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第十六話:一つの質問、二つのおねだり

前回のあらすじ

国の組織構造について話し合った教壇のメンバー。ここでは、互いの思想や心情が摩擦を起こした。

そして、ロメテスはポロンの母親について聞かされる

 無言の、昼食。いや、私自ら無言を支配させているというべきでしょう。隣のシオネーさんは、見るからに話したそうですから。


「......」


 め、目線が痛い。しかし、頭の整理がついてなくて話す余裕がないんですよね。

 だって、先ほどの授業では「弱者を救う」よりも「強者を育てる」に傾いた政治議論が行われていました。場合によっては完全な「弱者」になりうるポロンさんの前では、完全な拷問です。


「......」


 シオネーさん、少し待ってくださいね。流石に、私も悩ましいんですよ。マージュさんの件で彼女にも協力して貰った手前、恩を仇で返す様なことはしたくないので。

 しかし、今の情報だけでポロンさんの家庭を弱者扱いするのも気が引けますね。普通に儲かっている可能性もある訳ですから。

 うーーーーーーん。


「先生、何で悩んでいるのかは分かってますから。そこまで悩まなくとも、放課後に解決できますから悩まないでください」


「そ、そうなんですか? 私からは、あまり想像の付かない世界だったものでつい」


 シオネーさんが何処までポロンさんの実情をご存じか不明瞭ですが、少なくとも手がかりは掴んでいるようですね。


「大丈夫です。先生も良く知れば、今後により活きるはずですから」


 これ、いつものように信じて動くのが最良なんですかね。いや、出会って数日で「いつものように」は少々違う気もしますけど。


「わ、分かりました。それじゃあ、もう少しリラックスしますね。うん、今日は甘いパンですね。この甘さは、お昼ご飯に食べると癒しのような感覚がしますね」


 切り替えます。うん、美味しい。シオネーさん、結構パンのレパートリーが豊富ですね。


「......そういえば、先生は好きな食べ物ってあるんですか?」


「え、ええ。それは勿論」


 黙々と食べていたせいか、気が付くと半分以上パンを食べ終わっていました。そのタイミングで、彼女は新たなフェイズに移行する気なのでしょう。


「何が、好きですか?」


「そうですねえ。サンドイッチが好きですよ」


 偽りなく、答えます。ここで下手に嘘ついても、意味はありませんからね。


「どんな、サンドイッチですか?」


「卵サンドです。この世界にもありますよね。卵?」


「え、ええ」


 私は、卵サンドが大好物。他のサンドイッチも好きですけど、何か一つ作ってくれるなら卵サンドを希望するくらいには好きですね。


「今度、作ります。貴方には、今後も精一杯働いて貰わなきゃいけない訳ですから」


「ははは。プレッシャーですね。まあ、やるだけやりますよ」


 うん、美味しかった。ごちそうさまでした。この世界の卵はどういうのかについては、また後日聞くとしましょう。

 課題はまだまだあるかもしれませんが、もっと頑張れる気がしますね。

 こうして、私のランチタイムは終わりました。

 静かに座る、彼女と共に。


◇◇◇


「さて、それではプリントを配ると同時に面談を始めます。今日は、マージュさんからです。空き教室まで、付いて来て下さい」


「分かったヨ、先生」

 

 さて、午後は面談です。昨日は避けていたマージュさんとの面談から、スタートさせます。


「それで、先生。アタイは何をすればいいノ?」


 面談スタート。そして、初手にこれですか。まあ、良いでしょう。主体性も、あり過ぎたら毒となりうる訳ですから。


「貴方に関しては、スペシャルプログラムを組みました。マージュさんの素質とは、『美』にあるからです」


 そして、召喚したファッション誌を取り出します。


「貴方にしかない『美』が眠ってます。貴方にしか持ってない『気品』が秘められています。貴方だけが出せる『輝き』があるはずです。私の故郷も参考にしつつ、一緒に突き詰めてみませんか?」


 そう、シオネーさんの提案したマージュさんへの専用科目は「彼女そのものの美しさ」だったのです。ハーフエルフという人間とエルフ両方の持つ「容姿」を活かし、果樹園出身のアドバンテージである「香り」を引き立たせる。そして、私は「服装」や「美容」など後天的な部分を教えていく。これが、あの日貰ったアドバイスでした。

 

