第十一話:面談開始です!
シオネーは、ロメテスのに過去の夢を見せ、目が覚めたらマージュに登校の意志を芽生えさせた。
ロメテスは、そんな彼女を不思議がり恐れるがシオネーはまだ何か考えている様子。そんな彼女に委ねる所は委ねようと、彼自身も覚悟を決めるのだった。
さてさて、あれから私たちは別棟の職員室へ小走りに向かいました。油断すると、すぐ時間は経ってしまいますからね。あと、この世界には腕時計はないようで正確な時刻が把握できてなかったというのも理由です。
「さてと、今日の教材はここにまとまっていて。宝石は念のためポケットに入れて......」
ブツブツ言いながら、私は一昨日散乱させた資料諸々をまとめます。中央教壇正門の時計は始業30分前を指していました。ここまでの時間を考えるとあと10分は余裕をもって準備が出来ます。教室までの移動時間は、5分もかかりませんからね。
「さて、出席簿と数学の教科書はここにあるし。木箱の中には十人分の教材もある。準備は、完了ですね!」
気合を入れるべく、自分で自分にしっかり声掛け。少しずつ、学生の皆さんと距離を縮めつつ個性を活かせる学習をサポートしていきましょう。
「先生、これも持って行った方が良いと思いますよ。体の負担が大分減りますので」
おや、シオネーさんが持っているのは腕輪でしょうか? 見たところ、小さな宝石が散りばめられていて豪華そうですね。
......おや?
「シオネーさん、別棟で別れたはずでは?」
そもそも、この人はなぜこうもアッサリ私の隣に立っているんですかね? 話しかけられるまで、気配すら感じませんでしたよ。
「先に、お渡ししようと思いまして。あと、先生は一度作業を始められると周りが見えないし聞こえないですからね。本当、背中には注意してください」
ははは、面目ない。
「ありがとうございます。して、この腕輪は何ですか?」
「先生の思った使い方で合っていますよ。月の光で魔力を充填出来ますので、寝る時は窓際に置くことをお勧めします」
......三歩先を進まれている気分です。そして、彼女の両親は何者なんですかね。こんな高価なものを私に貸し出しするなんて。
「あ、これは私からのプレゼントですので返す必要はありませんよ。所有品の中でも年代物で、在庫処分に困っていたところなので」
「は、はい。重ね重ねありがとうございます」
......
「シオネーさん、私の心理を先取りは回数を控えて下さい。心臓に悪いです」
「そうですか。善処しますね」
反応、薄いですね。流されそうな気がしてなりませんけど、まあ良いですかね。
「......善処、してくださいね」
私はこう苦笑いをして彼女を教室に送り出し、最終確認を行います。
うん、もう周りには誰もいませんよね。多分。
◇◇◇
「皆さん、おはようございます。本日からまた、皆さんと楽しく学習していきたいと思います」
教室のドアを肘などを使って私はにこやかに教室へ入ります。そして、室内を見渡し誰も欠席者がいないことを確認します。良かった。マージュさんとポロンさんも登校していますね。
「本日は、皆さんそれぞれとの面談の時間を主軸とします。面談以外の時は、こちらの数学の問題集を解いていてください。また、面談の後は希望に応じた科目の問題集もお渡ししますので、それにも取り組んで頂ければ幸いです」
段ボールから数学の問題集(10ページ)を取り出し、室内を巡って学生さんに手渡しをします。
「分からない部分は、午後に質問の時間を設けますのでまとめて受け付けます。あと、目安として10ページを設けていますが今日中に終わらせる必要はありません。あと、全く分からなかったらこちらの『参考資料』を見てもう一度考えてみて下さいね」
よし、前々から準備した資料がようやく使えます! 事前に作った内容なので、実際の授業との齟齬があったら怖いですけど。
「それじゃあ、早速面談を始めます。時間制限は設けておりませんので、皆さんは自由に話して頂ければと思います」
再び、教室全体を見渡します。よし、皆さん私かプリントに注目していますね。
「それでは、まずはカリオンさんから参りましょう。隣の予備教室にいらしてください」
彼の方に向いて、一言ご挨拶。色々考えた結果、滑り出しを良くしたくて彼にしました。
「はあい、分かりました」
軽い笑顔でカリオンさんは席から立ち上がります。
よし、これで教室の雰囲気が少し好転しますね。さあ、気合入れますよ!
◇◇◇
「さてと、おはようございますカリオンさん。休日の間に魔法陣は解かれました?」
予備教室に二人で座り、私はカリオンさんと面談を開始します。
「ええ、全部解こうとしまして......」
おや、一気にテンション下がりましたね。何かあったんでしょうか?
「はい、少々問題の量が多かったでしょうか?」
「いえ、その......」
どうしたんですかね。何かつまずいたのでしょうか?
「はい、どうしました?」
「魔法陣、簡単すぎて放課後に解き終わっちゃいました」
「なんと!?」
それは想定外。速攻で手を打たねば。
「そ、それじゃあナンプレの問題集をお渡ししますね。授業で紹介したものより難易度は高めになってますので、これなら多少は噛み応えがあるはずですよ」
「いえ、そう言う訳でもなくて......」
「?」
はて。
「もう少し、面白い問題とか欲しいなあって思いまして。ナンプレも魔法陣も、法則が分かればあとは単純作業で何と言うか......」
えーーーー。そのレベルですか?
