67
打ち合わせを終えた俺は、改めてヴァリドールの現状を思い出していた。
……よく今まで暴動も起きずに平和にみんなが暮らしていたな、という感じだ。
たぶん、こんな領地運営をゲームプレイ中にしていたら、何度か暗殺者を派遣されていたのではないだろうか?
もしかしたら、一応原作を守るための見えざる力が発動していたのかもしれない。そう考えなければ不自然なくらいの状況だ。
……ただ、そうなった場合、俺の存在はどうなるんだろうな。
明らかにゲーム本編から逸脱する行動を行い、達成してしまった。
今後は、俺をゲームの話に戻すために世界が動くのだろうか? それとも、すでに俺は本来の物語から外れたイレギュラーとしてそういった影響は受けないのだろうか?
フィーリア様もどうなるのかは気になる。
……死んでほしくはないな。
誰かが死ななければいけない物語は……好きじゃない。
どれだけ荒唐無稽でも、皆が笑顔になれるハッピーエンドにいきたいものだ。
昔父が使っていた書斎についた俺が領内の資料に目を通していると、部屋がノックされる。
魔力ソナーで判断すると、リームだと分かった。
「入っていいぞ」
リームが扉を開けると、すっと一礼をしてから中へと入ってきた。
「お疲れ様。無事会議は終わったの?」
「とりあえずは。あとは今後の経過を見守るしかないな」
「それなら良かったわ。それと、これ全部ヴァリドー領内からの手紙よ」
「……ああ、ありがとな」
リームの領地運営能力は今の段階でSランクのステータスはないだろうが、それでも彼女はSランクまで伸びるキャラだからな。
ゲーム知識を省けば、俺なんかよりも全然優秀なはずだ。
リームのいう通り、ヴァリドー領内を任せている貴族たちからの手紙がいくつも届いていた。
……お祝いの言葉とともに、「どこかで挨拶に伺いたい」という話だ。
「ヴァリドールで何かしらのパーティーを主催したほうがいいよな」
俺のお披露目がまだできていない。ぶっちゃけた話、そんな暇はないと突っぱねたいが、それで評判が下がって面倒事が増えるのも勘弁だ。
「そうね。まずはヴァリドー領の人たちに挨拶を済ませる必要があるのは当然だけど……別の領の人や貴族の方々にも挨拶をしないといけないわよ?」
「まあ、そっちはそのうちパーティー好きのあの王様が開くだろうし、その時にでも挨拶をすればいいだろ」
一応、就任にあたって関係がそれなりにあった領地には手紙を出したり使者を送ったりして挨拶はしている。
その他の人たちには、食事会になるのか舞踏会になるのかは分からないが、ヴァリドールで開かないとな。
どうにかはなると思うのだが……。
だるい。
俺は接待とかあまり好きじゃないんだよな。
店を選ぶところから始まり、座る位置だとか、ビールの注ぎ方とか、常に相手をヨイショしていかなければならないような接待しかしたことがないので、正直言って面倒だ。
……まあ、まだ公爵家だから良かったか。これがもっと下の立場なら、それこそぺこぺこしなければならなかっただろう。
「まあ、何かあれば私に任せてちょうだい。これでも結構慣れてるほうよ」
ま、リームの方がそう言った場所に呼ばれる機会は多いよな。
彼女の家は、父があちこちに派遣されて魔物狩りを手伝っているため、意外と交友関係も広かったらしいからな。
そう言いながら俺の膝の上に座ってきたリームは、鼻を近づけてくる。
もうすっかりこれがリームのお気に入りになったようだ。……まあ、これでやる気を出してくれるのなら安いご褒美ではあるが。
俺はリームを乗せたまま、机に手紙を並べていく。
……貴族、結構いるよな。
管理を任せている貴族はそこまでいないのだが、リームのように普通に暮らしている貴族も多くいるんだよな。
特に、うちの領はもともと強い魔物が多く出現し、その戦の活躍次第では爵位を与えられることもある。
まあ、だいたいの場合が子爵となり、一代きりというのも珍しくはなく。
そこまで大きな権利は与えられることはなく、そのまま故郷に残って生活をする者もいるのだが……とにかく他の領よりも貴族自体は多くいるんだろう。
とりあえず、全員の顔と名前をある程度は把握しておかないと。
一応、どこかに似顔絵が描かれたものもあったので、そこで顔と名前を一致させていくか。
……顔入りの社員証みたいなものを全員がつけてもらえれば楽なんだけどな。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけますと嬉しいです!
皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!




