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そもそも、こういった謎めいた存在に憧れていたのもある。
俺がレイスくんにさえ転生していなければ、もっと自由に楽しんでいたというのに。
そういうわけで、俺は久々の自由な時間を楽しむ。
外套を身につけ、仮面をつければもう誰も俺とは分からないだろう。
完璧な変装を行った俺は家に届いている魔物の目撃情報などを参考に、その日から積極的に緊急依頼の魔物狩りを行っていく。
ヴァリドー領には、いくつかの町や村がある。ヴァリドー家が管理しているのは、ヴァリドールのみで他の町や村は部下のような立場の貴族たちにお願いしている。
そのため、領内で何か問題が発生すればすぐにこの家に連絡がくるため、特殊モンスターなどの目撃情報も集めやすい。
……レベル上げには、もってこいの環境だな。
早速、近くの町で特殊モンスターの目撃情報があったので、俺は空間魔法を使ってその場所へ向かう。
近くを探していると、普段の生態系からはありえない魔物がいたので、サクッと討伐しようと思ったのだが……冒険者が戦っていた。
ただ、かなり押されてはいる。……とはいえ、一応戦っている冒険者の獲物だしな。
「……手を貸そうか?」
「え!? うわ!?」
声をかけると、冒険者たちはびくっと肩を跳ね上げる。
……まあ、今の俺は仮面に外套とかなり怪しい格好をしているからな。
「俺は通りすがりの冒険者だ。困っているなら手を貸すが……」
「お、お願いします!」
ちょうどそう返事をした時、特殊モンスターのゴブリンが冒険者へと飛びかかる。
……させるか。
俺はすぐに地面を蹴り、ゴブリンへと接近する。一瞬でその首を切りつけ、吹き飛ばす。
急所を的確に切ったことで、あっさりと仕留めることができた。
……このゴブリン。確かに特殊な個体だが、悪逆の森のゴブリンと同じくらいの強さだな。
特殊モンスターはドロップアイテムもレアなことが多く、今回落としたのはちょっとレアリティのよさそうな棍棒だ。鑑定魔法を使える人がいれば、スキルなどがついているかも調べられるのだが、我が家にはそんな人はいない。
過去にはいたが、人件費削減でクビにしてしまったからな……。
とりあえず、屋敷の武器も手入れされていないのがほとんどなのでこうやって補填していくのもありだな。
「あ、ありがとうございます」
「……気にするな」
声はいつもよりも低めを意識する。声がまったく同じでは正体もバレるかもしれないからな。
「あの、すっごい強いのですね! お名前はなんていうんですか!?」
「……」
名前……? そんなもの考えていなかった。
とりあえず、前世の名前でも名乗っておくか。
「リョウだ」
「リョウさんですか! ありがとうございました!」
ぺこりと丁寧に頭をさげた冒険者に、俺はそれ以上構うことはせず……彼が頭を下げている隙に空間魔法で自宅へ帰還した。
ふう。レアな装備も手に入るので、これを売り払えば金策にもなるな。
何より、貴族から離れて活動できるわけで、その自由な時間も最高だ。
この調子で、どんどんレベル上げをしていこうか。
それから、第二層での戦闘と、特殊モンスター狩りを行っていった。
毎日のように戦っていたおかげで、ハイオークどころか、ウルトラゴブリン、ウルトラオーク相手にも問題なく戦えるようになっていた。
ただ、明らかな問題が一つ出てきた。
武器だ。今使っている訓練用の短剣では、さすがに第三層の魔物たちには通用しない。
グラディウスは問題ないと思うが、より強い武器を手に入れたいところだ。
すでに、ウルトラオーク相手だと皮膚をちょっと傷つけるくらいだったしな……。
というわけで新しい武器を手に入れたくて、ひとまず屋敷の武器庫を見ていたが……まあ、あまり質のよくない武器が並んでいる。
「何かいいものはありましたか?」
「……うーん、ちょっと微妙だな。手入れもあまりされてないし」
「それは……まあ、その。あまり余裕がなくて……」
あはは、と誤魔化すように苦笑する兵士。
……この武器庫のメンテナンスは兵士たちの中で手が空いているものがしているようだ。
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