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サブイベントで少し関わると、それ以降鍛冶師として依頼を出せるようになる、というキャラクターだ。
そのサブイベントだが、今は亡き師匠に、この鉱石を使った武器を作るように言われていた。それが彼女の鍛冶師として一人前になるための試験だった。
ただ、試験を受ける前に彼女の師匠は亡くなってしまった。一応、亡くなる前に師匠からは一人前の鍛冶師としてお墨付きをもらってはいたが、それでもヴィリアスにとっては心残りがあった。
だから、このミスリル鉱石を手に入れて作りたかったが、鉱石を手に入れる手段がなかった。
ヴィリアスの能力ではダンジョンに挑戦するのは難しいからな。
だから、あの廃坑奥地に行った人を探していたが、現在あそこの出入りは依頼を受注してくれた人以外は禁止となっている。
その理由は……簡単だ。
すでにあそこは鉱山としてほとんど価値がない。放っておいたら魔物が住み着いてしまい、ヴァリドー家は仕方なく魔物討伐の依頼を出すことになる。
ただ、高い報酬を支払いたくなかったヴァリドー家は、安く依頼を受けてくれる人間を集めるため、鉱山へのすべての人の立ち入りを禁止した。
そうすれば、鉱山に入りたい人が勝手に受けてくれるだろうと考えていたようだが、すでにほぼ価値のなくなったあそこに入りたい人はいないため、依頼が残っていた、というわけだ。
うちの家族たちはロクなことをしない上に結構馬鹿だ。
……まあ、そういうわけでヴィリアスからすれば俺のことは特に嫌っている可能性はある。
といっても、だ。
俺としては、これはチャンスだ。
「鉱石に関しては、別に譲っても構わないが……その代わり、一つ頼みを聞いてくれないか?」
「……な、なんですか?」
そう身構えるな。
俺が彼女の体でも要求すると思ったのだろうか、ヴィリアスは身を守るように緊張している。
それが、ヴァリドー家への評価なんだろうな。
俺は小さく息を吐いてから、腰に下げている短剣を彼女に渡した。
先日、宝物庫からくすねてきたものだ。
「これは……?」
「今俺が使っている短剣だ。ただ、俺は短剣の二刀流で戦っていてな。これに見合うか、これ以上の短剣を打ってくれないか? そうすれば、その鉱石は自由に使ってくれて構わない」
ミスリル鉱石を上げる代わりに、いい武器をタダで作ってもらえれば俺としてはトントンだ。
「……本当ですか?」
ヴィリアスの問いかけにこくりと頷く。彼女は戦闘能力はあまりないが、鍛冶師としてのレベルは非常に高かった。
ゲーム内では生産系職業をもつキャラクターたちは、隠しステータスで生産レベルというものがある。
ヴィリアスは、最高のSランクまで成長する逸材だ。
初めて出会うときはDランク程度だが、鍛治を重ねていけばSランクまで強化できる数少ないキャラクターなので、今のうちに知り合っておいて悪いことはない。
ちゃんとした依頼料を支払えば、今後も作ってくれるかもしれないしな。
「ああ。その鉱石を何に使うかわからないが、満足してからでいい。俺の短剣を作ってほしい」
確か、このイベントをこなしたあとで鍛冶師ランクがCランクになっているはずだ。
だから、先に俺の短剣を作ってもらうよりはそのほうがいい。
俺がそう言ってヴィリアスの手のひらに鉱石を乗せると、彼女は驚いたようにこちらを見てくる。
「……私が、もしもこの鉱石だけを持っていくとかは、考えないのですか?」
「盗むつもりなのか?」
「い、いえそんなことはありません」
冗談のつもりで言ったのだが、ヴィリアスはかなり怯えてしまった。
俺はすぐに笑顔とともに首を横にふる。
「冗談だ。信頼している。短剣が出来上がったらまた屋敷に持ってきてくれ」
「……はい。ありがとうございます。必ず、その短剣を越えるものを作ってきます」
ヴィリアスはぺこぺこと頭を下げていく。使用人に屋敷の外まで見送るように指示を出してから、俺は軽く伸びをする。
さて、あとはヴィリアスの短剣が出来上がるのを待つだけだな。
これで、武器が完成すれば、第三層に挑んでもいいだろう。
第三層を突破できるようになれば――アレも実行できるようになるかもしれないからな。
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