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第十七話:衣服って、かなり奥が深くて人々の心も深くなるのでしょうか?

前回のあらすじ

マージュ・ミネヴァと面談したロメテス。マージュとは放課後の時間を取ることを約束し、ミネヴァとは、チェスで勝ったら養子になることを進めると約束した。

 こうして、教室へ戻った後に課題を配布した私は放課後を迎えます。職員室に戻り、つかの間の休息。一杯の紅茶は、凄く体に染みますね。


「先生! 買い物付き合って!」


 と休憩終わり。マージュさんが早速おねだり権を行使しにやって来ました。


「ええ、喜んで。何処に行きますか?」


「服屋! 先生に、この国のトレンドを教えてアゲル!」


 そう言うと、彼女は私の手をがっちり握って走り出しました。


「しょ、職員室の鍵だけ掛けさせて下さい!」


「大丈夫大丈夫! こんな場所に金目当てで入ってくるヤツいないカラ!」


 そ、そりゃあ確かにそうですけど。あ、そういえば勤務初日も鍵かけずにシオネーさんの家に行ったんでした。なら、良いですね。

 という訳で、ロメテス初めてのショッピング。スタートです。


◇◇◇


 さて、付いたお店は見るからにファンシー。恐らく、女性服の売っている店なのでしょう。


「さ、入るヨ!」


「え、ええ。ええ......」


 気が引けます。場違いだし、場違いだし場違いですよこれ。


「さーて、どれにしようかナア?」


 そんな私の気持ちはつゆ知らず。マージュさんは早速季節のお勧め服を手に取ります。

 しかし、最初は気合入ってたのにいざ目の前に来て怖気づいてしまうのは格好悪いですからね。そこら辺を指摘されなかったのは幸いかもしれません。


「先生、試着室行ってきマス! 近くの椅子で、待っててくださいネ!」


 と、ほんの少し物思いに更けてい間に彼女は両手一杯の服を持って近くの試着室へ。一回で、こんなに試すんですね。

 そして、彼女の入った試着室の目の前に小さな椅子が。


「ここに、座りますか」


 一息。しかし、これはこれで周りの目線が怖いです。マージュさん、早く試着終えて下さい。


「これ、どうかな?」


 そして数分後。彼女が試着室のカーテンを開けて現れます。水色のワンピースですね。


「とてもお似合いですよ」


 舞台にいそうな少女になりましたね。


「どこが似合ってル?」


「爽やかな水色と少女らしさを活かすワンピースが、貴方の清らかさを良く表してます」


「......フーン、じゃあサ」


 マージュさん、再びカーテンの裏側へ。そして、再び数分後。


「これはどうヨ」


 今度は、セーラー服のような格好ですね。特徴的なのは、リボンが真っ黒で布地が真っ白。そして、スカートの丈が長めなところでしょうか。


「学生らしい、良い服だと思いますよ。特に、夏は映えそうです」


「ふーーーん。それナラ」


 数分待ちます。だんだん、周りが私を気にしてないと気が付き落ち着いてきましたよ。


「これハア?」


 おっと、趣向を変えてきましたね。これは、この国の民族衣装なのでしょうか。


「可愛らしさ全開の良い衣装ですね。とても、お似合いですよ」


 黒のワンピースに近いですね。所々に刺繍されている赤色の独特な模様が目立ち、全体として禍々しい可愛らしさが出ています。


「今の三つの中だと、どれが一番好キ?」


「そうですねえ。どれもお似合いですが、二番目の服が個人的に好みですね」


 こういった質問は、店に来た時点で想定内です。全部を誉めつつ「個人的には」と前置きして自分が一番気に入ったものを選ぶのが正解かと。


「へえ! 分かった、これ買うヨ! じゃあ、次ネ!」


「え、次?」


「まだ、12着残ってるカラ!」


「......はい」


 彼女はその後、同じような手順を四回繰り返しました。なるほど、確かにこれなら約一時間で買い物が終了しますね。

 しかし、これは見る側も意外と体力使いますね。言葉選びと、好みを明確にして随時答えていかなきゃならん訳ですから。


「先生、これハ?」


「そうですねえ......」

 

 もはや呪文ですね、これ。眠くはなりませんが、どうにもこうにもって感じです。

 ええ、良い表現が見つからないですが何かこう、暇です。


◇◇◇


 両手に目一杯の紙袋。世の男性は、こういった荷物持ちを常時行っているのだと実感しました。

 

