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普段と違い、年相応の態度を見せてくれたな。
堅苦しい表情よりはそっちのほうがこちらとしても接しやすいものだ。
まあ、それもあとどれだけ続くかは分からない。家族は相変わらず軍事費を誤魔化して自分の好きなように金を使っている。
それが発覚したら、今度こそゲームのように爵位をとりあげられることになるだろう。
リームとの婚約関係もその時になくなるだろうから……俺たちの関係はそれまでだろう。
悪逆の森は、全部で五つの層に分かれている。奥に行けば行くほど、魔物も強くなっていき、第五層なんて今の俺なら一発で殺されるだろう。
ゲームでは先に進むと、第二層、第三層とマップの右上に表示されるのでわかりやすいが、この現実だとそういった分かりやすい分かれ方はしていない。
ゲームでは他の層の魔物が出ることはないが、この現実だと魔物も自由に行き来している可能性がある。
実地訓練を行いながら気になった俺は、家庭教師に問いかけてみた。
「この前、ここで第三層のハイウルフに襲われたがそういう頻度は多いのか?」
「基本的には出てこないのですが、最近は頻度も多くなっていますね。緊急依頼など、ギルドにも多く出ている状況です」
「そうか」
……緊急依頼か。
そういえば、ゲームでもあったな。
ゲームをある程度進めると、全国の依頼を受けられるようになる。
その際に、だいたいいつも悪逆の森で緊急依頼が発生していたものだ。
ゲームのときはそういうイベント、程度にしか意識していなかったが、ヴァリドー家の能力の低さを考えればギルドに依頼が投げられる理由もよく分かるな。
悪逆の森が、基本的には安心なことも理解したことで俺は第一層の魔物たちと戦っていく。
ゴブリン、ハイゴブリン、オーク。
これが第一層で出現する主な魔物だ。一番強いのはオークだが、これもすでに俺は仕留められるようになっていた。
「……レイス様。まさか一人でオークを仕留めてしまうなんて」
「珍しいことなのか?」
「当然ですよ! もうそこらの冒険者なんて目じゃないほどの強さですよ!」
そうなんだな。
家庭教師だし、多少のお世辞はあるかもしれないが順調に成長できているのは確かだな。
この指輪たちもちゃんと効果を発揮してくれているんだろう。
その日もオークを数体仕留めて、俺たちは屋敷へと戻っていく。
帰り道。家庭教師がぽつりと言葉を漏らした。
「……これなら、そろそろ第二層に挑んでもいいかもしれません」
「そうか……?」
確か、第二層に出現する魔物はハイオーク、ウルトラゴブリン、ウルトラオーク、だったか。
装備品によるボーナスもあり、多少ステータスは盛られているだろうから、第二層でも通用する可能性はあるが……もう少し育ってからの方が安全ではある。
ただ、あまり時間の余裕があるわけでもない。第二層の魔物の方がゲーム的に言えば経験値効率はいいんだし、勝てるなら早めに挑戦した方がいいかもしれない。
「それじゃあ、試しに第二層にいってみるか」
そんな計画を立てていると、ゲーリングが慌てたような声をあげる。
「ま、待ってください! 申し訳ないのですが、私は第一層までの魔物を退ける程度の力しかありません。もしも、それより先にいく必要があれば、別の方を雇用したほうがいいかと思います……」
「……そうだったな」
兵士に護衛をお願いしてもいいが……兵士長くらいだよな。
その兵士長を俺の護衛に当ててしまうと、兵士たちの管理を別の人にお願いする必要が出てくる。
今、そちらの人材については兵士長に育成してもらっているが、まだまだ任せきりにするのは難しい。
全体的に、底上げはできているんだけどな。いかんせん、俺よりも熱心に訓練してくれている兵士は少ない。……まあ、給料も少ないんだから仕方ないっちゃ仕方ない。
せめて、努力に応じて変動するような給料体制ならいいが、今の状況なら努力しても無駄だしな……。
となると、護衛を個別に雇う必要があるわけだが……俺が自由に使えるお金も別にない。
あの家族が俺に金を使ってくれるわけもないしな。
第一層で集めた素材の魔石を売れば、一応お金にはなるが、大金とまではいかないだろう。
となると、ここからは安全圏での狩りはできないか。
ゲームなら、セーブ&ロードできるからお試しもしやすいんだけどなぁ。