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「……スザクと一緒に捕まっていた女性は、もしかして『セイリン』って名前じゃないよな?」
……違っていてくれ、と願うばかりだったが、クーラルの首は縦に振られた。
「そうだよ。なになに、知ってたの? もしかして、私のこと試してたの?」
「……いや、違う。単純に、最悪の状況だったら……そうなっていたかもしれないと思ってな」
……マジかぁ。
俺は小さくため息を吐きながら、スザクのことを考えていた。
明らかに、早いのだが……物語が動き出している。
スザクがセイリンとともに活動を開始しているのにも驚きだが、最初に起こるイベントがすでに発生しているなんて。
この後、スザクはセイリンとともに悪役貴族の地下牢から脱出することになる。
脱出される前に、行動を開始したほうがいいかもしれない。
「それでこれからどうするの? あの男のところに捕まったってなると結構やばいかもよー?」
「……まあ、そうだな」
とはいえ、原作通りなら何もされることはないと思うが。
いや……話変わってきているし、やばいのか?
「今のヴァリドー領の貴族にまともなのは少ないからね。ま、新しい領主様はかなり頑張っているみたいだけど、それでもあのヴァリドーの息子だし。どうなることやらって感じだよ」
「確かにそうだな」
ヴァリドール内での評判は良くても、まだ他の街までそれは伝わりきっていないだろう。
特に興味のない一市民にとっては、その考えが強いだろうしな。
エンディール家、か。
……捕まったのがつい最近というのなら、まだすぐに脱出はしない、か?
どちらにせよ、助けに行くつもりではあるが……その手段は悩んでいた。
「どうするの? 助けにいく? 私に依頼するっていうなら、追加料金いただくけど?」
クーラは料理を注文しながら、そんなことを言ってくる。
その代金は誰持ちだ? という目で見るが、気にせずパフェのようなものを食べている。
……救助、どうするかね。
俺の考えているこの件の終わりは、スザクとセイリンを屋敷で保護するというものだ。
……そのためには、クーラに依頼をお願いして救助してもらうというのは少しまずい。
俺とリョウとの明確な繋がりが生まれるわけで……それら含めてクーラに話をするか?
だが、今度はエンディール家との関係にも発展してくる。
捕らえていたスザクとセイリンが抜け出して、ヴァリドー家に保護されているとなれば、エンディール家としてもつまらないだろう。
……となれば、エンディール家を脅して直接二人を奪い取ったほうが色々早い。
うちの貴族たちは、叩けばたくさん埃が出てくる程度には、細かなやらかしが多いからな。
そもそも、ブライトがセイリンの見た目を気に入り、いちゃもんをつけて捕らえたんだしな。
それをつつくだけで、十分だろう。
「いや、救助には俺の知り合いをいかせるから大丈夫だ」
「へぇ、知り合いって貴族さんの家に侵入できるくらいの人なの?」
「まあ、そんなところだ。情報ありがとな。また何かあれば依頼させてもらう」
「ご希望に添えたようで、良かったよー。あっ、料理もありがとね!」
奢る、とは言っていないのだが能天気な笑顔を浮かべるクーラに、俺はため息まじりに持っていた金をテーブルにおいた。
これで少しでもクーラの心象が良くなるのなら、今後も色々な依頼を頼みやすいだろうしな。
もうすぐに晩餐会も開かれる。
ひとまず、エンディール家とはそこで話をし、丁寧な交渉で二人を譲ってもらおうじゃないか。
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