11
俺はため息をついてからハイウルフをじっと見る。
……幸いなことに、向こうは油断してくれている。
今、この場で俺はハイウルフの眼中にない。そのハイウルフはというと、どいつから食い殺そうかと選別しているようだ。
そのハイウルフの視線が、フィーリア様へと向く。にやりと口角が釣り上がる。
……フィーリア様をターゲットにしたようだ。
女性の肉の方が魔物からしたら美味しいのだろうか? そう考えた次の瞬間、ハイウルフが地面を蹴った。
「ふぃ、フィーリア様をお守りしろ!!」
誰かが叫び、その間に割って入る。
だが、ハイウルフの突進にいとも容易く吹き飛ばされる。
――今だ。
もっとも確実に空間魔法が当てられる距離になったところで、俺は空間魔法を発動する。
高密度な魔力に、ハイウルフが驚いたようにこちらを見てくる。
それまで、魔力を消して大人しくしていたからこそ、気づかなかったのだろう。
ハイウルフが即座に俺の空間魔法から逃れようとするが、遅い。
俺はハイウルフの胴体を噛みちぎるように、空間魔法で切り裂いた。
「……がっ」
ハイウルフが短く悲鳴を漏らし、その死体が地面へと転がる。
格上相手だからか、いつもよりもさらに魔力を消費してしまったな。
だが、空間魔法は格上相手でも当てれば倒せる。
少し乱れた呼吸を整えながら、俺は周囲に他の魔物がいないのを魔力で確認していく。
「レイス様! 良かった、通用したのですね!?」
ザンゲルの安堵の声が響き、俺は頷いた。
「ああ。皆が注意を引き付けてくれてたおかげだ。助かった」
「いえ……ただ怯えていただけですので」
ザンゲルは苦笑をしながらも、兵士たちは皆安堵した様子で息を吐く。
まあ、兵士たちは俺の能力をある程度知っていたので、何度か期待の視線を向けられていたのは気づいていたが。
とはいえ、今の俺でも正面からハイウルフに勝つのは難しいため、不意打ちするしかなかったんだけど。
……それにしても、後続の魔物はいないのか?
フィーリア様が死ぬイベントでは、街を魔物に襲われた……と聞いていたがハイウルフ以外はいないように見える。
まさか今回のではないのだろうか?
「れ、レイスさん……? あなたは確か、ヴァリドー家の三男の……」
……考えるのは、また後だな。
俺はフィーリア様にすっと頭を下げた。
「レイス・ヴァリドーです。お怪我はありませんか?」
俺はへたり込んでしまっていたフィーリア様に手を向ける。
俺の手をとり、なんとか立ちあがろうとした彼女だが、ふらりと倒れそうになったので、支える。
「申し訳ありません。腰が抜けてしまって……」
「それは……申し訳ありませんでした。こちらもすぐに助けられれば良かったのですが、相手が油断していないと攻撃を当てられるか分からなかったもので」
囮に使ってすみません、と言ったらそれはそれで怒られるかもしれないので明言はしない。
「……いえ、助かりました。あなたは、ヴァリドー家の中でも戦えるのですね」
それは先ほどの二名を見ての発言だろう。
「ええ、まあ。三男ですから、将来家を離れる可能性もあるので、鍛錬を積んでいました。フィーリア様のお力になれて良かったです」
お世辞を言うのには慣れているので、俺は聞こえのいいことを伝えていく。
フィーリア様も言われ慣れているようだったが、俺の言葉には気になるところがあったようで眉根を寄せる。
「……あなたが家を離れるのですか」
「ええ。長男が家を継ぎ、次男は万が一の時のために残る。それが、基本だと思いますが」
「あの二人が、その長男と次男、ですよね?」
「ええ」
フィーリア様は残念そうに息を吐いた。
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