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俺の言葉に、向こうは口を閉ざした。
ゲームでもクーラルを頼ることがあるのだが、それも誰かを助けるためだった。
それがきっかけで、クーラルは何かと主人公の面倒を見てくれるようになるので、俺も少しだけ主人公と同じムーブをさせてもらった。
これでクーラルに親しく思われれば、儲け物、程度の考えだったのだが、
「……助けたい?」
多少は、興味を持ってもらえたようだ。
主人公補正故のものかと思ったが、同じ展開を起こせば多少融通は効くのかもしれない。
「ああ。スザクという男が……まあ危険な道に進む可能性があってな。亡き人の頼みもあって、彼を探そうと思っているんだ」
……なんかそれっぽく聞こえるふうに誤魔化しておいた。
しばらく、クーラルは沈黙していたが、やがて口を開いた。
「了解した。ただ、スザクという名前が国内に何人かいるかもしれない。何か特徴などはないのか?」
俺は持ってきた似顔絵を開く。
スザクの見た目を再現したイラストとともに、髪の色や髪型、身長などを書き記しているので万が一同一名の人間がいたとしても間違えることはないだろう。
まあ、ゲームではスザクという名前は他にいなかったので、そもそも大丈夫だと思うが。
「似顔絵を持ってきた。これで確認してくれ」
俺は個室の隙間から紙を差し出す。そして、しばらくのあと。
「………………なんだこれは」
疑問の言葉が返ってきた。
まあ、紙だけみても分からないか。
「スザクの特徴だ」
「似顔絵を書いてもらうときは、別の人に頼んでくれ」
「……。ああ……」
……気づいているさ。自分の絵が下手なことくらいは。
それでも、転生したしどうにかなるかもしれないと挑戦したのだが、前世同様幼稚園児の描いたようなものしかできなかった。
俺がこの世界で漫画やイラストで一発あてるのは難しそうだ。
「情報については二週間もあれば調べられる。また二週間後にここに来てくれ」
「分かった」
情報屋クーラルとのやりとりはこれで終わりだ。
俺がトイレから外に出ると、入り口の扉に清掃中の看板が張られていた。
なるほど、こうやって人が入ってこないようにしているようだな。
とりあえず、これで俺が今打てる手はすべてだ。
一応、自分の部下たちにも調べてはもらっているが、情報屋の方が見つけてくれる可能性は高いだろうな。
酒場から出た俺は、人目のない場所で空間魔法を展開し、そこへ入る。
空間魔法内で、リョウの衣装も着替えつつ自室へと戻る。
着替えを終えたところで自室へと向かうと、そこにはリームの姿があった。
すでに寝巻きに身を包み、俺のベッドでくつろいでいる。
「お帰りなさい」
「ただいま……今日もこっちの部屋で寝るのか?」
「ええもちろん。この匂いはもしかして……リョウの衣装に着替えていたのかしら?」
「……なぜわかる」
「少し、匂いが濃いのよね。いい感じよ」
ぐっと親指を立ててくる。
……装備していた外套をほとんど洗っていなかったからか? 今度、きちんと洗っておこう……。
「リョウとしての活動は順調なの?」
「もちろんだ」
今回はリョウとして、領内の安全を守っていたわけではないが……いつものことを考えればかなり順調だ。
「それにしても、わざわざリョウとして活動する今って今はないわよね?」
もともとは、俺が家を追い出された後のことを考えてのものだった。
あとはまあ、レイスとして目立つと家族からの嫌がらせがエスカレートするかもしれないという理由もあった。
「単純に、別の立場を作っておくのは便利なんだよ」
「確かに……私も飾らずにいられる場所を手に入れられたことは嬉しく思うわ」
「おまえの場合は勝手にその場を作り出したんだけどな?」
「あなたの懐が深くて助かったわ」
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