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リョウのときとレイスのときで、使っている武器はもちろん、衣服も違う。
あの時はすくなくとも喋っていないわけで、リームがどうして俺だと即座に分かったのかが疑問だった。
……魔力で判定できたとか? いや、それは不可能だ。
魔力索敵でわかるのは魔力の量だけで、リョウとして活動しているときとレイスとして活動している時ではその出力変えているしな……。
となると俺がどこかでヘマをしてしまっていたというわけになり、今後も気づかれる可能性があるので聞いておきたかった。
固唾を飲んで見守っていると、リームはゆっくりと口を開いた。
「匂い、です」
「……匂い、だと?」
どういうことだ?
脳が混乱していると、リームはさっと俺の手を掴んでくる。
ダンスのとき、いつも彼女は俺の手を掴み顔近くまで持ち上げる。
そして、リームは深呼吸をした。
「この前、お父様を助けて頂いたとき……リョウとレイス様から同じ匂いがしました。……だから、分かったんです」
「……匂い、だけでか?」
「匂い、だけですね」
……犬かこいつは?
リームは、段々と頬を紅潮させながら、俺の手の甲をひたすら嗅いでいる。
さすがにちょっと変質者のようになってきているので、俺はリームに声をかける。
「……いや、リーム。もう匂いで判断したことはわかったから、これ以上嗅がなくてもいいんじゃないか?」
「すーはー、すーはー……っ! レイス様の匂いを久しぶりにこれほど間近で嗅げるのだから、嗅がないわけにはいかないのよ……っ! はあ、はあ!」
「おい、変態か!?」
「変態でもいいわ……っ!あなたの匂いを胸いっぱいに溜め込めるのなら!」
良くないだろうが!
暴走していったリームから逃れるように手を払い、俺は一歩後ずさる。
「リーム! どうしたんだ!? 何かの状態異常か!?」
「いたって健常よ! 安心して!」
状態異常のほうが良かったよ!
こちらにジリジリと近づいてくるリームを、俺は魔物と対峙したときのように警戒する。
飛びかかってくる彼女をかわしていると、リームがむっと頬を膨らませる。
「リョウがレイス様ってこと、バラしてもいいのかしら!?」
「……いや、それはできればやめてほしいんだが」
「なら、交換条件よ。スーハーさせなさい」
そんな交換条件を出されるとは思っていなかった。
ただ、俺は逃げることはできず、リームにぎゅっと抱きしめられる。
ベッドへと押し倒されると、リームは犬が甘えるかのように鼻を俺の体に押しつけてくる。
「……満足か?」
「足りないわ……」
あとどれだけこうしていればいいんだよ……。
とりあえず、そのままの状態で話しかける。
「……とりあえず、リョウが俺だってことは黙っててくれないか?」
「……別にそれはいいのだけど、どうして……ですか?」
口調が戻った。多少は暴走状態が落ち着いてきたのかもしれない。
禁止ドラッグでも決めているような恍惚とした表情のままのリームが、とても落ち着いているようには見えないんだけどな。
「バレると家族に何を言われるか分からないからな」
「リョウがあなたなら……余裕で全員ボコボコにできるのではありませんか?」
「できるけど、貴族はそういう問題じゃないだろう?」
全員ボコして、俺がトップに立つなんてことができる世の中ではない。
別になりたいわけでもないし。
俺がリョウとして活動しているのは、将来への投資と自分の趣味だからな。
これからもこっそり活躍していき、あちこちで噂になっているのを聞いて楽しみたいわけだ。
「……そうですか」
不満そうな表情を浮かべたのは一瞬、また俺の匂いを嗅いで満足げなため息を吐く。
……ほんと、なんなんだこの子は。
ゲームのキャラクターとはまるで違う。……そういえば、ゲームでもリームを攻略しているときに抱きつかれて顔を押し付けられるシーンがあったな。
……あれ、実は今みたいに主人公の匂いを楽しんでいたのかもしれない。
「私は、黙っていろと頼まれれば、黙っています」
「……それなら良かった」
「ただ、引き換えとして……これからも匂いを嗅がせていただきます」
「…………ああ」
どんな引き換えだ、と思ったがそれが交換条件でいいのならと頷いた。
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