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初めのうちはレイス様が変わったことを知らなかったため、言葉を選びながら警戒してしまっていたが、今では冗談を言いあえるくらいの余裕はあった。
……気づけば、月に一度の出会いが楽しみになっていたし、暇があれば私から会いに行くこともあるほどだった。
今のレイス様となら、私は楽しく結婚生活ができるとさえ思っていた。
まあでも、不満はある。
……そんな風に変化した私の心と違って、レイス様はいつ会いに行っても私にいつも通りの態度から変わらないこと。
レイス様はまるで私に興味がないように、友達と接するかのように話してくるだけ。
昔はあんなに触ってきたくせに……。
今のレイス様になら、セクハラされても別に気にしないし、むしろそれを口実にイチャイチャしたいし、なんならこっちからもセクハラしたいと思っているのに。
……ふう、少し落ち着こう。
仕方ないので、私はレイス様と会うたび触れ合えるように色々な提案をしたり、こっそりレイス様の匂いを堪能したりと気づかれない程度に楽しむようになっていた。
今日も無事、レイス様の匂いを堪能した私は、屋敷の兵士長に転移石までの護衛をしてもらう。
「リーム様。最近、レイス様……変わられたと思いませんか?」
「え? そうね」
兵士長の問いかけに、私は素直に頷いてから少し慌てる。
……あまり、こう言ったことは話さない方がいいのかしら? そんなことを思っていると、兵士が笑顔で口を開いた。
「私もずっと思っていたのですが……以前、その理由について語っていたんですよ」
「え? そうなの」
「はい、その理由なんですが……いずれこの地に大きな混乱が起こる可能性がある。その時に……大切な人を守れるようになりたい、と」
……も、もしかして、それって。
その大切な人、という言葉の意味を考えて私は思わず顔が熱くなる。
そんな私に気づいたようで、兵士長は晴れやかな笑顔とともに私を見る。
「あの言葉は、きっとリーム様のことを考えていたんですよ!」
「……そ、そう、かしら」
兵士からの断定の言葉に、私の顔はさらに熱くなる。
……レイス様が私を?
昔はともかく、最近はそこまで大切に思われている様子はなかったけど、もしかして本当は私のことを考えてくれていたのだろうか?
実は今も私にセクハラしたくて劣情を抱いているけど、必死に心の奥底に潜めている?
……そう考えると、私はさらに顔が熱くなってきてしまった。
も、もしかして今日ダンスを教えて欲しかったのも、合法的に私の体に触れたかった……ってこと!?
そういえば、確かに……今思い返してみると、やけにベタベタといやらしく触ってきていたような気がしてきた……!
い、いや落ち着こう。
……ひとまず、今考えなければいけないことはその大きな混乱について。
「……でも、レイス様はその大きな混乱について何か他には話していなかったの?」
「……いえ、特には」
……レイス様が具体的な話をしていないのは、それはつまりレイス様自身もまだ断定できていないことなのかもしれない。
もしかしたら、レイス様は神様から天啓を与えられたのかもしれない。
これは教会の聖女などにまれにあるそうだけど、夢などでこの世界の未来を見られることがあるらしい。
もしかしたら、レイス様もそんな漠然とした未来を見てしまったのかもしれない。
「そう、ありがとう。教えてくれて」
……私も何かしないと。
どこまで力になれるか分からないけど、私も来るべきときに備えて鍛えておかないと。
「……今のようにレイス様が変わったのも、きっとリーム様のおかげですから」
「私は、何もしていないわ。レイス様が、自分で考えて行動している結果でしょう」
「そう、ですかね? どちらにせよ。あのご両親たちからまさかこんなことになるなんて……あっ、も、申し訳ありません! 今のは聞かなかったことにしてください!」
この兵士長、思ったことが口に出てしまうタイプなのかもしれない。
彼は慌てた様子で頭を下げてきたが、そんな彼に私は苦笑を返す。
「ええ、もちろんよ。その代わり、私も同じようなことを考えていたことは黙っていてくれるかしら?」
「……え? あっ、はい! もちろんです!」
私の言葉に兵士長はほっとしたように息を吐く。
転移石を用いて自分の家へと戻ってきた私は、それから家で雇っている家庭教師のもとへと向かった。
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