73
今ヴァリドー領内には五つのダンジョンがある。それらの管理はヴァリドー家が行うということで無断での攻略を禁止する旨を、各家、各ギルドへと通達した。
特に大きな反発はなく、むしろギルドからは喜ばれた。
ダンジョンに関しては魔物が出てくるとかそういった被害は何もないというのは確かだが、近場のダンジョンに関しては定期的に調査をするよう言われていたので、その仕事がなくなって喜んでいるようだ。
現在あるダンジョンの情報については、ギルドでまとめてあるそうで、今俺はヴァリドールのギルド長に資料を持ってきてもらっていた。
ギルド長とはそれほど関係があるわけではないのだが、俺のことはもちろん知っているようで少し緊張しているようにみえる。
何度か、ギルドの片付いていない依頼を達成したおかげだろう。……まあ、それについてもうちがアホみたいに安い報酬などを設定したというマッチポンプ的な理由だ。
ただ俺は、ギルドから持ってきてもらった紙の資料に驚いていた。
ダンジョンについての情報、ではなく……パソコンで印刷したかのような紙だったからだ。
……いや、もちろん地球でのパソコンの印刷技術に比べると、かなり劣る。
少ないインクで印刷しました、みたいなところどころ掠れたような文字になっているのだが、それでも読めないことはない。
「ど、どうされましたか?」
俺があまりにも黙っていたために、ギルド長が怯えた様子で問いかけてくる。
……多少、俺のいい話を聞いていたとしても、ヴァリドー家の跡継ぎなのだから警戒されるのは当然か。
俺はすぐに彼の不安を拭い去るために笑顔とともに首を横に振った。
「少し、驚いていてな。この資料は魔道具で作り出したのか?」
「……あ!? も、申し訳ございませんでした! 急いでいたもので……! すぐに、作り直させます!」
俺の問いかけに、なぜかギルド長はひどく慌てた様子で頭をさげてくる。
……どういうことだ?
「いや、待て。別に怒っているわけじゃなくてだな……これは魔道具で作ったものなのかだけ教えて欲しいんだが……」
「……え、ええ……そうです。フェアリー族が作ったものでして……申し訳ありません」
「……なぜ、謝るんだ?」
「え? そ、その……貴族の方々はフェアリー族が作ったものは使わない……ですよね? ですので、その……貴族の方々に提出する資料に関しては、すべて手書きだったのですが、うっかりしてしまいまして……」
……なぜ、そんな面倒なことをしているんだ貴族たちは?
さらに、俺はギルド長に質問を重ねていく。
「別に俺としてはこのほうが時間短縮になるからいいと思うのだが……そういえば、貴族たちはこう言ったことはしていなかったな。フェアリー族が作ったものを使ったらダメとかそんなルールがあるのか?」
「いえ、詳しくはわかりませんが……手書きの方が温かみがあるとか……私の前のギルド長は怒られ、クビになってしまった……そうです」
なので顔を青ざめている、と。彼の脳裏には、きっと守るべき家族たちの姿が浮かんでいることだろう。
俺は別に前世では独身だったので、そこまでの覚悟というものは分からないが……とても申し訳ない気持ちになってきた。
「そうか……例えば、フェアリー族の技術を使っていて問題があるとかはないのか?」
「それは、特にはないと思います。もう長い間ギルドでは魔道具を導入していますが、特にそういった問題は聞いていません。」
「そうか。あといくつか聞きたいんだが――」
そう言ってから、俺はギルド長に質問をしていく。
そうして分かったのは、どうやら貴族たちの頭が随分と固いというこだ。
まあでも、日本にいたときも聞いたことがある話だ。
日本で例えるなら、表計算ソフトの自動計算では信用できないから、電卓で計算しろとか、その少し前は電卓は信用ならないからそろばんで計算しろとか……。
とにかく、そういった最新技術に対しての嫌悪感というか不信感のようなものがあり、貴族の家ではフェアリー族の魔道具は導入されていないらしい。
馬鹿か。そのせいで、どんだけ計算ミスしてると思ってんだ。意図的なのかただの馬鹿なのかは分からないが、ざっと見ても税に関しては計算ミスが多いんだよな。まあ、ある程度は仕方ないらしいが、それにしたってだ。
……貴族への怒りはまたあとで本人たちにぶつければいい。
それにしても、フェアリー族というのはかなり優秀だな。
ゲームでもフェアリー族をスカウトすると内政のレベルが跳ね上がっていたが、こういう理由だったのかもしれない。
ゲームでは当たり前のように日本に近しい環境を維持するための魔道具が出ていて、ゲームだしそんなもんか、くらいに考えていたが……フェアリー族のおかげか。
フェアリー族におねがいすれば、業務をかなり改善できるかもしれないな。
「とりあえず、分かった。ダンジョンについての資料、感謝する」
「いえ、お役に立てたのであれば光栄です」
ほっとした様子でギルド長が頭を下げてくる。
よほど、フェアリー族に関して根掘り葉掘り聞いたことで緊張させてしまったようだ。
とりあえず、ダンジョンについてもそうだがフェアリー族についても気になるな。
とりあえず、現在あるダンジョンについての情報を確認してみたが……まあ、どれもハズレだな。
すでに長く放置されているからか、出現する魔物、装備、スキルに関してはすべて分かっているようだ。もちろん、どれもハズレ。
さっさとすべて攻略してしまい、新しいダンジョンを出現させたいところだ。
色々な魔物と戦えるわけだし、兵士たちの訓練にも悪くないだろう。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけますと嬉しいです!
皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!




