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街の人たちは今のところ、俺たちに好意的ではあるが……それだって、あくまで今だけだ。
俺の今後の領地経営が悪いとなれば、領から人が消えるか、俺の命が狙われるか……だろうな。
一応、家を継ぐ前から家族の目を盗んで多少は動いていたものの、その程度では補えないほどに問題が多い。
俺が色々と考えていると、リームが俺の頬を挟み込むように手を当ててくる。
「あまり棍を詰めすぎても仕方ないわ。そろそろ寝たらどう?」
「……それはそうだな。それで、お前はそろそろ自分の部屋に戻ったらどうだ?」
「気にしなくていいわ。一緒に寝ましょう」
強引に言ったリームが微笑とともにベッドへと入る。
一応、リームには彼女の部屋を用意してある。将来的にリームが嫌がらない限り、彼女と籍を入れることに関しては俺も考えている。……将来、というのは物語がすべて無事に終わってくれたタイミングだ。
……もうすぐ、本編も始まるからな。このゲーム、バッドエンドがわりと多いので……俺が何もしないと主人公が勝手にそんなルートに行って、世界まるごと大惨事になる可能性もあるからな……。
それまでに、リームのことも女性として見られるようになればいいのだが。
なんだかんだ、一緒にいて気の落ち着ける子ではあるのだが、俺が転生者であり元々はゲームのプレイヤーという立場もあってか……彼女を同年代の人とは見れてないんだよな。
そのうち、慣れてくるものなのか、あるいはせめて20歳を超えてくればどうにかなるのだろうか?
この世界の感覚的にそこでの結婚はちょっと遅いんだよな……。
まあ、ゲーム本編が始まってしまえば、そんな暇もないだろう。
ひとまずの目標は、ゲームをハッピーエンドに導くことと、領地をゲームでいうSランク領地にまで引き上げることだな。
リームはすでにベッドで俺を待ち構えている。
こうなったら彼女はもう動かない。俺はため息を吐きながら彼女とともにベッドへと入ると、抱き枕にさせられた。
「……」
朝。起きたときはいつもだいたいリームに抱き枕にされている。
彼女がぎゅっと俺の体を抱きしめたまま、離さないでいる。
……そろそろ、いつもの朝練の時間になる。
その前に起きておきたいのだが、リームはまだ眠っているな。
仕方ないので、彼女の腕から脱出するため、俺は自分の体を覆うようにして空間魔法を発動する。
すっと、無事脱出するとリームが目を開けた。
抱き枕の温もりがなくなってことで、目が覚めたようだ。
少し不満げに頬を膨らましていたリームがじとりとした目と共に口を開いた。
「あら……おはよう」
リームはそういって欠伸をして、微笑む。
正式に籍を入れたわけではないが、最近のリームは普段よりも砕けた口調になっていた。
ゲームでよく知る口調だな。
彼女なりに、距離を詰めてきたのだと思う。俺としても、その方がやりやすいから今の方がいい。
……まあ、原作の主人公にどのように合流させればいいんだろうというところはずっと考えているけど。
「おはよう。今日は朝練行くのか?」
「ええ、もちろん同行するわ」
すぐに着替えを開始しようかと思っていたのだが、部屋の扉がノックされる。
……もう来たのか。
扉を開けてきたのは、イナーシアだ。
「おはようございます、レイス様、リーム様」
すっと頭を下げてきたイナーシアはすぐさまこちらへと向かってくる。
彼女は現在メイド服を着ている。兵士としてはもちろん、使用人としてもしっかり成長している彼女は、俺たちと行動することが多い。
「おはよう。そろそろ着替えの時間ね」
「ええ。ですので、お手伝いに来ました」
イナーシアは落ち着きながらもどこか興奮した様子で言ってくる。
「だから、俺は別に自分で着替えられるから別にいいんだぞ?」
両親がいた頃は、俺は自分で着替えなどを行っていた。
両親が、俺を平民のように扱っていたからだ。
「着替えを自分でするのは平民!」という考えからの幼稚ないじめだったが、俺としてはそのほうが慣れていたので良かった。
ただ、今は領主ということもあり、着替えは使用人に任せて欲しいということになってしまった。
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