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ただまあ、魔法の技術はそれなりにあるらしく、魔法自体の威力だけでみれば第一層の魔物もなんとかなるかもしれないくらいの実力はあるらしい。
「それでは、魔物を数体誘導させますので。おい、すぐに魔物を連れてくるんだ」
ライフの言葉に、兵士長のザンゲルはゆっくりと頷いた。
……顔には出ていないが、不満そうである。それでも、王女様の手前、仕方なく仕事をこなしているという感じだ。
兵士とともに森へと入り、魔物を探しにいく。
この悪逆の森は層ごとに出現する魔物が違うのだが、それはこの現実でもそうらしい。
魔物には縄張りがあるので、別の層へと移動することは基本ないらしいのだが……稀に外に出てくるやつはいるそうだ。
ゲームでも、緊急クエストとかでそういった討伐依頼があったものだ。緊急クエストで出現した魔物は経験値やドロップアイテムが強化されているので非常に良かったが、この世界ではどうなんだろうな?
そんなことをぼんやりと考えていると、何やら慌しい音が響いていた。
……なんだ?
兵士たちが血相変えて逃げてきた。何かに怯えるような様子に、ライフが慌てた様子で声を上げる。
「お、おまえたち……! 何をしているんだ!」
……叱りつけるのも無理はない。めちゃくちゃ情けなく見えるからな。
だが、ザンゲルが慌てた様子で叫んだ。
「だ、第三層の魔物がこちらに向かってきています」
「な、なんだと!?」
……だから、逃げてきたのか。
少し前のヴァリドー家の兵士たちなら、第三層の魔物にも対応できていただろうからこんな情けない姿は見せなかっただろう。
だが、今の兵士たちでは……厳しい。最近の訓練のおかげでザンゲルがようやく第二層に通用する程度だが、一人で魔物を倒せるほどの力はない。
「ふぃ、フィーリア様! すぐに退避を!」
「え!? ですが、第三層の魔物であれば、どうにかなるのでは……」
……王都には、確かそう報告書をあげているな。
報告書通りの実力をこの街の兵士たちが持っていればの話だ。
まずいな。
……やはり、第三王女が襲われ、ヴァリドー家が爵位を失う事件はこれなんじゃないだろうか?
さすがに、ここで家を失うのはダメだ。体を強化するには健康的な生活が必要だ。
タンパク質を補給できなくなったら、強くなるまでに時間がかかる……っ!
「こ、今回連れてきたものは第二層程度まででして……っ。すぐに避難しないと危険なんです!」
ライフの口はよく回る。第三王女様がわざわざ見にきているというのに、そんな中途半端な戦力を連れてくるな、というのが素直な意見なのだが、状況が状況なのでそういった発言はない。
第三王女の護衛たちも慌てた様子を見せる。……彼らならあるいは、と思ったが王都の兵士たちの方が質が良くないんだよな……。
彼らは確かに訓練の練度は高いのだが、実戦経験がほぼない人たちが多い。ましてや、王城に勤める兵士ともなるとコネ採用などされている人も多い。
特に、今の世の中平和なので、皆平和ボケしてるんだよな。
そんなやりとりをしている間に、第三層のハイウルフが姿を見せた。
……第三層に出現するのはウルフ系の魔物だったな。ハイウルフはその中でも一番弱い魔物なので、まだなんとかなるかもしれない。
「し、死にたくないぃぃぃ!」
リグレルは自分の身の安全を守ろうとすると走り出す。
なんなら、フィーリア様を突き飛ばす勢いだ……。
フィーリア様が唖然としていたが、それにつづくは我がライフ。
「兵士共! 金払ってんだから、時間稼ぎくらいはしろ! 王女様! 逃げましょう!」
ぶよぶよの腹を揺らすようにして走り出す。
場は、騒然としている。兵士たちが武器を構え、護衛の兵士たちも剣先をぷるぷると震えさせながらハイウルフを牽制している。
絶望的な状況の中ではあるが、まだ爵位を失ってもらっては困る……!
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