42
散々抱きついて匂いを堪能したリームはそれはもう満足そうな表情だった。
俺としては結構疲れてしまったが、まあ諦めるしかないだろう……。
とりあえず、リームの頼みであった戦闘訓練がしたいという方を叶えるため、訓練場へと向かう。
訓練場では何名かが剣の打ち合いを行なっているが、その中にはイナーシアの姿もあった。
今日も熱心な様子だな。
「あっ、レイス様! おはようござい……ます」
こちらに気づいたイナーシアは、明るい表情が一瞬で引っ込み、じっと俺の隣のリームを見ていた。
明らかに不機嫌だ。こいつはすぐに顔に出る素直さが取り柄であり欠点だ。
「おはよう。今日も調子良さそうだな」
「そちらの方は、確か許嫁のリーム様、ですか?」
「ああ」
直接会ったことはないが、使用人たちから聞いたのだろう。
イナーシアはぼそりと繰り返しリームは、すっと一礼をする。
「初めましてイナーシアさん。私は、レイス様の許嫁のリームよ。よろしくね」
「……よろしく、お願いします」
イナーシアは不満そうではあったが、ぺこりと頭を下げる。
元々感情がころころ変わるような子ではあるが、なんだかいつも以上に不機嫌そうだった。
それから、リームがこちらを見てきた。
「私もこれからはこちらで訓練に参加してもいいのですよね?」
「ああ。指導者が必要なときはいつでも利用してくれ」
「毎日、こちらでお世話になってもよろしいですか?」
「……ああ、構わないぞ」
どうせ誰が利用していても家族は何も言わないくらいに興味ないからな。
最近俺がこそこそと動いてはいるが、まるで把握している様子もないからな。
年頃の子がここまで家族から興味を持たれないのは悪いことなのかもしれないが、俺としては助かっている。
……それにしても、まさかリームも戦いに率先的に参加してくれるとはな。
彼女はゲームでは主要キャラクターだ。だから、彼女のステータスはどれも高くまであがる。
リームもゲームの時よりも強くできるかもしれないので、ゲーマーとして楽しみだ。
いつもの強化のためのアクセサリーセットを渡すと、家庭教師のゲーリングがリームとイナーシアを見る。
「それでは、まずは今の実力を見てみたいので二人で戦ってみてはくれませんか?」
「分かったわ。イナーシアさん、お願いしてもいいかしら?」
リームの問いかけに、イナーシアは少し表情を引き締めてから、こくりと頷いた。
「よろしく、お願いします」
「手加減はしないで大丈夫ですから。私もそれなりに剣は学んでいますので」
そういいながら、リームは近くにあった模擬専用の剣を手に持つ。
刃が潰されているので、大怪我を負うことはないが重量としては普通の剣とそう変わらない。
対するイナーシアも、模擬戦用の槍を手に持って構える。
リームの得意武器は剣、イナーシアの得意武器は槍のようだ。
ゲームでは、キャラクターごとに装備できる武器の制限はなかったが、確かにどちらも初期装備はそれらだったな。
そんなことを考えていると、ゲーリングがにこりと微笑んでから二人へ視線を向けた。
「それでは、始めてください」
彼の言葉が響いた次の瞬間。リームが一気に距離を詰める。
速いな。とはいえ、イナーシアもこの家にきてから結構鍛えている。
リームの動きも、目で追えているようで大きく飛び退いて距離をとる。
槍はある程度距離をとって戦う必要がある。そうでなければ、せっかくのリーチが活かせないからな。
後退しながらのイナーシアは、同時に槍を突き出す。
こちらも無駄のない動きだ。……イナーシアも日々しっかりと訓練を積んでいる証拠だ。
リームは詰めきれないと判断したようで、そこで槍を捌く。
まだ、イナーシアにとって有利な射程だ。リームはその場で左右に攻撃をかわしながら、チャンスを伺っている。
何度かの打ち合いをみた結果……恐らく、現在のステータスではリームのほうが上だ。
イナーシアも能力差を理解しているからかとにかく反撃の隙を与えず、さっさと倒そうとしているが……なかなか攻めきれない。
……リーム。思っていたよりも強いな。
【妹の迷宮配信を手伝っていた俺が、うっかりSランクモンスター相手に無双した結果がこちらです】こちらの作品書籍化します! 良かったら読んでください! ↓のリンクから飛べるようになってます!
気にいった方は購入していただければ嬉しいです!
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけますと嬉しいです!
皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!




