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「いきなりの挨拶だな」
「……」
ウルフにそういうが、向こうはじっとこちらを睨みつけてくる。
短剣を両手に持つと、ウルフは地面を蹴ってとびかかってくる。
速い……が、この程度なら悪逆の森の魔物たちで何度も見てきている。
さくっと攻撃をかわし、ウルフの首元にミスリルナイフを突きつけた。
ウルフはぴくりとも動かない。俺はそんなにウルフに笑みを向けてから、ナイフから手を離した。
「……」
不思議そうにこちらを見てくるウルフに、俺はため息を返した。
「おまえ、喋れるんだからいい加減魔物のふりをするのはやめてくれ」
「……知っていたのか?」
俺の問いかけに、渋い声が返ってくる。
このウルフこそが、俺が探していた鑑定などが使えるキャラ、ルーフだ。
「まあな」
「……なぜ知っている? オレが話せることを知っているものは村の者以外ではいないはずだ」
ウルフが話していることは、
これの解決方法は、ぶっちゃけない。
「俺は少しだけ未来を見たことがあってな」
「妄言か?」
「最後まで話を聞け。その未来の中で、お前の力が必要になったんだ。そういうわけで、力を貸してくれないかルーフ」
「……オレの名前も知っているのか」
「ああ。知ってる。甘いものが好きなこととと、あそこの洞穴で子どもたちを守っていることもな」
「……」
ルーフは俺の方をじっと見てきたが、やがて小さく息を吐いた。
「嘘は、ついていないようだな」
「子どもたちの保護先に悩んでいたんだろ? それなら、まとめてうちで保護してやるから一緒に来てくれないか?」
使用人ということにしてしまえば、いくらでも家におくことは可能だ。その辺の管理は、かなりずさんだからな。
俺の問いかけに、ルーフはしばらく悩んだ後洞穴の方へと歩き出す。
「ついてきてくれ」
ルーフがそう言ってスタスタと歩き出す。
信用してもらったわけではないが、このままでは厳しいこともわかっているのだろう。
彼とともに洞穴へと向かうと、三人の子どもたちがいた。
……子どもたち、といっても年齢は俺とそう変わらないくらいだ。
少し警戒した様子でこちらを見てくるのは、俺と同い年くらいの女性だ。
……ゲームで見覚えのある顔だな。
「ルーフ……その人は?」
「そういえば、名前を聞いていなかったな。名前は?」
「レイス・ヴァリドーだ。ヴァリドー家の三男だが、まあそう気にしないでくれ」
「……ヴァリドー家だと」
じっとルーフがこちらを見てくる。子どもたちの表情も少し警戒しているように見える。
……ヴァリドー家の名前を出すだけでここまで警戒してもらえるなんて、家族たちにはなんて感謝すればいいのやら。
ため息を吐いてから、俺はその警戒を解いてもらうために両手を上げる。
「色々悪い噂を聞いているのは分かってるが、俺はただルーフの力を借りたいだけだ。ルーフが手を貸してくれるなら、それを交換条件に三人の衣食住費くらいは出すぞ?」
「……オレの力だと?」
「一緒に戦ってくれる仲間として、あとは鑑定魔法とか使えるんだろ? その力を貸してほしいんだ」
「それも、知っているのか」
「だから、少し先の未来を見たって言っただろ? それで、どうするんだ?」
俺の言葉に、ルーフはしばらく考えていたが……子どもの一人が声を上げる。
「……ルーフを奴隷のようにこき使うわけですか?」
声は震えながらではあったが、こちらに対しての敵意は強い。
女の子からの睨むような視線。
ヴァリドー家って本当に嫌われているんだな……。
ゲームの主人公は仲間候補に声をかければ即座に仲間になってもらえるというのに、主人公でないとここまで苦労することになるのか。
「必要な仕事はしてもらうが、別に過労死するようなほどに仕事をさせるつもりはないぞ? 鑑定で忙しければ、戦闘は行わなくてもいいし、その逆もそうだ。信頼できないなら毎日の勤務時間や賃金なりを記した雇用契約書を作ってもらおうか?」
「イナーシア。オレのことは心配しなくていい。……レイス。失礼な言葉で不快にさせてしまってすまない。オレはおまえの提示した条件に従うからこの子たちの保護を頼む」
ルーフが先ほどの女の子を諌めるように伝えてから改めて俺に頭を下げてきた。
……その言い方は、それはそれで俺がなんでもさせる悪者のように聞こえてしまうからやめてほしいのだが。
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