47
空間魔法の発動範囲は俺の視界が届く場所と、一度訪れたことのある場所だ。
ブラドザウルスの体――足を狙って俺は空間魔法を発動する。
俺の魔力に反応して、ブラドザウルスが一瞬警戒する。
だが、もう遅い。俺の生み出した黒い渦のようなものが、ブラドザウルスの足へと現れその足を飲み込む。
咄嗟に逃げようとしたが、それより早くその足を切断する。
「ギィヤアア!?」
ブラドザウルスの悲鳴が響き渡り、体が崩れかける。
即座に踏み込んだ俺は、隙だらけとなったその首元へと冥牙を振り抜いた。
……俺の攻撃に合わせて、鱗を硬化する余裕もなかったらしく、俺の冥牙はいとも容易くその体を切り裂いた。
素材をさっさと空間魔法で回収した俺は、すぐにその場から退散させてもらう。
……とりあえず、一対一ならなんとかなるな。
ただ、わりとさっきの戦闘で全力だった。
ずっと集中していたので、疲労はなかなかだ。
ただ、やれる。これからは、ここでレベル上げをしていけばいいだろう。
僅かに乱れた呼吸を整えつつ、俺は次の獲物を探して第五層を歩いて行った。
「レイス様。今日は、来ない方がよろしかったでしょうか?」
そう問いかけてきたのは、リームだ。
兵士たちの訓練に参加するため、最近ではほぼ毎日来るようになったリームは心配げにこちらを見てくる。
距離が近い。なんか、鼻呼吸がやたらと多いように見えるが、きっと気のせいだ。気のせいにさせてくれ。
リームが先ほどのような問いかけをしてきた理由は、今日が第三王女様が来られるということで屋敷内がバタバタしていたからだ。
第三王女様がくることが決まったのが昨日の夜だったもので、リームに特に連絡していなかったんだよな。
「いや、今日もいつも通り訓練はするそうだ。リームがいてくれたほうが、いいアピールもできると思うしいいんじゃないか?」
「そうでしょうか。それなら良かったです」
父たちの話を聞いたところ、本日の予定は兵士たちの訓練の様子を見てもらうそうだ。
……まあ、滅茶苦茶焦っていたが。
以前よりも、軍事費に割かれる量は多くなったとはいえ、別に新しく優秀な兵士を雇ったわけではないからな。
ロクに兵士たちの訓練を見ていない家族たちからすれば、そりゃ焦るだろう。
ただ、俺にできる範囲で兵士たちの改善は行っていたので、今回第三王女様に怒られるようなことはないと思う。
俺だって、いつ抜き打ち調査されて爵位を取り上げられるか不安のまま生活したくはなかったからな。
バタバタとしていた兄たちが、俺とリームに気付き、舌打ちまじりに声をあげる。
「おい、能無し。もうすぐフィーリア様が来られるんだ。いつまでも呑気に話してんじゃねぇぞ!」
「まったく……これだから能無しは……」
兄たちの言葉に、もっとも苛立った様子を見せるのはリームだ。
……あと、たまたま近くにきていたイナーシアもだ。
彼女は清掃作業中のようだが、もっていた雑巾を強く握りしめて兄たちに気づかれないよう睨んでいる。
落ち着いてくれって……。
「申し訳ありません」
「おら、おまえも出迎えるためにさっさと来い」
「そっちの、貧乏貴族もな」
……リームのことをそう呼ぶのだから、この二人の自分の立場への自信は凄いものだ。
リームは……昔のような営業スマイルと会釈を返し、俺たちはその後をついていく。
兄たちも許嫁はいるのだが、滅多に会いにくることがない。
こういう性格だからか、昔のレイスくんとリームとの関係のように冷え切っているんだよな。
俺たちが出迎えるように玄関へと向かい、しばらくして……扉が開いた。
すっと俺たちは頭を下げ、決まりきった挨拶をしてから顔を上げる。
フィーリア様の表情は以前訪れた時と違って、険しい。
……あれだな。監査でもしにきたかのような感じだ。
実際、フィーリア様は以前からどの程度変化したかを見にきたのだろう。
改善するように言ってからすでに半年以上経っているわけで、それだけの時間があれば何かしらの対策が打てるだろうしな。
そんな険しい表情をしていたフィーリア様だったが、俺と目があうと柔らかな微笑を浮かべた。
【妹の迷宮配信を手伝っていた俺が、うっかりSランクモンスター相手に無双した結果がこちらです】こちらの作品書籍化します! 良かったら読んでください! ↓のリンクから飛べるようになってます!
気にいった方は購入していただけると嬉しいです!
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけますと嬉しいです!
皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!




