第一話:要は、軽い戯言のせいで異世界に飛ばされたって話です
連載は、かなりお久しぶりですね。
「......はい、それでは今週の宿題を配ります。再三申し上げている話ではありますが、一人一人に別々の宿題を配布しておりますので丸写しは出来ませんからね」
こうして、いつもの週末が訪れます。世間にとっては、嬉しい連休に突入する訳です。しかし、私にが連休を過ごせるかどうかは今からが頑張りどころではあるのですけど。
「センセーイ! ここ教えて~!」
そう思っている間にも、第一の関門が地面から立ち塞がります。
「......マージュさん、毎度申し上げますが苦手科目を速攻で私に聞きに来るのは控えて下さい。せめて、同級生の方に聞くところから始めて下さい」
背中から漂う柑橘系の香水。彼女の家の近所から取れた果樹より作ったのでしょうか。
「でえもお! センセイが一番教えるの上手いし優しいんだモーン! アタイも宿題早く終わらせたいカラァ、付き合ってよオ~」
「はいはい、それじゃあ軽いおさらいを含めて特別授業を行いましょう。良いですか、マージュさん。ゆっくりでも良いので自分で問いを答えてみて下さい。間違えても構いません。大事なのは、自分で考えて、自分の力で挑むことなのですから」
聞き慣れた世辞は、私にとって補修開始のチャイムと同義。近くの机を二つ用意し、一対一の放課後学習に取り掛かります。
「やったー! センセイ愛してる~♪」
「そうですね。それでは、今日やったの部分から始めましょうか。今回紹介した算術は、私の故郷だと鶴亀算と呼ばれるもので、限りある情報からその大元の数を推測する算術ですね」
こうして、私の放課後が幕を開けるのです。
◇◇◇
「センセイ、あんがと~。またライシュウネ~」
特別授業が終わったのは、それから一時間半後でした。まあ、今回は早い方でしょう。
「ええ、お疲れ様でしたマージュさん。気を付けてお帰り下さいね」
取引先の方と飲み会をした後のサラリーマンとは、こんな気分なのでしょうか。足元のおぼつかない彼女を見送り、私は別棟の職員室へと向かいます。約束の時間まで時間もありますので、一回作業を......と思いましたが今日は第二の関門もあるようです。
「先生、チェスの相手をお願いします。今日こそ、負けません」
職員室の前には、チェス盤を持って現れた少女。彼女もまた、私の教え子です。
「おや、ミネルヴァさん。チェスですね。1ゲームなら、構いませんよ」
そして、毎週一回のペースで私にチェスの決闘を申し込んでくる相手でもあります。転移前にチェスをしていて良かったと思いつつ、毎回冷や汗をかく瞬間です。如何せん、彼女に一度でも負けたら大変ですから。
「では、勝負です......」
彼女の殺気が廊下を通り抜けます。緊張が口から溢れ出しそうな私ですが、勝たなければ。
「......お願いします」
彼女を職員室内部の机に案内し、互いに着席。チェス盤をセットして、一礼をします。絶対に、負けられません......
◇◇◇
「......また、私の負けですね。先生は、やはりお強い」
「いえいえ、この短期間の間にこの成長は凄まじいですよ。このままでは、来月には私が負けてしまいますね」
今回も、私が勝利しました。しかし、追い抜かれるのも時間の問題です。
「......そうですか。それでは、来月を楽しみにしますね。それじゃあ先生、お疲れ様です」
「はい、ミネヴァさんもお疲れさまでした」
脳みそは、オーバーヒート寸前。毎度のことながら、彼女の攻めは鋭くて対処が一苦労です。
明日辺り、私もチェスの訓練をしなければなりませんね。
「......ふう」
一息つきます。約束の時間の三分前なので、第三の関門に備えなければなりません。
そして、丁度三分後。毎週恒例の課外授業の開始が、ドアを開く音により告げられます。
「先生! 本日も稽古お願いします!」
「おや、ポロンさん。今日も時間ピッタリですね。先週のお話ですと、二本の剣を使用した剣術の型について新しい見解があるとのことでしたよね?」
教室にいる時とは打って変わったラフな格好で、浅黒い肌にポニーテールの少女が現れます。
「はい! 是非、先生がご存じの剣術の範囲から助言を頂ければと思います!」
されど、教室にいる時と気概は変わりません。そのストイックさは、服装で誤魔化せるレベルを超えております。
「分かりました。それでは、今日は私の故郷で最も有名な剣術書『五輪書』から二刀流について解説致します。恐らく、ポロンさんの抱く疑問に関してもヒントがあるはずです」
私は、朝方用意しておいた故郷の兵法書の解説本を彼女に見せます。昔読んだことのあるものなので、そこまで手まではありませんでした。
「はい!!!」
威勢の良い返事と共に、彼女が縮地を使用したような速さで距離を詰めてきます。そして、興奮しつつも甘い吐息が聞こえてきます。
「この書物によると、そもそも剣を二本同時に動かすことは非効率と言われておりまして......」
私の今週最後の授業が始まりました。こうして私が教師をしているには、色々と理由が存在しますので、最初から順序立てて説明させて頂きます。
◇◇◇
それは、今から2ヶ月前まで遡ります。私、火坂ロメテスは日本人の家系にギリシャ人の祖父の血が入ったクオーター。都内では、一応進学校に通っている高校三年生ですね。しかし、当時の私はあまり気分が良くありませんでした。
「......つまらない」
勉強机から目を逸らし、ベッドへ体を委ねます。正直、受験勉強に嫌気がさしておりました。
受験生なら誰でも思う内容です。しかし、私には落差が大きかったとだけ語っておきます。
「......大学って、ここまで辛い思いをして行くトコなのかな」
この疑問が、私の頭をよぎったのです。学歴として職業選択の幅は広がることは確かですが、楽しくない勉強が嫌でした。それだけです。
「......何処かに、学歴のいらない社会はないかな。けど、昔は身分で職業選択だしまだマシなのかなあ」
戯言です。隣の芝生は青く見えます。傍から見れば、受験勉強を「したくない」で悩んでいるのは大変贅沢な身分なのでしょう。
「......何処か、行きたい」
そう呟いて、しまったのです。本心ではありつつ、本音ではなかったと思います。すると、何処からか声がしました。
『何処かへ行って、お前はどうしたい?』
「......?」
『何処かへ本当に行けるとして、お前はそこで何を求めるのだ?』
「あ、えーと」
冗談めいた幻聴だと思いつつも、咄嗟に周囲を見渡します。そして、答えを決めました。
「本を、沢山読みたいです。あとは、今のまま就職しても生活できるくらいの収入があれば......」
我ながら、妙に生々しい。まあ、夢ってそんな感じでしょう。
『......まあ、良いだろう。多少苦労するとは思うが、概ね叶えて進ぜよう』
「?」
『転移魔法、詠唱開始......』
「......???」
そして、私が物事を認識した数秒後には、私はベッドの感触を失っておりました。
えーーと、手動投稿にしようと思ったらドタバタ書いて、投稿時間が遅れてます。
この話は、私なりに異世界ものでの答えを出したいと思って書いた作品です。王道ジャンルに私の書きたいものを上手く調合したらどうなるかって感じですね。
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里見レイ