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『おまえはもう十分鍛冶師として立派だ。これからは自由にやっていくんだぞ』
それが、私の師匠の最期の言葉だった。
……でも、私は師匠の言葉を素直に受け取ることはできなかった。
だって、ずっとミスリル鉱石を加工できてこそ、一流の鍛冶師だと言われていたから。
だから、ミスリル鉱石を使った武器を作るまで、私は自分の店を開こうとは思わなかったけど……ミスリル鉱石を入手する手段が今はなかった。
ヴァリドー領にあるミスリル鉱石が手に入る鉱山は、もう枯渇気味でほとんど市場には出回っていなかった。
そして、ヴァリドー家が依頼を出したことによって、鉱山にはとうとう入ることすらも許されず、完璧に入手する手段はなくなってしまった。
だから、私は誰かが依頼を受けてくれるのを待っていたけど、安い報酬だったために誰も受けることはなく、私が諦めていた時だった。
いつものように掲示板を見ていると、依頼がなくなっているのを気づき、私はすぐに無理やり依頼達成者を聞き出した。
ただ、もちろん依頼の達成などに関しては機密情報だ。
それでも、今回の依頼達成者が有名人だったおかげでギルドにたむろしていた冒険者たちに金を握らせればすぐに判明した。
依頼を達成したのは、レイス・ヴァリドー。
あの悪名高いヴァリドー一家の三男ということだ。
私も、この街に住んでいる者として、ヴァリドー家の噂は様々なものを聞いていた。
十人に聞けば、十人ともが悪口をいうような一家であり、私は最初絶望した。
けれど、最近は少しそのヴァリドー家への評価も変わっていた。
十人に聞けば十人はこう話していた。
レイス様は、ヴァリドー家の他のやつらとは違う、とも。
このミスリル鉱石で武器を作れるようになったら、一人前。
それが、師匠の口癖だった。……ミスリル鉱石にもさまざまな種類があるが、あの鉱山で手に入るものは質が良く、加工が難しいことで有名だった。
師匠は死の間際に、私を鍛冶師として認めてくれたみたいだったけど……あんなので、認められたとは思っていない。
実際、少し前までは怒られてばかりだったんだし、あれは師匠が死ぬのを分かっていたから、だから言ってくれただけなんだと思っている。
なんとか勇気を振り絞ってヴァリドー家に行った私は、すんなりと屋敷内に通されたことにまず驚いた。正直言って、面会自体できないと思っていたからだ。
そして、実際にレイス・ヴァリドーと対面した私の感想は……噂通りの人だと思った。
少し冷たい印象を受けたが、それは私もだから人のことを言える立場ではない。
話はとんとんと進み、レイス様から武器を作ることを引き換えに、ミスリル鉱石をもらうことができた。
そうして手に入れたミスリル鉱石を使った鍛治を……私はやっとの思いで終えたところだ。
疲れた……。
今時の鍛冶師は魔法を用いて作るのだが、ミスリル鉱石の加工では非常に魔力を多く使った。
一日では終わらなかったので、何日もかけて……ようやくだ。
私は出来上がった一振りの短剣を眺めながら、息を吐く。
はっきり言う。
師匠が私を認めてくれた当時じゃ、絶対できていない……っ。
椅子に深く腰掛けながら、私は息を吐いた。
師匠が死んじゃってからも一人でたくさんの武器を作ってきた。
ただ、私はまだ自分が認められたとは思っていなかったから、店は出していなかったけど。
それだけの経験がなければ、まずこの短剣はできていない。
正直言って、今までの中で一番いい出来だと思っている。
「……これを、持っていこう」
私は短剣を鞘にしまい、ヴァリドー家へと向かう。
結局、ミスリル鉱石の加工に四苦八苦していたせいで、レイス様から鉱石を受け取ってから二週間ほどが経ってしまった。それでも、なにもいわずに待ち続けてくれたレイス様に改めて感謝を伝えにいこう。
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