかけにいくとしようか。
俺たちがブライト・エンディールへと近づいていくと、ブライトもこちらに気がついた様子だ。
見栄えをよくするためか、少し背筋を伸ばしたブライトは、それから笑顔をうかべてこちらに頭を下げてきた。
「これはこれはレイス様。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「エンディール家には世話になっているからな。当然だ。これからも頼むぞ」
「はい! もちろんです!」
さて、他の貴族たちならこの挨拶だけで終わりだったのだが……今回はエンディール家には色々と聞きたいことがあるからな。
「最近、エンドリアの様子はどうだ?」
「え? 特に大きな問題はありませんが……」
「それなら良かった。ただ、最近も街で暴れていた男女を捕らえたと聞いてな。治安の方が問題なのかと思ったんだが……」
「それは……特に大きな問題はありませんね」
……少し、表情が変わってきたな。
ブライトはいちゃもんつけて犯罪者にして、それから無理やり奴隷にするのが趣味だ。自分好みの人間を見つけては、そんなことをやっているらしい。
今回は、それに関しての牽制とスザクとセイリンの二名をこちらに譲ってもらうつもりだ。
むしろ、二人が捕まっていたおかげで踏み込んで話ができるので感謝しているくらいだ。
「そうか? では、男女に理不尽な理由をつけて捕まえた、というのはどうだったんだ?」
「……それは、一体どちらから、でしょうか?」
明らかに表情が変わった。
晩餐会がなければ、セイリンと奴隷契約を結ぶことも考えていたはずだ。
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