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「レイス様。最近の領内の噂話知っていますか?」
「え? どんな話だ?」
「領内に現れる謎の冒険者、リョウについてですよ。特殊モンスターとかをバンバン狩ってくれてるみたいで、救われた冒険者もいるみたいで……実は俺もその一人なんですけど……ギルドに登録されてないし、何かヴァリドー家が知っていたらな、と思いまして。あっ、お礼とかしたいので!」
……ああ、そうだったのか。
確かにどこかで見覚えがあると思ったら、先週くらいに助けた冒険者じゃないか。
どうやら俺と同一人物とは気づいていないようだ。
ふふふ。いかんいかん。ニヤけそうになるのを必死に澄ました表情で誤魔化す。
表と裏からこのヴァリドー領を支えていくのは案外悪くないかもしれないな。
普段は普通の貴族として振る舞いつつ、裏ではそういった英雄的活動を行う。
やっと、俺がやりたかった異世界での生活ができはじめているな。
「俺もその情報については聞いていて、調べてはいるんだが……なかなかなくてな。むしろ、こちらが知りたいくらいだったんだ。何か分かったら教えてくれ」
「へい! もちろんです!」
最近は、ギルドで依頼を受けることも多くあるからか冒険者たちともうまく交流をできている。
とりあえず、そこまでの話を聞いた俺は人目のつかないところで空間魔法を発動して目的のダンジョンへと移動した。
依頼の場所は、ガルナ廃坑と呼ばれている。
悪逆の森第二層を攻略できる今の俺なら、恐れるような魔物はいない。
早速、ダンジョン内部を調査していく。
廃坑内はいくつかの道があるのだが、俺の脳内には完璧な地図がある。
宝箱はまだ残っているのだろうか……? 興味本位で見てみると、すべて残っているな。
とりあえず、適当に回収しつつ先に進む。……といっても、特別いいアイテムはないんだけど。
この世界の宝箱は魔物のように自然に発生することがあるらしい。入手するとしばらくは消滅して、またいずれ再出現するのだとか。
これを、神様の恵み、と呼んでいるらしい。
宝箱を回収しながらボス部屋へと繋がる最後の道を抜けると、そこは円形の広場だった。
まるでボス戦がここでありますよ、とばかりの造りだ。
実際、ここにボスモンスターが出現するわけで、嫌な気配に顔を向けると、天井から一体の魔物がふってきた。
不意打ちの先制攻撃をかわすと、そいつは苛立ったように声を荒らげる。
「キシャアアア!」
落ちてきたのは巨大なクモのようなボスモンスター、スパイダーソードだ。
そのモンスターは、細長い脚が不気味に広がり、その先は鋭利に尖っている。
見た目はクモのような魔物だが、こいつの武器は糸よりもその足だ。
その鋭い足先をナイフのように扱って攻撃してくる。
スパイダーソードは跳躍すると、重力とともに鋭い足先を突き出してきた。
こいつ自体は、他の魔物よりも強い。
とはいえ、俺にとっては格下だ。
連続で襲いかかる攻撃をすべてかわし、俺は持っていた両手の短剣を振るう。
スパイダーソードの足元、関節部分を切り付けると僅かに体が沈む。
バランスを崩したスパイダーソードは態勢を戻そうとするが、追撃でナイフを振り抜く。
スパイダーソードの顔面へと振り抜くと、痛みから逃れるように、大きくのけぞった。
俺がさらに斬りつけようとすると、スパイダーソードは逃げるように跳躍する。
天井付近にまで移動したスパイダーソードは、その口元をもごもごと動かす。
糸を吐いてくるつもりだ。
もちろん俺としては正面から受けるつもりはない。
空間魔法を俺の体全面に展開すると、スパイダーソードが口から糸を吐いてくる。
真っ直ぐに襲いかかってきた糸は凄まじい速度だ。
あれは地面に穴を開けるくらいには威力も頑丈さがある。
そんなスパイダーソードの一撃に空間魔法をあてる。
真っ直ぐに伸びてきた糸は、俺の空間魔法を貫き、そして――スパイダーソードの体を貫いた。
「ギィ!?」
この魔法の使い方は便利だな。
生物を転移させると魔力を多く消費するが、魔法などの遠距離攻撃を転移させるぶんには大して消費もない。
だから、先ほどのように敵の攻撃を利用するときはめちゃくちゃ便利だ。
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