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俺は今までに経験したことのない痛みに襲われながら……ある記憶を思い出した。
俺は、どこにでもいるごくごく一般的な社会人だった。いや、ちょっとだけブラックな企業で仕事をしていたが、まあそのくらいは一般的な社会人だろう。
その仕事の帰り道。
たまたま目の前で子どもが車に轢かれそうになったところを助けて……たぶん死んだ。
そして、生まれ変わってしまったのだ。
レイス・ヴァリドーという公爵の三男に――。
自分の名前と立場を思い出し、思わず全身が粟立つ。
レイス・ヴァリドー。それは俺が前世で大好きだった『ブレーブ・ファンタジー』に出てくる中ボスだ。
……いや、中ボス、というのも烏滸がましいほどに微妙な立場なのだが、とにかく主人公に殺される運命の雑魚だ。
「なんてやつに転生しちまったんだ俺は……」
異世界転生とか出来るのなら、もっと色々と優遇されたかったのに……!
つまりこれは、俺には主人公になる資格さえないってことなのだろうか?
いや、でも……。
現実の無情さに絶望していた俺だったが、少し考える。
……原作が始まるまで、幸いなことに、まだ時間はある。
それだけあれば……俺の最悪な未来を回避することだって、可能なはずだ。
なんなら、主人公を超えることだってできるかもしれない。
「せっかく、転生できたんだ……っ。この人生で俺は、自分の好きなように生きてやる……ッ!」
社畜一直線で、前世ではできなかった自由な人生。
転生したのだから、そんな自由を求めたっていいじゃないか。
そのためにも、まずは自分の現状を把握するところから始めないと。
レイス・ヴァリドーというキャラクターは……よくいる貴族の噛ませ犬、みたいな人間だ。
容姿はとても整っているのだが、性格はゴミ。
そんなレイスくんが主人公にやられる原因は、主人公に嫉妬して突っかかるからだ。
まあつまり、主人公に嫉妬しなければ特に問題はないので無事危機は逃れられた。
めでたしめでたし……ではない!
そこは確かに問題はないのだが、レイスくんには別の問題がある。
まず、第一。ゲームでのレイス・ヴァリドーは隻腕だった。
ゲームでは、魔物に襲われて腕を喰われてしまったらしいが、まだそのイベントは迎えていないようだ。
つまり……これからレイスくんは何かで隻腕になってしまうイベントを迎える、ということだよな。
そして、もう一つの問題。それは、原作開始時点では、ヴァリドー家はなくなっているということだ。
ゲーム内のNPCから聴ける話では、街が魔物に襲われた時に適切に対処できず、大惨事となり……第三王女が殺されてしまったらしい。
さらにそれに合わせて色々な問題が発覚したために爵位を取り上げられてしまった……らしい。
……まあ、別にヴァリドー家がなくなることはどうでもいいのだが、今の時点で野に放り出されたら最悪死ぬ……。
これから俺は最強になるために自分を育成していく予定なのだが、貴族としての立場は悪くないからな。
せめて、原作開始時点までは家には存続してもらわないと、俺も自分の鍛錬に励めない。
ひとまず、目標は決まった。
俺が隻腕になるはずのイベントを回避。そして、ゲーム本編が始まるまで家に存続してもらう、だ。
とりあえず、今日からは一秒も無駄にはできない。
早速、強くなるために……俺はゲーム知識を総動員する。
まずは、街にいって、強くなるためのアイテムを集めないとな。
街へと向かうため、兵士に声をかける。
「これから街に向かおうと思うんだが、護衛をお願いできるか?」
「ひ? は、はい! 分かり、ました……っ!」
なんか兵士にはめっちゃ怯えられてしまっていた。まあ、普段のレイスくんは自分より下の立場の人に偉そうな態度をとっていたからな。
……こう言った部分も変えていかないとな。
これでは前世の俺の上司みたいになってしまう。俺は皆とは仲良くやりたいんだ。
とはいえ、これは日々の接し方で変わってくるものなので、一日二日でどうにかできるわけじゃないしな。
普段から意識していこう。
とりあえず、ゲーム知識を活かし、少しでも自分の能力を底上げするためのアイテムを手に入れないと。
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