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「ですが、考えようによってはラッキーだったとも言えますよ」
「……何が、ラッキーなんですか? この街のトップが敵前逃亡したのですよ?」
「普通なら、確かに士気も下がり最悪の状況になりますが……もともと、父は別に誰にも慕われてはいませんので、その心配はありませんよ」
一応、家族からは慕われているか。
好きなものを買い与えていたんだしな。
「ですが、それだと誰が兵士たちの指揮を取るのですか」
フィーリア様の問いかけ。
そりゃあもちろん。
「俺がやりますよ」
今この場で、この街の最高権力者は俺になる。
俺がそう宣言をすると、ザンゲルがすっと深く頭を下げる。
「レイス様の初めての戦。我々は命に代えてでもあなたを英雄にしてみせます!」
「命は大事にするように。ザンゲル。すぐに西門にすべての兵を集めてくれ。それと、戦いに参加できる使用人たちもだ」
「分かりました!」
「他の伝令役には、ギルドへの連絡と街の人たちへ今この街の状況について伝えてくれ。不安を煽ることのないようにな」
ザンゲルと兵士たちに指示を飛ばすと、皆が活気溢れた様子で動き出す。
あっという間に屋敷中に知れ渡り、戦の前だというのに皆のテンションはかなり高い。
相手は悪逆の森の中でも危険な魔物が多くいる状況にも関わらずだ。
フィーリア様も、これには驚かれているようだ。
……まあ、ここまで士気が上がるとは思っていなかったが、俺が戦いの指揮をとっても士気が下がるということはないと思っていた。
とりあえず、このまま西門で戦闘準備をしないとな。
西門へと移動した俺たちは、それから現在揃えられている装備品を確認していく。
結界装置は、計算通り半日ほどもてばいいほうだ。
魔導砲なども、ヴィリアスがメンテナンスを行ってくれた四基だけは使えそうなので、西門に設置していく。
他にも、回復系のポーションなどの状況の報告を受けていたのだが、フィーリアは眉間をもみほぐすようにしながらこちらを見てきた。
「……ちょっと待ってください」
「あんまりゆっくりしている時間はないのですが……」
「いや、あの……備蓄など、あまりにも少なすぎではありませんか? あれから半年近くの猶予もありましたし、もっと整っていてもおかしくはありませんよね?」
フィーリア様の苛立ち混じりの問いかけに、俺は笑顔を浮かべるしかない。
「それは、フィーリア様の叱責を受けても何も変わっていなかったからですよ」
「……へ?」
また可愛らしい戸惑いの声が響く。
フィーリア様はここにきてからというものの、きょとんとした表情を浮かべることが多いな。
「軍事費に多少の見直しはありましたが、父たちの根本的な部分は変わっていません。ですので、こんな感じなんですよ」
「……そんな。私の父の、信頼を裏切るなんて……何を考えているのですか」
何も考えていないのだろう。今が楽しければそれでいい。破滅の未来が訪れるなんてまるで何も考えていない。
それだけ、視界が狭くなってしまったのが、今の彼らだ。
まあ、備蓄がいくらあろうとも多少俺の作戦が変わるだけでやることは同じだ。
悪逆の森から迫ってきている魔物の群れが、見えてきた。
こちらも兵士の配置や、冒険者たちを次々に配置していく。
「まさか、レイス様が指揮をとるなんてな……っ」
「父たちが逃げ出したらしくてな」
俺の言葉に、冒険者たちがゲラゲラと笑う。
下品な笑い方に、フィーリア様は少し眉根を寄せたが、まあ笑われても仕方ない内容なので黙っていた。
「ま、オレたちもレイス様じゃなかったら、とっくに逃げ出してますけどね」
「俺も、冒険者たちが集まってくれなかったら一人で逃げていたかもしれないな」
答えると、彼らは苦笑している。
「レイス様、今回の戦い報酬期待してますよ」
「そこは大丈夫だ。フィーリア様が色をつけてくれるはずだ」
俺はちらとフィーリア様へ視線を向けると、冒険者たちも盛り上がる。
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