「先生、ありがとネ! おかげで、欲しかった服を揃えられたヨ!」


 一方のマージュさん。ウキウキです。教え子の笑顔が見れたのなら、これはこれで良かったとも思いますけどね。


「それは何よりです。では、このまま貴方のお家まで運べば良いですか?」


「うん、お願いネ!」


 無邪気な彼女。まあ、学生ってそんなものですよね。多分。


「あ、そういえだマージュさん」


「ナアニ?」


 ふと気が付いた疑問と、沸き上がる好奇心。私は、スッと切り込みます。


「四番目に試着された三着のドレス。それらは、伝統衣装だとお見受けします。軽くで良いので、私に概要を教えて頂けないでしょうか?」


 人間、生涯学習です。早速、この国の昔ながらの服装について学んでいきましょう。


「うーんとネ、まず買わなかったピンクのドレス。あれは、春の祭りで着る衣装ダヨ。今年参加しようかと思ったんだけど、家の予定が入っちゃったから出られなくテ。記念に来てみたかったノ」


 ふむふむ。雛祭りや旧正月とかでありそうな踊りとかでしょうかね。


「で、白いドレス。あれは、成人した時に清めの儀式で使うヤツデス。18歳で成人なので、先生も男性衣装でやりますカ?」


「そうですねえ。準備の時間があったらやりますかね」


 何か、壮大で厳かな成人式みたいですね。興味はありますが、まだ覚悟が出来てないです。


「そして、先生に選んで貰って買ったこの青いドレスは......」


 一呼吸置いた後、彼女は軽い足取りで私の正面に向きます。


「好きな人に、女性がプロポーズをする時に着る勝負の衣装なんだよ」


 ほうほう。マージュさんもそういう準備をする時期なのですね。そして、プロポーズ用の衣装があるって凄く良いですね!


「なかなか、ロマンチックな衣装だと思います。この国の、長い時で養われた服への想いを、感じ取れましたよ。ご教授、ありがとうございました」


 お礼はしっかり、基本です。


「う、うん。また聞きたいことあったら聞いてネ」


 いやはや、思いがけない部分で良い学習が出来たようです。

 こうして、私は重い荷物も何のその。気分よくマージュさんの家へと向かうのでした。


◇◇◇


「それでは、また明日ですマージュさん。お疲れさまでした」


「......うん、また明日」


 買った衣服は、全て彼女の部屋の中へ運搬終了です。家庭訪問で入ったことがあるので、特に問題なくスムーズに運ぶことが出来ました。

 そのまま私は別棟へと戻ります。まだ、やっておくべきことがありますからね。

 荷物のない散歩道は、とても気軽で身軽です。


「先生」


 しかし、ここで思わぬ落石が降ってきました。


「どうしました、ポロンさん?」


「マージュと買い物したんですね? 私とも、したことないのに」


 あ、これはまずいですね。幼馴染から嫉妬されても、良い事ないですから。


「多少男手があった方が良かったんじゃないですか? 今回、五着も買ったわけですし」


「......それでも、私が行きたかったですね。これでも、ずっとあの娘を支えたつもりですから」


 えーーー。マージュさん、ポロンさんのこと喧しいとか思ってないはずなんですけどねえ。


「だ、大丈夫ですって。マージュさんが通学する糸口を見つけ出して下さったのは、間違いなくポロンさんな訳ですから」


「......では、マージュが青いドレスを買ったのは本当ですか?」


「それは、本当ですね。やはり彼女も、伝統衣装を身にまとってみたかったのでしょう」


 流石に、衣服一つでそこまでの変化はないはずですよね。だって、一緒に過ごした時間が桁違いな訳ですし。


「......先生、今度マージュと二人っきりで話す時に伝言しといてください。私は、黄色いドレスを着たいって」


 そう言い残し、ポロンさんは走り去ります。


「......黄色いドレス? 社交界とかで使う用ですかね?」


 疑問は残りますが、彼女の中に思うべきものがあることは分かりました。

 ファッションについては、マージュさんだけでなくシオネーさんからもたくさん教わるとしましょう。日常会話で付いて行けるレベルにはならないと。


「先生、大変そうですね」


 と、今度はピラさんが後ろから声をかけてきます。何でしょう、この辺に皆さんの住居・生活圏の交差地点なのでしょうか。唐突に声をかけられやすく、少し心臓に悪いですね。


「おや、御機嫌用ピラさん。まあ、教師は苦労する者ですからね」


「......いや、そうじゃなくて」


 ??


「......いえ、これに関してはティタンさんから聞くのが良いです。私からは、何も」


「そう、何ですか? 何かありましたら、遠慮せずに行って頂きたいですよ」


 笑顔で私は言うのですが、どうにもピラさんは俯きがちです。今度の面談を機に、もう少し打ち解けれれれば良いのですが。


「いえ、そこまででもないので。それじゃあ、カリオン君が待ってるので」


 あら、行っちゃいました。......ん? カリオンさん? 何故、突然彼の名前が?

 そういえば、今日のペアワークでペアを組んでましたね。何か社会的に話し足りない要素でもあったのでしょうか。


「まあ、いっか。とりあえず、教材の準備に行かないと......」

 

 今度こそ、私は別棟へと戻ります。日の入りまで、あと二時間くらいですかね。それまでには、明日の準備を完全に終わらせたいものです。

この世界のファッションを考えながら書きました。思ったより楽しかったデス。


里見レイ

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