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第十五話:議論から見えてきた、内側のひずみ

前回のあらすじ

ロディーテのアドバイスの元、社会の授業を始めたシオネー。ロメテスも、久しぶりに学生として国の構造について学び、ペアワークを行っていた。

「だから、それじゃ何も変わらないんだってバ!」


 私の頭がショート寸前に至った時、ある少女が叫びます。


「ど、どうしましたマージュさん!?」


 この時、私は一時的に学生から教師に戻ります。これは、私の役目ですので。


「先生! いやよ、マージュが突然......」


 大慌てのエピテスさん。おや、普段の中の良さからペアワークの相手はポロンさんかと勝手に思ってましたよ。


「だって、先生! エピテスが『軍の将には生まれ持った環境が重要になる。それに、国の防衛線を完全実力主義にしたら内輪もめが絶えない』って! それじゃ腐るに決まってんジャン!」


「??? ぐ、軍? 今は国の政治組織の話だったのでは?」


 あれ? 確かに軍事は政治に近い存在です。しかし、シオネーさんが黒板に書いた図の何処に書かれてましたっけ?


「先生、各大臣の横に『将軍』って小さく書いてありますよ。これが、この国の軍の最高責任者に該当します」


 私の疑問をくみ取り、ミネヴァさんが補足してくれます。ふむふむ。つまり、二人は私たちの様に「国家組織の繋がり」とかではなく「個々の機関」に注目して話をしていた訳ですか。


「それで、マージュさんはどのようにお考えなのですか?」


「軍は、完全実力主義の元で組織されるべきなんです! そして、いち早く大陸を統一するべきなんデス!」


 な、なるほど。この授業を通して初めて知りましたが、彼女は軍事面に興味をお持ちなのですね。そして、かなり積極的。防衛よりも侵攻を重視してます。


「そういう意見も、勿論ありますね。シオネーさん。ペアワークで大分意見も出ましたので、ここら辺で全体ワークに移っては如何でしょうか?」


 あ、つい口を出しちゃいました。まあ、許される範囲でしょう。


「そうですね。それでは、ペアワークを通して出された意見を発表してください。発表担当は、一人で良いですからね」


 良かった。過干渉とは思われませんでしたね。

 そして、皆の意識が教壇へと戻りました。何か、久しぶりの感覚ですね。受験勉強中心の授業になってから早数か月。だから、大体半年ぶり、何ですかね......


◇◇◇


「......て感じで、僕らは組織の『効率化』に着目して話を進めました。結果として、役人に専門的な研修を施し、その上で使えない人材を積極的解雇すれば、予算の有効活用出来ると思います」


 これは、カリオンさんとピラ・ロックスさんペアの発表です。ふむふむ、雇用面以外だったら完全に合理的ですね。


「さて、全組の発表が終わりましたね。各ペアに対して、何か質問・疑問はありますか?」


 シオネーさんが、次のステップに進みます。ここ、故郷だと通夜みたいに静まり返るんですよね。


「......じゃあ、質問いいかなシオネー」


 おっと、静寂は無かったですね。ポロンさんが切り込みます。


「政治をより良くする観点として、皆決まりを作ったり効率化したり実力主義にしたり。傍から見ると堅くて怖いイメージが付く気がする。これだと、町の人々は政治に消極的になって国が衰退しちゃうんじゃないかな?」


 おっと、彼女は発表でも「愛と平和」を基にした政治が大事だと言ってましたね。だとすれば、そう疑問に思うのも道理でしょうか。


「可笑しな質問をするのね、ポロンちゃん。政治って言うのは支配する者とされる者に分かれてる。そして、支配する者にはされる者を守る義務があるの。その為に必要なことが規則や実力主義、はたまた効率化の為の大量解雇だったら、遠慮は必要ないんじゃないの?」


 シオネーさんからの反論。彼女は、逆にポロンさんの案に疑問があるみたいですね。


「で、ですが。その支配する者? には町の人の為に行動している役人が大勢いるんだよ。彼らを縛り付けたり解雇するのは不当じゃないの?」


「そいつらこそ、国を悪くする源なのよ。賄賂を贈るのもあいつらだし、解雇された後に職を求めて醜い乞食に堕ちるのもあいつら。連中には、民を導くだけの教養も覚悟もない。よって、管理すべきなのはむしろ管理する側である役人たちなのよ」