「えーーーーと、要するにパズルよりも難しくて楽しそうな、出来れば数字とかを使うものが欲しいってことですか?」
「え、あ、はい。学校の授業だとあまり気にしなかったのですが、僕結構数字が得意みたいで」
んんんん。そーですかあ。
「分かりました。五分ほどお待ちくださいね」
私は勢いよく椅子から立ち上がり外へと移動します。
「......早速、使ってみますか」
腕輪をチラリと確認し、私は右腕を伸ばします。
「知識は時空をも凌駕し、書物は次元を超えた武器となる。今、神の導きに従い我に数多の英知と剣つるぎを与えたまえ。ゲート解放!!!」
よし、多分召喚呪文はこれだったはずです。確かに、体内の魔力が動いたのを感じました。
そして、おぼろげな記憶から元同級生が持ち歩いていた本を召喚しました。
「......よし、確かこの本は数式だらけだったはずだからな」
自分用にポケットへ入れていた数字と記号の対応表を添えて、私は予備教室へ戻ります。
「お待たせしました! 私の故郷の本で読みずらいかと思いますが、数式の対応表を付随させますので多分大丈夫だと思いますよ」
ドンッと言う重い音を立てて、カリオンさんの目の前に一冊の本を置きます。本の題名は「フェルマーの最終定理の基本」です。
「故郷の世界で親しまれている、単純な条件なのに数百年単位で解けなかった数学の難問です。これなら、カリオンさんを退屈させることはないと思いますよ!」
後から知ったのですが、この時の私は物凄く笑顔だったようです。自覚、なかったんですけどね。
「......せ、先生?」
「正直、私もこの問題に関しては理解しきれてません。しかし、ナンプレや魔法陣を余裕で解いた貴方なら一か月で理解できる範囲だと思いますよ!」
カリオンさんの詳細な能力値は、正直な話分かりません。確かに、彼は数学が非常に得意で他の教科が極端に苦手です。ただ、その数学の能力値が高校生以上レベルなのかは計り知れません。
「まあ、仮に何も理解できなかったとしても『世の中にはこんなものがあるんだな』と感じ取って頂ければ問題ありません! 今はまだ、解けなくとも今後の糧となることは間違いありませんから!」
「え、ええ。はい、読んでみます」
「是非!」
多分、私の脳内の何かが解放されてしまったのでしょう。カリオンさんの表情など目に入らずに、私は笑顔でした。
「そういえば、他に質問はございますか? 数学以外に興味を持ったとか、今後についての大まかな疑問とかもあれば今お聞きしますよ」
「あ、いえ。取り敢えずその本読んでみます。分からない文字があったら聞きますので」
そうですか。じゃあ、一段落ですかね。
「分かりました。では、ポロンさんに交代だとお伝えください。面談、お疲れ様でした」
挨拶をして、カリオンさんは教室へと戻りました。
「......何か、興奮し過ぎましたかね」
この時、私が自身の行いを反省しました。笑いながら鬼畜な参考書を渡していたと気が付いたのも、この時です。
「......まあ、カリオンさんのパワーを甘く見てしまった私の責任ですね」
何とも言えない後悔と、化学反応見たさと似た好奇心に挟まれた顔をします。
「さて、ポロンさんの資料は......」
しかし、いつまでも余韻には浸れません。次の教え子のターンがやって来ます。
「えーと、ポロンさんは元々各教科得意ですからねえ。関心を示されたのは確か......」
「先生が一番最初に紹介した『ロンゴ』と言うものですね。大昔の教科書だって仰ってましたよ」
「そうですそうでっ!!」
心臓、急停止の危機。何で、皆さん、私の、後ろから! 急に声をかけるんですかあああ!?
「先生、マージュを速攻で教壇に来させたんですね。正直、一か月はかかると思いましたよ」
淡々と、ポロンさんは私の向かいに座ります。この人、意外と図太いのですかね。
「まあ、色々と精進しましたので」
「そうですか。なら、良かったです」
笑顔のポロンさん。そこには何も裏の想いは含まれて無い様に見えます。
「で、私へのカリキュラムはロンゴ以外にもあるのでしょう?」
「ええ。貴方の進行状況に応じて随時出していくつもりですよ」
「じゃあ、その予定されてるヤツ全部出して下さい」
と思ったのも束の間。その笑みに重たい感情がのしかかります。
「ぜ、全部ですか? そこまで急がなくとも、問題ありませんけど」
「全部、学びますよ」
ずいっと、彼女が迫ります。この目、前に見ましたね。
「貴方に、実績をプレゼントしますよ。そして、私はその先へ行きます」
「は、はい」
「私を、使いこなして下さい。それが、マージュを登校させる対価なんですから」
これはまた、別の意味で大型の課題となりましたね。まあ、やる気はありそうなので思いっきりやるのもありかもしれませんね。
「......分かりました。では、少しお待ちを」
舌なめずりをして、私は再び外に出ます。この時点で、私の脳内は数多の本の記憶で埋め尽くされました。
各キャラに眠る才能などを、出来るだけ細かく描写していきます。
もう少し先まで進みたいですね。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*- -)(*_ _)ペコリ
里見レイ