「......そー来たカ。でも、先生らしい答えダネ」


 肩の力が抜けていくマージュさん。思ったより、何の科目を出されるか緊張していたのかもしれません。


「勿論、私もこの世界の美的価値観は理解切れておりません。そう言った部分は、分かる範囲で貴方が教えてくれると助かります」


 笑顔で、私は続けます。人に教えると、それに関する自分の記憶も定着するって言いますし、良い方向に進むと考えてます。


「......でさ、共通の課題のご褒美は本当に何でもいいノ?」


「ええ、それは勿論。私の出来る範囲なら」


 やはり、ご褒美作戦も効果はあったみたいですね。


「だったら、授業後に時間頂戴。分からない部分聞きに行くし、なかったら買い物に付き合って欲しいナ」


「お安い御用ですよ。多分、最低でも一時間は確実に取れますので」


 おや、思ったより健気なお願いですね。確かに、学生って放課後質問しに行ったりしますよね。私も、放課後よく行ってましたよ。


「よ、良かったデス。それじゃ、授業お願いしマス」


「はい。では、私の故郷の学生向けファッション誌に書かれている『ファッションのステップ1・2・3!』の部分から解説しますね。曰く......」


 こうして、個別授業が始まりました。私にも学びが多く、非常に充実した時間だったと思います。

 のちの出来事を無視すればの話ですけど。


◇◇◇


「......お疲れさまでした。今日の講義はこれで終わりにします。何か質問や知りたい分野があれば、また明日聞いてくださいね。放課後に、時間取りますので」


「は、はい。凄く、楽しかったデスが、疲れました」


「その疲れが、明日の貴方の支えになりますよ。それでは、次にミネヴァさんをお呼びください」


「しょーちのすけ」


 こうして、マージュさんのターンが終了。私も、一段落。さて、ここからは楽しみつつも覚悟を張って挑むと致しましょう。


「先生、面談お願いします」


 ミネヴァさんがやって来ました。目が、鋭く光ってます。


「お待ちしておりました、ミネヴァさん」


 にこやかに彼女を迎えます。しかし、私の心の中では嵐が蠢いているのです。


「さあ、長らくお待たせしました。これより、チェスの講義を始めます」


 机の上に置かれた、紙製のチェス盤と駒。そして、私のとびっきりの笑顔。


「......本当に、やってくれるんですね」


「ええ。勿論、私に勝ったらお願いを聞く約束もそのままです」


 二言はないですよ。共にチェスをしてくれる仲間がいるだけで、これ以上もなく嬉しいんですから。


「一か月後に、先生に勝ちます。覚悟は良いですね」


「当然」


 笑顔の視線が交わされます。何か、凄く昂って来ましたよ。


「では、早速始めて行きましょう。まずは、このゲームの成り立ちから軽く解説します」


 こうして、0から始まるチェス講座が幕を開けたのでした。いやはや、すっごく楽しいですね。


◇◇◇


「......と言った感じが基本的な戦術となります。ここに、私厳選の名勝負の棋譜を記した資料がありますので、この盤を使って再現しながら見てみて下さい」


 こうして、約二時間の長講義が終了。個人的には、後は実践あるのみの段階まで行きました。タクティクスなども一通り説明しましたし。一回寝かせて熟成させるべきでしょう。


「......はい。分かりまし、た」


 案の定、ミネヴァさんも満身創痍です。午前中とはポジションが逆になってますね。


「一応、言っておきましょう。勝負事や鍛錬で重要となるのは、勝利した自分や成長した自分をしっかり思い描くことです。そして、目的を持つ事。今回は、私への課題免除などを頭に入れて練習してみて下さいね」


 モチベ管理に関する基本を、ここで告げました。恐らく、彼女には私を超えるだけのポテンシャルはあります。そしたら、残りは努力のみですからね。


「......先生、その『お願い』についてお伺いします」


「はい、何でしょう?」


「もし、私が先生に勝ったら、アウル家の養子になってくれませんか?」


 ......はい?


「私の家は、能力を中心に優れた者を養子に入れています。先生も、その一因となって欲しいです」


「よ、養子ですかあ。いきなりなので、お返事はすぐには出来ないですねえ」


「だからこそです。私が先生にチェスで勝利するまでの一か月、考えておいてください」


 ......ええ。これって、たった一回の勝負で私の人生大きく左右されるって訳ですよね。それは、何と言うか分が合わないし答えにくいし。


「負けなければ、良いんですよ。私が、わざわざ先生の得意分野で戦う理由がそれなんですから」


 あ、彼女なりに譲歩してチェスって訳ですか。


「......良いでしょう。私が貴方に一回負けたら。養子の準備の為に貴方のご実家へご挨拶に行きます。親御さんとしっかり話してからなら、互いに良い方向へ進めるはずですので」


 私は、その提案を呑むことにしました。どうせ、身寄りのいない異世界です。骨をうずめる場所を準備したって良いでしょう。


「そ、そうですか。きっと、両親も喜ぶと思います。それでは」


 こうして、彼女も教室に戻りました。


「......まあ、良いでしょ」


 私なりの覚悟。と言うよりも、私の人生設計ですね。あと一か月くらいで今後どう進むのか決めないと、それこそ目標のない人生になってしまうでしょうから。

 このまま教師として生きるのかも、決めてない訳ですからね。


「さて、今日はしっかり課題を出さないとな」


 私も立ち上がり、学生の皆さんが待つ教室へと向かいます。さてさて、どんどん道の分かれ道が見えてきている気がしますね。

各人物との1-1会話は、非常に重きを置いてます。

宜しければ、感想・評価・ブックマークをお願い致します。


ここまで、ご拝読ありがとうございました。


里見レイ

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