 シオネーさん、何か過去に恨みがあったような口ぶりですね。ポロンさんは、完全に優しさ特化になってます。

 他の方が意見を入れるかなあと思い教室内を見渡す私。皆、口を挟めないのでしょうかね。いや、挟まないという方が正しいか。


「......」


「ポロン、貴方は優しすぎるの。世の中、貴方みたいな善人ばかりでもないのよ」


「え? けど国を任せられる王や貴族は『神より民に善性を施されたって』言われてるよね? だったら、その下で仕事をする役人たちも善性に倣った指導をされるでしょ?」


 ?? 教壇の、基礎教育の一つでしょうか? 故郷だと「道徳」とかに部類される範囲ですかね。


「......ポロン、政治の世界は『如何に相手を出し抜くか』なの。そこに善性はかけらもないわ」


 逆に、シオネーさんは偏見染みてますが経験則がありそうな口ぶりです。親御さんが、役人だったりするのでしょうか。


「だからこそ、奴らの闘争本能を上手い事刺激して勝者と敗者を明確化させるのだ。そして、その種目は『実力』のみ。国の部品になれる者のみを残せば、国は回るのよ」


 目が、冷たいです。この視線は、授業と言うより議論で相手を目茶目茶にする為のものかもです。


「実際、下級役人は誰でも出来る部分が多いからな。俺の父親も、正直凄く給料泥棒みたいな生活送ってる。ま、そのおかげで俺はここに居るんだけど」


 下級役人の子であるエピテスさんからの痛烈な言葉。彼は実際に政治と近い世界だからこそ、生まれや育ちの影響を思い知っているのかもしれません。


「......ポロンちゃん、もういいヨ」


 そして、マージュさんが裁定を下します。いや、彼女は元々シオネーさん側の意見なのでとどめを刺したの方が適切ですね。


「ポロンちゃんは、アタイらとは別の環境なんだヨ。それが悪いとかはないケド、互いに理解できないと思う」


 彼女なりの、最大限気を使った言葉なのでしょう。しかし、それは同時に議論が無意味だと直接的に通告もしています。


「ま、マージュ?」


 そして、ポロンさんの顔が絶望に染められます。幼馴染に「理解し合えない」と言われるのは、ショックですよね。


「ごめんね。多分、これは無理なことだかラ。ごめん」


「......」


 不味い、空気感が議論より先の意味で冷え込んでる! えーーとえーーと。


「ふふふ。まあ、少しポロンちゃんに言い過ぎた気もします。けど、そこが貴方の長所だって、忘れないでね」


「......シオネー」


 渋いお茶を飲んだかのような顔をするポロンさん。完全に丸め込まれた形になり、自分の意見も封じ込まれた訳ですからね。


「他に、何かありますか? ポロンさんの様に、遠慮のない意見を下さいな」


 そして、シオネーさんは授業を進めます。


「じゃあ、質問良い? マージュの言ってた『軍の実力主義』についてなんだけど......」


 おっと、ミネヴァさんが質問を始めました。やはり、彼女は政治に関して良い思考回路をしているのかもしれません。

 逆に、私は細かい政治の部分は難しくて何とも疲れが滲み出てくるというか何と言うか。

 目と耳はフル稼働させつつ、残りの体全身は疲れと戦いながら私は日がてっぺんに昇るのを待つのでした。


◇◇◇


「......こんな感じですかね。じゃあ、先生お昼休みの前にまとめて下さい」


「は、はい。分かりました」


 よ、ようやく終わりました。大体、二時間以上みんなで話し合ってた気がしますよ。

 空腹と、目の疲労、そしてショートして幾らか経った脳みそに鞭を打ち、立ち上がります。


「さて、今回はほぼ学生主導で授業を進めて貰いました。特に、ディスカッションの部分は良くも悪くも大きな刺激を受けたと思います」


 見渡すと、半分以上が満身創痍ですね。まあ、当たり前ではありますが。


「ここで大事になるのは。自分に絶望せず、尚且つ相手を恨まないことです。共に一つの話題で話し合った仲と言うのは、振り返るとあまりいなかったはず。つまり、今までなかった経験です」


 一呼吸。結論まで、しっかりと。


「だから、この出来事を正面から受け止めて下さい。卑下もいけませんし、慢心もダメです。今後、この経験が糧となるように心で受け止めて下さい。そして、考えることをやめないでください。どこかで、今日の出来事が遠い遠い引き金となって、貴方の道を照らすはずですので」


 ......よし。


「それじゃあ、お昼にしましょう。午後は、また面談と自習のお時間です。自習内容は、私の故郷のことわざですよ。では、またお昼後にお会いしましょう」


 締めの言葉を気合で取り出し、私はふらっと教室の外へ出ていくのでした。


◇◇◇


「先生、お昼食べますよ」


 やっぱり、一人にはなれなかったー!

 疲労回復の為の仮眠すら許されず、私はシオネーさんに捕まります。ま、まあ。彼女が私の昼食持っているので必然の理ではあるんですけどね。


「シオネーさん、授業お疲れさまでした。とても有意義な時間でしたよ」


 しかし、彼女の功にねぎらいを賭けなければ天罰が下るのもまた自明の理。精一杯の笑顔で彼女の方へ振り返ります。


「それは、ホッとしました。先生は、逆にお疲れですね」


「ええ。慣れない学問だったものですから」


 こう見えて、私は理系に進学予定でした。社会のような科目は、あくまで趣味です。


「それにしても、ちょっと過激な授業でしたか? ポロンちゃんには、少し悪いことをしてしまった気がします」


 少しだけシュンとなるシオネーさん。まあ、授業のテーマと言うより、解釈や考え方の問題ですからねえ。


「問題ないと思いますよ。あくまで授業は授業。皆さんの進路が全員役人って訳でもないでしょうし、軽い教養レベルの話に収まると思います」


 私からすれば、そこまで過敏に扱うレベルでもないです。知っておいて損がないレベルかと。


「そうなんですね。じゃあ、そんな心の広い先生に一つ耳寄りな情報を」


 軽い足取りで近づいて来て、少しだけ背伸びをするシオネーさん。


「......ポロンちゃんの両親の仕事、分かりますか?」


「ええ、確か元傭兵と聞きました」


「じゃあ、今何しているかご存じですか?」


 ......あれ? ロディーテ様の資料には、「元傭兵」とし書かれてなかったですね。逆に、ミネヴァさんの所には「元傭兵」と書かれておらず「修理工」と書かれてます。


「彼女の両親、と言うより母親は水商売をしているんです。父親は、既に他界してて母親が一生懸命働いているみたいですよ」


「......はい?」


 これ、聞いちゃいけない情報だったのでは。頭の中が凍り付いたまま、日の光が別棟の真上に顔を見せました。

議論をすること自体は、とても良い事だと思います。ただ、その内容が己の根底に関われば関わる程意見の相違がそのまま生活に影響もします。


15歳の少年少女には過酷な話ですが、シオネーはあえてこうやった気もします。


ご拝読、ありがとうございました。感想、お待ちしております。


里見レイ

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