13
フィーリア様が城に戻ってから数日が経った時、父が王都に召集された。
そして、戻ってきた父は……笑顔だった。
「親父! どうだったんだ!?」
長男のライフが期待するような顔で問いかけると、親父はぐっと親指を立てた。
「少し怒られたが、これからちゃんとやると泣きついたら厳重注意で終了だ!」
「おお! マジか! でも、ちゃんとするってどうするんだ?」
「軍事費にきちんと回し、優秀な兵士を集めるように話をされたんだ。まあ、そこはいくらでも誤魔化せるからな。全部、兵士のために購入した、といえばいいのさ」
「確かに、そうだな。さすが親父だぜ!」
「はっはっはっ、当たり前だ」
……おー、クズじゃん。
何も変化はないようだが、爵位をとりあげられる未来は変わったようだ。
俺としては、ひとまずトレーニング環境が守られればそれでいい。
あと数年。せめて、それくらいの間は耐えてくれ。
……なんか前世を思い出すな。俺の勤めていた会社が、業界的に尻すぼみしていた。
うちの会社も、新しい分野を開拓することもなく、早期退職者を募集するなどして経費を削減していったのだが、まあ会社にしがみつかなくてもいい優秀な人からどんどん抜けて行ってしまっていた。
将来的にうちの会社はなくなるんだろうなぁ……と思いながら仕事をしていて、それがせめて自分が生きている間ではないことを祈っていたのだが、まさか同じ経験をもう一度することになるとは。
絶望的な状況ではあるが、俺は自分の身を守るために、今日も訓練だ。
……恐らくだが、この前のフィーリア様の危機は、まだ俺が考えていたものではないような気がする。
さすがに、ハイウルフが危険な魔物だとしても、ハイウルフ一体に街が壊滅状態にはならないだろう。
となると、またどこかでフィーリア様の命が脅かされる事件が発生し、そこで俺は隻腕になってしまうんだろう。
……絶対、乗り越えてやる。
今日も朝からゲーリングとともに訓練なので、屋敷内を歩いていると向かいから使用人がやってきた。
目が合うと、にこりという微笑とともに頭を下げられる。
「あっ、レイス様おはようございます」
「ああ、おはよう。今日は冷えるから体に気をつけてな」
「はい! レイス様、お気をつけて」
そんなやりとりをしながら庭に出た俺は、ゲーリングと合流する。
そのまま、空間魔法を発動し、俺たちは悪逆の森へと移動する。
最近は俺の魔力に余裕も出てきたので、こうして空間魔法で移動するようにしている。
森まで馬で移動していると、かなりの時間がかかるからな……。
「相変わらず、便利な魔法ですね」
「燃費は良くないけどな」
今は当たり前のように使えるようになったが、ゲーム知識なしで鍛えていたら今の魔力の半分以下だろう。
それだと、往復で空間魔法を使えるかどうかだろうし、そうなると使えない魔法だとバカにされる理由もよくわかる。
いつものようにゴブリンと戦闘を行なっていく。
最近は空間魔法を一切使わず、複数のゴブリンを相手にできるようになっていた。
ゴブリンたちを葬り去っていくと、ゲーリングがにこりと微笑んだ。
「見事です、レイス様。もう、ゴブリン相手なら問題ありませんね」
「……そうだな」
この肉体にレベル、という概念があるのかは分からないが、相当上がったんだろうな。
次は魔法の訓練だ。
ひとまず、ゴブリンがいる方角へと向かう。
二体が仲良さそうに獲物を探して歩いていたので、空間魔法を準備する。
最近は慣れたこともあり、多少距離があっても当てられるようになっていた。
だから、俺は隙だらけのゴブリンへ空間魔法を発動する。
俺の魔法が発動すると、空間が裂ける。それがゴブリンを飲み込む。
「ギャッ!?」
「ギィ!?」
驚いたような声が二体から聞こえる。俺は木の陰からその様子を眺め、そのゴブリンの腕を異空間へと収納する。
「ギャアア!?」
腕を引き裂かれたゴブリンは悲鳴を上げ、傷口を押さえるようにして蹲る。
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