第十四話:久しぶりに授業受けました!
ロディーテに教員寮引き払いのお願いをしたついでに、社会の授業の補佐を受けたロメテス。
帰り道、彼は乞食に絡まれてしまう。様々な弁護を考えるも、シオネーから実情を聞き彼らを蹴り飛ばした。
私がシオネーさんの家に着いた時、自分がとんでもない問題に首を突っ込んだと理解しました。
「......これ、伯爵様やシオネーさんにめっちゃ迷惑かけたよね?」
冷や汗が、出て来ます。あの乞食たちは近寄ってはいけないパンドラの箱だったのでしょうか。
「......迷惑でしたよ。貴方は本当に」
「し、シオネーさん」
早いご帰宅ですね。早すぎて怖いレベルです。
「街の長が、父の知り合いだったので上手いことして貰いました。先生を傷つけた男は、脅迫罪で拘留しましたのでご安心ください」
「あ、ありがとうございます。色々復讐されるかと思ってましたので」
少し、安心しました。一人で出歩くリスクが減った気がします。
「そうだ。ロディーテ様からメモを渡すように言われてました。これです」
ポケットの奥深くに畳んであった用紙を、広げて彼女に渡します。
「......ああ、あの人は本当に」
メモを受け取ったシオネーさん、何やら怪訝な顔をしてますね。
「先生、明日の授業は数学なしでお願いします。午前中の時間を貸してください。面談は、午後に回して貰いたいです」
ああ。あのメモにシオネーさんが取り仕切る授業内容が書かれていたのでしょうか。二人がどのくらい考えているかは不明ですが、私が一週間近く悩んでいた問題が解決しそうです。
「分かりました。明日は、シオネーさんが教師役ですね。授業、楽しみにしています」
彼女から、色々学んでいきましょう。さすれば、道はおのずと見えてくるはずです。
「あと先生、今回のことで一つ」
「は、はい!」
不味い、これはお説教パターン!
「ああいった輩には、暴力ではなく権力を行使して追い払えばいいんですよ。先生は伯爵からの首飾りを持っているので乞食に絡まれますが、逆に言えば伯爵の力を笠に着ればいいんです」
......?
「いや、それで良いんですか? 私自身は異世界出身の平教師ですよ? 下手に伯爵様の権威を使うと、逆に迷惑をかけてしまうのではないですか?」
「そこは、問題ないですね。むしろ、あの人はドンドン使って欲しいみたいですよ。ここにも、書かれてました」
あの小さな紙に、そこまで書かれてるんですか。
「あ、先生もいつか知ると思うので補足しますね。ロディーテ伯爵は、この紙に『魔術文字』を使って要件を書いてました」
「魔術、文字? 魔術を繰り出すための古代語みたいなものですか?」
チラリと、メモを拝見。うーーん、やっぱり読めない。
「ええ、特に彼が使用するのは『術式語』と呼ばれるもので、一文字に多くの意味が籠っています。だから、こんなに短い文章でも大量の言伝が読めるんです」
「ふむ。魔法の世界とは便利なものですね」
魔法で培われた技術を、日常で活かす。今度、教員向け魔法研修とかがあれば受けてみたいですな。
「そうですよ。先生をあの輩から助けたのも、魔術の応用ですかね」
「ああ、だから......」
普通、大の男に対し少女であるシオネーさんが真正面から勝てるはずありません。それを覆したのが、魔法だったわけですね。
「先生、折角ですからもう一つ魔術をお見せしてよいですか?」
「ええ、是非!」
大変興味深いです! 少女の使う魔法なら、多くの人が使う可能性が高いです。よって、良い社会勉強になるのではないでしょうか。
「じゃあ、寝て下さい。『リンアス』」
え、何で私が寝る必要が......
◇◇◇
「......朝ですかね?」
気が付けば、私はベッドで寝かされていました。シオネーさんってば、私に不意打ちしないと死んでしまう病気にでもかかっているんですかねえ。
「おはようございます、先生。今日は、シリアルにヨーグルトですよ」
そして、貴方は何故私を眠らせておいて何事も無い様に振舞うんですかねえ。不信感よりも確信的に何か訳ありの匂いがしますよ。
「は、はい。いただきます」
でも、私は深くは問いません。だって、私の為だって分かっているから。
「......お陰様で、体の調子は良さそうです。特に、精神的面で凄くリラックスして寝れたように感じますよ」
「え、ええ。眠った後に疲労回復と精神安定の魔術を使用しましたから」
図星ですか。何となくの感覚で言いましたが、当たる物ですね。
「しかし、わざわざ私を眠らせなくてもそう言った魔法は静かに受けましたよ。もしや、誰かに見せちゃいけない部類でした?」
「ええ。そんな所です」
うむ。魔法ってやっぱり神秘なんですね。魔術研修の時、「魔法を習う前に」みたいな感じで言われるパターンでしょうか? あ、シリアルは元の世界と同じ味ですね。
「そういえば、今日の授業で私がサポートする部分はありますか? 流石に、学生に任せっきりなのは気が引けますので」
「そうですね。じゃあ、私の講義の後に全体を取り仕切って頂ければと思います。授業の本編は、私一人で何とかなるレベルですので」
なら、自信をもって見守りましょう。下手な干渉も良くないですからね。おや、このヨーグルトは少々酸味が弱くて甘めですね。砂糖を使用してるのでしょうか?
