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家族がここまでレイスくんを虐めるのは、不遇な空間魔法持ちだと発覚したときに散々に周りの貴族たちから馬鹿にされたかららしいので、その腹いせのつもりのようだ。
まったくもってそういったものに興味ないので、俺としてはまったく意地悪になっていないし、参加できないおかげで訓練する時間が取れていていいことづくめなんだけど、リームは少し寂しい思いをしてくれているらしい。
初めて会った時ならそんな意見絶対出なかっただろう。
評価が多少は上がってくれたようで、嬉しい限りだ。
「寂しい思いをさせているのは……悪いな。でも、どっちにしろそういった場は苦手だし、楽しませられるとも思えないが」
「……一緒に、いるだけで楽しいものなのです。それに一緒にダンスとかも踊りたいですし」
別にここで一緒にいるんだからいいのでは? と思ってしまうのだが、その言葉をそのままリームに伝えればまた頬を膨らませるだろう。
それにしても、随分とお世辞を楽しく話せるようになったものだ。
今のリームなら、どこに営業を出しても大丈夫そうだな。
前世の社畜だったことを僅かに思い出しつつ、俺はリームに笑顔を向ける。
「まあ、俺もリームと一緒に参加したい気持ちはあるけど、家族が厳しいからな」
「……そうですよね」
しゅん、としてしまったリームに俺は苦笑とともに立ち上がる。
「それでも、いつかは参加するときもくるかもしれないからな。その時に恥ずかしくないように、ダンスを教えてくれないか?」
「今ここでですか?」
「ああ」
「任せてください」
俺がそういうと、リームは嬉しそうに席を立った。
さっきも踊りたい、と言っていたしここでくらいは一緒にやってあげたほうがいいだろう。
……ある時を境に、レイス様は変わられた。
別に、悪い意味ではなく……むしろ、とてもいい方向にだった。
昔のレイス様は、噂通りのヴァリドー家の息子、という感じだった。
むしろ、ヴァリドー家の中でも酷い方だったのは、彼の周囲にいる人間の話を聞けば嫌というほど耳に届いていた。
レイス様は両親や兄弟からいじめられていたが、そのレイス様の捌け口といえばさらに下の立場の者――つまりは、ヴァリドー家に仕えている兵士や使用人たちに向けられていた。
それはもちろん、許嫁である私に対してもだ。私のことや家族のことなど、私を見下すのは当然であり、さらに言えばさまざまなセクハラを受けていたものだった。
レイス様が歪んでしまった理由については、同情できる部分もあったけど、だからといってそれらを受け入れられるほど私の心は強くなかった。
私としては、レイス様と月に一度会うことすら本気で嫌で、予定の日に近づくにつれ眠れない日がでたり、肌が荒れたりと体に拒否反応が出るほどだった。
ただ……ある日、突然変わった。
詳しい話に聞いたところ、誕生日を迎えたあとからまるで強く頭でも打ったかのように性格が180度変わったという。
兵士や使用人への貴族として一線引いた態度はもちろんあったのだが、そこに距離が置かれているような冷たさや見下すような態度が消えた。
さらに言えば、何か指示をこなせば、お礼を言うようになっていたと。
そして、昔はサボりがちだった訓練に力を入れるようになったと。
……ヴァリドー家は悪逆の森の魔物たちから街を、国を守ることが仕事だ。
それは、ヴァリドー家の成り立ちに関係している。
ヴァリドー家は、この王国を守るため今あるこの街を拠点に防衛ラインを作り上げ、悪逆の森の魔物たちを完全に封じ込めた。
その功績が認められたのち、さらに功績を上げていってヴァリドー家は公爵位を授かった。
ここ百年程は平和が続いているが、またいつ森から大量の魔物が出現するようになるかは分からない。
だから、いざという時のために鍛えておくことはヴァリドー家では当然のことなのだが……まあ、今のところレイス様以外が鍛えている様子はない。
そのレイス様と話をするときも……私は今までよりも不快感はなかった。
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