「分かりました。では、私もしっかりシオネーさんから学ぶ時間と致しましょう。ごちそうさまでした」
食事を終え、前より少し気楽に出勤準備。シオネーさんも用意できたようですし、レッツゴーです。はてさて、今日も楽しい? 学園生活になると良いですね。
◇◇◇
「皆さん、おはようございます。本日は、予定を入れ替えまして社会・国語・教養に関するの授業から始めたいと思います」
別棟前でシオネーさんと別れ、軽い教材を片手に教室へ。よし、今日も全員いますね。
「正直な話、私はこの国の歴史や教養に関しては一般人以下です。よって、今日は特別講師をやって頂きたいと思います。シオネーさん、お願いします」
そして、挨拶もほどほどに私は教壇から横へと移動します。
「......先生より、午前の授業を任されたのでやっていきます。科目は、社会。その中でも『政治・経済』に該当する部分です」
いつもよりクールで敬語のシオネーさんが、スラスラと黒板に図を描き出します。一番上にある王冠は、国王でしょうか。
「はい。三年の時に習ったと思いますが我が国は国王に大臣・裁判長・領主の使命権、任命権があります。そして、各大臣は自分の管轄内にある省庁、裁判長は全裁判の担当裁判官。そして、領主は領内の役人を使命・任命出来ます。これらは、中央集権として長らく国家の安寧を支えてきました」
淡々と述べる彼女に私は感心します。故郷と似た政治体制ですが上層部の権力が故郷より強そうですね。
「さて、ここからが本番。中央は全体で見れば安定した政治が執り行われております。しかし、細部に注目するとどうでしょうか? 貴方方の経験談や聞いた話を参考に、この仕組みの欠点について話し合っていきたいと思います」
お、グループディスカッションですね。9人ですから3×3でしょうか。
「それじゃあ、二人組を作って下さい」
「あれ、シオネーさん!?」
「先生も、誰かとペアを組んでくださいね。今は、貴方も学生なんですから」
「あ、そっか」
私は、見学ではなく体験みたいな立ち位置なんですね。理解です。
「先生、組みましょ」
「ええ、良いですよミネヴァさん」
そして、速攻でミネヴァさんが誘ってくれました。こういうペアワークは慣れてないので助かりましたよ、正直。
「......先生は、どう思いますか?」
「そうですねえ」
実体験は、向こうで学生だった私にとって乏しいですね。ただ、故郷の政治体制と比較すれば行けるかもしれません。......あれ? 故郷の政治体制って細かく知らない。
だったら、率直な感想を言いますか。
「......まず、大臣クラスの人間の権力が強いように感じます。これでは、任命権目当てに賄賂が横領するでしょう。国家と言うよりも、企業の方がしっくりくる組織体制です」
「企業......ああ! 資本家のことですね」
「え、ええ。恐らく」
そっか。この世界は中世風で、まだ会社も財閥も存在しない感じか。えーと、座や組合とかはあるんだっけ? で、お金持ちで会社を持つような人は全員「資本家」って訳か。
「ミネヴァさんは如何ですか?」
「......先生の言う通り、この国はまあまあ腐ってると思います」
うお、ドストレート!
「基本的に、役人は賄賂の為に市民から金を巻き上げます。貴族はそれをどう使うか委ねられており、その上辺をどう作ろうかで『名君』と『暗君』の差が明確になるんです」
「ふ。ふむ」
「その代わり、この国はまずますの暮らしを送るのに最適です。難民キャンプ、集合住宅、生活必需品の定期供給を受けるとこが出来ます。私の父も、怪我をして傭兵を引退しこの国に来たばかりの頃は援助を受けてました。しかし、今は武器の修理工として立派に生活を立てています」
おや、ミネヴァさんの家庭事情ですね。これは、興味深い。ポロンさんと同じく、傭兵出身ということになるのでしょうか?
「よって、国は裁判官とはまた別の不正監査部門を置くべきです。そして、国内部の不正を全て根絶すれば、この国は千年安定すると思います」
なるほど。彼女は国に大切なものを「不正がない組織」と考えているようですね。私もそこに関しては大いに同感です。
「あとは、何かありますかね? 個人的には各領主の権限について最低限の規則を設けた方が領民の生活が保障されると考えておりますが」
各領主って、故郷で言うと県や州に当たる部分ですよね。なら、その前提となる憲法みたいなのがあるか気になりますし条例が存在するのか一考の余地ありです。
「そこは、各領主と役人の関係性や性格、能力にもよると思います。規則は時に、人の行動を縛ってしまう可能性があるので」
「確かに、規則って時代に応じてはお荷物になりますからね」
後世のことを考えると、中々面倒ですね。まあ、それが政治な気もしますが。
「うーん。だとすると、規則ではなく倫理観の教育の方が大事なのでしょうか? その時代に合わせた『正しさ』を共有すれば中央と各領主でいざこざが起きなくて済むのでしょうかね?」
政治は、難しい。
「その場合、教育機関への干渉が気になりますね。そもそも、各領主と中央にある程度明快な繋がりが出来た場合、領民が......」
そして、その話を軽々と展開できるミネヴァさんに感服です。
「そ、その場合大事になるのは......」
必死に考えを紡ぎ出す私。頭が、頭がパンクしますってばあ......
ペアワークって、授業として凄く効果的だと個人的に思ってます。ここでうまいこと、キャラ描写を出していきたいですね。
里見レイ